計画…

〈ユメノ視点〉









「・・・はぁ… 」





お寺の掃除をしながら

昨日の事を思い出しては

手を止めてタメ息を繰り返していた






( ・・・・・・ )






アオシ「計画失敗でご機嫌ななめか?笑」






おじさんの声が聞こえ

パッと顔を上げると

意地悪な笑みを浮かべ

腕組みをしてコッチを見下ろしている






「・・・計画って…わけじゃ…」





アオシ「オヤジ達を寺から追い出して

   何か企んでたんじゃないのか?笑」






「・・・・・・」






おじさんは知っていたようで

昨日の夜から機嫌良くずっと笑っている…






昨日の夕飯後に…

お義父さん達に温泉チケットを渡したら…






母「私と…住職に?」





父「もう住職ではない

   いい加減呼び名を変えなさい」





母「あっ…はい…すみません」






お義母さんは本当にお義父さんには

頭が上がらないみたいで

口を開けば謝ってばかりだ…





でも…なんか…

可愛いかも??





いつもの小言ばかりのお義母さんが

口にさっと手を当てて「あっ…」と慌てる姿は

嫁の立場の私には中々見せない姿で

なんだか可愛く見え「ふふ…」と笑っていると

「ヘラヘラ笑うな」と隣りから

低い声が聞こえムッとしながら

おじさんを見上げた





( 夜は甘いのに… )






おじさんは二人っきりの時には甘くなる癖に

外やお義母さん達の前では

前の様に目を細めてコッチを見てくるし

意地悪なおじさんになる…





もし…一日中お寺で二人っきりになれば

居間でも庭でも甘々になるのかなと考え

この温泉チケットが更に有難い物に見えてきた






( ・・・1日だけの新婚さんかぁ…笑 )






なんて頭の中で浮かれていると…

「じゃあ…どなたかと」とお義母さんが

お義父さんにチケットを寄せて言いだし

「えっ?」と思わず大きな声がでた






「だっ…ダメです!

 お義父さんの奥さんはお義母さんなんですから!

 お義母さん以外の誰と行くんですか!?」






まさか飲み屋のお姉さんでも連れて行くのかと思い

テーブルに手をついて身を乗り出しながら話すと

「田村さんなんてどうです?」と

お義母さんは私の話なんて聞かずに

お義父さんに顔を向けて誰だか知らない

田村を進めだした…





田村って誰よ!?

そんな誰だか知らない相手の為にあんな…







「田村さんはいいんです!

 私は、住職のお勤めを終えたお義父さんと

 お義父さんを支えてきたお義母さんの二人に

 ゆっくりと温泉に行って来てほしいんですッ!」






テーブルをバンッと叩いて

大声でそう言うとお義母さんとお義父さんは

少し驚いた表情でコッチを見ていて

隣りからは小さく「フッ」と笑う声が聞こえて来た






アオシ「田村さんは古くから付き合いのある

   檀家の一人で…男だ…笑」






「あっ…あー…そう…ですか…」






服を軽く引っ張られ

おじさんが私に腰を降ろせと言っているのが分かり

「すみません」と言いながら

興奮して浮いた腰を下ろして

目線だけをチラッとお義父さん達に向けると

テーブル上にあるチケットを見ていた





父「・・・日程は任せる」





母「えっ?」






お義父さんは腕組みをしたままそう言うと

お義母さんに「決めなさい」と顔を向けていて

やっぱり、おじさんのお義父さんだなと思った





あまり喜怒哀楽や

感情の変化を大きく見せないし

サラッと歩く姿とか似てるかもと思っていたけれど

こんな風に分かりづらい優しさを見せる所とかが

そっくりだなと感じた




最初こそはクソジジイなんて思っていたけど

すごくカッコイイお父さんだよね…





うちのお父さんと違って

メタボじゃないし…

寒いオヤジギャグも言わないし…





お義父さんも二人っきりの時は

甘くなるのかな…






母「はい…じゃあ…秋過ぎ辺りにでも」






「・・・・・ぇっ…」






母「夢乃さんが坊守に就任するまでは

  私が今の住職の、このお寺の坊守ですから

  ココを離れられませんので

  秋過ぎにまた日程を組んでみます」






「・・・・秋…過ぎ?」






予想外の流れに

頭にズコーンと重りが乗った気分になった…






( ・・・・秋って… )






アオシ「良かったな?

  予定通り二人で行ってくれるらしいぞ?笑」





「・・・・・・」






唇を尖らせたまま

顔を手元の雑巾へと戻して

お寺入り口の段差を拭きだすと

「そんなに残念か?」と

笑って近づいてくる足音に

グッと眉を寄せて「おじさんは平気なの?」と

問いかけてみた






お義母さんはきっと…

私が坊守に就任して直ぐに

温泉に行ったりはしない…




多分…10月末か…

11月辺りになる筈だ…




今はまだ4月だから…

半年以上は…そういう事だろう…







アオシ「・・・・・・」






「・・・・半年も…一緒に寝れないんだよ…」







女の子がグイグイなんて…

はしたないし…

やっぱりイマイチ可愛くない気がする…





でも…

恥ずかしくて…

カッコ悪くても…

おじさんとの甘い時間が欲しいんだもん…







アオシ「・・・俺は婚礼の義までだと言った筈だ」






「・・・・・・」






手を止めて顔をもう一度おじさんに向けると

腕組みをした手をスッと解いて

膝を曲げて私の目線に顔を合わせ

「7月だ」と言ってきた






アオシ「遅くても7月には上げるぞ…祝言」





「・・・・・・」





アオシ「それ以上は俺も待つ気はねぇからな」






おじさんの手が私の顔に伸びてきたから

ここでキスをするのかと思い

胸がドキッとした瞬間グニっと口の両端を掴まれ

「だからさっさっと練習しろよ」と言って

意地悪な笑みを浮かべるおじさんに

いつもみたいに「もうッ!」や

ムッとした表情を向ける事なく

「・・大好き…」と口からこぼれ出ていた…







アオシ「ふっ…お前の家族に挨拶しなきゃいけねぇし

   日取りや招待状…

   やる事は沢山だぞ?」







「大丈夫だもん!

 全部7月までに完璧に準備する…笑」







この日の夜から…

おじさんとの35分間の甘い時間が終わると

私も自分の部屋で坊守になる為の作法や

お寺用語の勉強とは別に…

私たちの結婚式の準備も始めた…













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