〈ミツタロウ視点〉








暇だなとアクビをしながら

店先に顔を向けると

翔と夢乃ちゃんが歩いているのが見え

ガタッとパイプ椅子から立ち上がって

店の戸を勢いよく開けながら

「どーしたの?」と夢乃ちゃんに声をかけた






夢乃ちゃんは顔をコッチに向けて

「こんにちは」と頭を下げると

キョロキョロと顔を後ろに向けていて…






( ・・・なんか…あったのかな… )






なんで翔と?と問いかけようとすると

「人妻と内緒のデートだよ」と

右手をニョキッとピース型にして差し出し

ニシシと笑っている顔に

軽い苛立ちを感じながら

バカな事言ってんじゃねぇよと

翔の肩を叩きながら言うと





「・・・・ッ!?」





俺の言葉に夢乃ちゃんがパチッと目を見開き

直ぐに嬉しそうな顔をした事に驚き

「へ?」と翔の方に顔を向けると

「おやおや」とニヤついた翔が

夢乃ちゃんを見て笑っているから

「おい!」と肩を掴んで揺らした





まさか、本当に何かあるわけじゃないよなと

翔の目をジトッと睨むように見ると

翔は両手を上げて「福引に来たんだよ」と笑い出した






ミツタロウ「福引??」






眉を寄せてそう問いかけると

翔は笑って夢乃ちゃんを指差していて

差した先にいる夢乃ちゃんに顔を向けると

福引のポスターを食い入る様に眺めた後に

「良かった!まだある!」と

嬉しそうに目を細めて笑っている






( なんだ…本当に福引か… )






夢乃ちゃんは俺たちよりもだいぶ年下で…

見た目はもちろんだが…

中身もやっぱり可愛くみえる




商店街の福引が珍しいのかな?

こんな風に福引に喜んで来るのは…

30〜40代の主婦や年配者だけで…

景品が大人向けな事もあり

近所の子供達も大して興味を示さない…





ミツタロウ「どれが欲しいの?」






こんな小さな街の福引のイベントに

夢乃ちゃんみたいな子が

喜んで参加してくれるのは

商店街で働いている俺としては

やっぱり嬉しくて

腰を曲げて夢乃ちゃんに目線を合わせて

お目当ての物を問いかけると…






「ふふ…内緒です」






ミツタロウ「・・・・・・」






口元に人差し指を当ててそう言うと

恥ずかしそうに笑い…



大事そうに手に握っていた補助券に

チュッと音を立ててキスをし

今回の福引の役員をしている

和子おばちゃんの所へと駆け寄って行った






父「蒼紫は…お前ッ…今頃お盛んだろうなーッ!笑」






昨日の夜…

オヤジが晩酌をしながら

段々と酔っ払っていき…

最後の一本を開ける頃には

スケベオヤジ全開の事を口走っていて




蒼紫はそんな奴じゃねーよと…

呆れてきいていたけど…






( ・・・・なんつーか… )






ショウ「蒼紫の奴…毎晩大変だろうな…笑」






横からボソッと聞こえた声に

パッと顔を向けると

酒も飲んでいない翔が

昨日の酔っ払ったオヤジと同じ様な顔をして

夢乃ちゃんを眺めていて

言っている意味も…

何となく分かり…同調していた…






( ・・・あれが…奥さんかぁ… )






麗子の家と色々あって

今も、もめている噂は耳に入るし

寺としては大変なんだろうが…




帰った先に毎日夢乃ちゃんがいて…

毎晩…同じ家で寝泊まりしていると思うと

羨ましく感じた






父「夢乃ちゃんはな!

  かわいいんだよッ!分かるか?

  顔だけじゃねーよ…

  素直だし、そこいらの女みたいに

  他所よその家の事をベラベラと話さねーし

  隙が有るのに隙がねーのかいいんだよ!」






ミツタロウ「あるのか無いのかよくわかんねーよ…」







酔い潰れる前にオヤジがテーブルを叩きながら

夢乃ちゃんについて力説しだし

散らばっていた空のビール缶を集めながら

適当に聞いていた…






父「女はな!多少の隙があってこそ可愛いんだよ!

  ガチガチ、キツキツじゃ可愛げがねぇ…

  口がたつ女なんて…ろくなもんじゃねぇからな!」






ろくなもんじゃねぇの時には

顔を強く横に振り…

今風呂に入っている母ちゃんや

近所のおばさん連中の事を言っているのが

何となく分かり俺も「あぁ…」と小さく頷いた



 



父「あと!いらねー隙を見せるな!

