パパ…

〈アオシ視点〉









( ・・・・なんだ… )






商店街の連中や周りから

ニヤついた顔で見られる事が多くなり

まだ就任式での事で変な噂が広まっているのかと

不思議に思いながら歩いていると

「若住職」と嫌な声に呼び止められ

口の端を少し上げて振り返ると

商店街1の噂好きな檀家のおばさんが立っていた






カズコ「今日も相変わらず良い男だねぇ」






近づいて来て俺の背中や肩を触りながら

「大きくなって」と話す酒屋のおばさんの顔も

いつもよりもニヤついている…







「商店街のおばちゃん達に油売ってないで

  パッパッと帰って来てよね!」






アオシ「・・・・・・」






「おばちゃんだってね

 何歳いくつになっても女なんだから

 ベタベタと身体を触らせないで!」







前に帰宅時間が朝伝えた時間よりも

20分程遅くなって家に帰ると

腰に手を当てて不貞腐れた顔で出迎えた夢乃に

「何してたのよ」と言われ

お参り帰りに商店街で呼び止められた話をすると

片方の眉だけをピクピクと吊り上げて

「またあのおばさん達…」と

怒り出していた事を思い出した



 



( ・・・・・・ )






夢乃アイツは鶏といい…

目の前の60を過ぎたおばさんといい…

手当たり次第にヤキモチを妬いていくなと思っていると

「お寺じゃ…実家だしねぇ」と耳元で囁かれ

ゾクリと寒気を感じながら「はい?」と

酒屋のおばさんに顔を向けると






カズコ「多少気を使うわよね」





アオシ「・・・・・・」






また夢乃が何かしでかしたのかと思い

「はぁ…」と様子を伺っていると

「蒼紫!」と向かいの店から満太朗が出てきた






ミツタロウ「あー…今帰りか?笑」






アオシ「・・・・・・」







満太朗の苦笑いの表情に

夢乃が何かしたのは確実で

少なくとも商店街の連中皆んなが

何かを知っているんだと分かった…






( ・・・アイツ…何しやがった… )







数日前から一緒に眠るのを止めて

最初こそ不貞腐れていたが

その日の夜からは

毎日35分間だけ俺の部屋へと来て…






「ピーコがついに私に懐いたのよ?笑」






アオシ「トウモロコシをやりゃついて来るからな」






「違うもん!

 トウモロコシは使ってないもん!」







その日の鶏の話や

昼間来た来客の事なんかを話して行き…






「・・・・・・」






時間になると必ず

俺の手を握ってキスをねだってくる…







( ・・・昨日もいつもと変わらなかったが… )






満太朗は「早く帰った方がいいぞ」とだけ言い

寺にいる夢乃に何をしでかしたんだと

呆れながら早足で寺へと向かった





一緒に寝なくなった事を

話して歩く程バカではねぇだろうし…

他に何かあったか…





車から降りて母屋の方へ行こうと

足を進めていると寺側の方から

鶏の鳴き声が聞こえた気がして足を止め

しばらく立ったままでいると

また鳴き声が聞こえ

放し飼いの一羽が寺に迷い込んだのかと思い

寺の方へと向かうと

寺の前にある広間に

夢乃と俺が買い与えた鶏がいた






「ふふ…ちょっとは落ち着きましたか?笑」






鶏の隣りにしゃがんで

揶揄う様に話しかけている夢乃の顔は

優しく笑っていて

まるで…鶏の母親みてぇだなと見ていると

「パパの職場が見たくなったの?」と

夢乃が口にした言葉に

口を小さく開けて固まった自分がいた…






( ・・・・誰が鶏の父親だ… )






夢乃はあの鶏が

赤ちゃん返りをしていると言ってみたり

新しく来た2羽を双子だと言ったり…




相変わらず鶏を家畜だとは見ておらず

最近じゃペットでもなく

母親気分らしい…






アオシ「・・・俺には鶏にしか見えねぇぞ…」






よく照れるだのヤキモチを妬くだの

鶏に表情があるみたいに言っているが…

いつ見ても同じ顔にしか見えねぇ…






「タマちゃんとマルちゃんにヤキモチ妬いたの?笑」






( ・・・エサの取り合いでもしたか? )





夢乃のママゴトに呆れた笑いを溢しながら

手の中にある車の鍵を眺めていると

「ピーコは…特別な子なのよ」と

また聞こえてくる話声に耳を傾けた






「ピーコは…パパが連れて帰って来たんだから!笑」






アオシ「・・・・・・」






「パパがママの為に連れて帰って来てくれたんだから

 ピーコは私達の大切な子よ?

 だから妹達にヤキモチなんて妬かないでよ…笑」






顔を夢乃達の方へと向けると

足を畳んで不貞腐れた様に座っている鶏の

背中を人差し指で優しくつつきながら

笑っている夢乃の姿が見え

「パパじゃねぇ」と小さく呟き

もうしばらく夢乃のふざけたママゴトを眺めていた








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