説教を…

〈アオシ視点〉










アオシ「・・・・・・」






車のドアをバンッと閉め

眉間のシワを指で押さえながら

「はぁ…」と重いタメ息を溢して

寺の方へと足を向けると

「タマちゃんそっちはダメよ」と

夢乃の声が聞こえ

また鶏を連れて寺に来てるのかと

歩く足を止めて

自分の腕をグッと腕組みし

沸々と感じる苛立ちに目を閉じた





( ・・・・・・ )






きびすを返して母屋の方へと歩いて行くと

庭にはいつもの様に足袋が干してあり

2羽の鶏が各々おのおの自由に過ごしていた





1羽だけ連れて行ったのかと思い

さっき翔から聞いた話を思い出しながら

草履をかかとから地面に降ろし

グッと体重を乗せて

一歩一歩、歩いて行くと

足袋の隣りに俺の枕が干されているのが目に止まり

夢乃が掃除をする時に何か溢したかと

見上げていると

「あら、戻ったの」と台所からお袋が出てきた







母「今日は早かったのね」






アオシ「・・・・あぁ…」







何故ここ最近商店街の連中が

俺にあんな目を向けていたのかが分かり

早足でお参りを終わらせて帰って来たなんて

言えるわけがねぇ…






アオシ「・・・・・・」






夢乃が持っている宿の招待券の事を

もう知っているのかと思い

お袋に顔を向けたが

「どうしたの」と何も知らない様で…





お袋達に券を渡す前に

なんとか取り上げて

檀家の誰かにくれてやろうと考えていると

「あら、枕干したままね」と言って

俺がさっき見上げていた枕へと近づいて行き

取り込み出した






アオシ「・・・・・・」






目には枕を手に取るお袋の姿が映っているが

頭の中では今回の件を

どう夢乃に説教しようかと考えていると…






母「何…初めて知ったの?」






俺が枕をジッと見ていると勘違いしたお袋は

太陽に照らされていた枕をパシパシと軽く叩いて

部屋に持って行きながら

「毎日気持ちいいでしょ」と言ってきた






アオシ「・・・は?」






母「就任式から後は…

  毎日、日干ししているわよ」






アオシ「・・・・・・・」






母「布団もよく干しているけれど

  買い出しとかお寺の掃除もあるから…

  枕だけでも毎日干したいって言っててね」






アオシ「・・・・・・」







気付きもしていなかった…

例え毎日干していなくても

多分気づかなかった…




俺の部屋から枕を持ち出して

セコセコと毎日物干し竿に枕を干している

夢乃の姿が想像出来てしまい





「バカな奴だな…」と小さく呟いて

吊るされている足袋に目を向け

不細工な留め具の縫い付けに

「下手くそ」と呟きながら笑った






夕飯を食べて風呂を済ませてから

いつもの様に読経をしていると

襖の前の影が小さく動き

夢乃が外で待っているのが分かり

読むのを辞めて襖に顔を向けていると

中の様子を伺う様に

そっと襖を開けてきた





アオシ「・・・・・・」





「あっ!…終わった?笑」






首を傾けてそう言うと

いつもの様におぼんに茶を乗せて

俺の隣りに腰を降ろし

「はい、どーぞ」と湯飲みを差し出している…






アオシ「・・・・・・」






オヤジ達の前で怒鳴るわけにもいかず

部屋に来た時に話そうと待っていたが…





「ねぇ、ねぇ、夕飯の時気付いた?笑」






アオシ「・・・・・・」






「お義父さんがマルちゃんの事

  名前で呼びそうになってた事!笑」






そう笑って話しだした

夢乃の顔を見ながら

湯飲みを手に取り熱いお茶を喉に落とした





( ・・・・・・ )






「ふふ…」と楽しそう話す夢乃を

崩した足の間に抱き寄せると

唇をモゾっと動かし

恥ずかしいのか顔を赤くして

テーブルに置いてある教本に手を伸ばした






「いつも読んでるこれ…

  アコーディオンみたい…笑」






折り本を広げて「ふりがなないの?」と言うと

「じゅ…じゅげん?」と出鱈目でたらめな読み方をしだした

夢乃の顔は眉を少し寄せて真剣な様で…

その顔を見下ろしながらまた茶を喉に落とした





「ん?…コレは?なんて読むの?」






顔を少し反らせて

コッチを見上げて来た夢乃の

額に自分の唇を当てると

少し固まった後に「よっ…読んでるのに」と

怒ってもいないのに唇を尖らせて

ぶつぶつと言い出し

無碍むげだ」と夢乃が読めなかった漢字の

読み方を教えてやりながらまた夢乃のこめかみ辺りに

キスをすると小さく身体を揺らし

手に持っている教本をテーブルに置くと

上体をコッチへと向け俺の首に腕を伸ばして

甘えようとしているのが分かり





「ギュってして…」と言う夢乃の腰を抱き寄せ

顎を少し持ち上げていつもよりも深いキスをすると

「ンッ…」と小さく声を漏らし

俺にしがみついてきた…





俺と夢乃のプライベートな時間は

ある意味この35分だけで…




少ない、二人だけの時間に

説教をするのはやめにした…







ショウ「いや…あんまり真っ赤になって可愛かったからさ

   ちょっと助けてやりたくなって?笑」




 



( ・・・・分からなくもないか… )







俺の腕の中で「まだダメ…」と

離れた唇をまた寄せて

キスをねだってくる夢乃を抱きしめながら

説教は明日の朝にしてやると思っていたが…






「あっ!ほら、パパも起きてきたわよ?笑」





アオシ「・・・・・・」






薄暗い庭で鶏達と一緒にいる夢乃に

話をしようと近づいて行くと

またあの変なママゴトを始め出し

「タマちゃんはニーコに似てママ派なのね」と

夢乃の後をついて回る鶏に笑いかけている






アオシ「・・・・おい…」






温泉チケットを渡せと言おうと思い

声をかけると「ん?」と機嫌良く

笑って振り返る夢乃の周りには

3羽の鶏が立っていて…






「どーしたの??」





アオシ「・・・・朝飯…早く作れよ…」






まるで…夢乃ははおやを守る様に

コッチを見ている鶏達の目に

何となく耐えきれなくなり

腕を組んだまま寺の方へと歩いて行った…










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