  突き出た腹や垂れ下がった肉…

  肌着同然の服で朝のゴミ出しをしたり…

  挨拶する前からアクビを零してやがるし

  人前で尻だの腹だのかいて…」






ミツタロウ「・・・・・・」







オヤジの言った内容は…

この商店街中の女子が皆んな当てはまっていて

亜季達もスエットにサンダルで

「あっ!みっちゃん、おはよう」と

ボサボサの髪であくびをしながらよくゴミをだしている





夢乃ちゃんはいつも…

可愛く整えられていて

オヤジの言う私生活感のある隙を

あまり見せない気がした…






父「満太朗…嫁はな…選び間違えるな…」






妙に…説得力あったな…と

昨日の事を思い出していると

中々福引が出来ない夢乃ちゃんは

自分で補助券を数え出していて

こんな所はまだ幼さの見える可愛さだなと

後ろから笑って見ていた






「回しますからね!ねっ!!」

そう言ってガラガラと音を立てて機械のハンドルを

回している背中を見ながら

何が欲しいんだろうと考えていると…






翔「・・・・おっ!!」





カズコ「・・・あらッ!?」






カランカランと和子おばちゃんが

鈴を鳴らしながら「当たりだよ」と声を上げだし

夢乃ちゃんは「ホント?ホントにホント??」と

飛び跳ねて喜んでいで

そんなに欲しかったのかなと

笑いながら手を叩いていると




一等の最新型炊飯器を見て

夢乃ちゃんは目をパチパチとさせて固まり

俺と翔は「ん?」と顔を見合わせた





ショウ「炊飯器じゃなかったの?」





「いえ…あの…」





夢乃ちゃんは服の裾をモジモジと握り

「おん…温泉かと…」と

特商の温泉チケットを指差しているが…





( ・・・・炊飯器の方が…いいよ? )





多分ココにいる全員がそう思って

首を傾げていている…






なぜなら…

夢乃ちゃんが当てた一等の炊飯器は

最新式の物でめちゃくちゃ高い…




一方…

夢乃ちゃんが欲しがっている

温泉チケットは…

車で1時間ほど行った場所にある

温泉宿で…

温泉は温泉だが…






ショウ「・・・・二人分の宿泊費足しても

   炊飯器の方がよっぽど高いよ??」






そう…そんなにお高い宿でもないし

断然炊飯器の方がいい…






「あの……でも…」






唇を少し突き出して

裾をグニグニといじる姿は…

子供そのもので

さっきの「内緒です」と微笑む姿とは

だいぶ違って見える…






ショウ「・・・蒼紫と行きたかったの?」






俺もそうなのかなと思い

夢乃ちゃんの方を見ると

顔を赤くして「いえ…あの…」と

モジモジとした後に小さく

「お義父さん達に…」と呟いた…






ミツタロウ「・・・・・・」






カズコ「・・・前…住職?」






ショウ「あっ!あぁー!!ハイハイ!笑」






翔が手を叩いて笑い出し

「お義父さん達にね!」と言って

ニヤニヤとして夢乃ちゃんを見下ろすと

夢乃ちゃんは耳まで真っ赤にして

恥ずかしそうに顔を下げている





ショウ「ヤバイ!面白いな!」





ミツタロウ「はっ!?」






翔は夢乃ちゃんに「ちょっと待ってて」と言うと

スマホを取り出して電話をかけ出し

「米在庫ある?届けるよ」と何件かに電話をかけ出し






ショウ「満太朗、米を40キロ買うよ」






と言って補助券くれよと

手を差し出している翔に

「なるほどな」と笑いながら

補助券の束を渡すと

「さっ!何回、回せるかな」と言って

夢乃ちゃんに補助券を渡してあげていた





「いいんですか!?」





ショウ「いいの、いいの!!

   さっ当てなきゃね温泉を!笑」






夢乃ちゃんは目をキラキラとさせて

福引を回し…結果は…全滅で…




翔が道行く知り合いに次々と

「補助券余ってません?」と声をかけだし…





何の為に夢乃ちゃんが福引をしていて

何を当ててをしたいのか…

商店街中がうっすらと気づいていた…






ショウ「住職に成り立ての蒼紫は寺から

  離れられねーからな!笑

  そりゃ…父ちゃん達に出て行ってもらわなきゃな!笑」






ミツタロウ「・・・・・・」






炊飯器を翔にどうぞと差し出した夢乃ちゃんは

温泉チケットを胸に抱きしめて

幸せそうに寺へと帰っていき

それを見ながらゲラゲラと笑う翔に

冷めた視線を送っていた





翔が声をかけまくったおかげで

夢乃ちゃんは念願の温泉チケットを手に入れたが

商店街中…蒼紫のおじさん達が居ない日の夜に

何が行われるのか皆んな知る事になった…






アオシ「何かあったのか?」






夕方過ぎに店の前で会った蒼紫に

言えるわけがなく…



必死に作った笑顔で

早く帰った方がいいぞとだけ伝えた…







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