35分…

〈ユメノ視点〉










( ・・・・あっ!終わった! )







お経が終わったのが分かり

もう一度読み出す前に襖を開けて中へと入り

「はい、休憩タイムですよ」と

おぼんに乗せて持って来た

お茶をおじさんの前に差し出すと

「よく分かったな」と驚いていた






「毎日聞いてれば終わりの句ぐらい覚えるわよ」







そう言っておじさんの隣りへと座り

「マルちゃんがね」と

今日のお昼にあった事をおじさんに話出すと

お経の言葉が書いてある本をテーブルへと起き

私が持って来たお茶を飲みながら

「今日はまる子か」と笑っている






「ちょっと…勝手に〝子〟をつけないでよ!」





アオシ「は?」





「マルちゃんなんだから…

 マルちゃんか…マルって呼んで!」






アオシ「前からいるヤツもその前のヤツ

  全部〝子〟だったろうが?」






「ピーコとニーコはいいの!」






そう言うと

おじさんはピクリと眉を動かして

「どんな名前の付け方してんだ」と

呆れた顔で見てきたから

ピーコはひよこでピヨピヨ泣いていたからだと

説明すると「今回の奴等は何だ?」と言ってきた







アオシ「マルマル太ります様にか?」






「もうッ!違う!

 丸い卵から産まれてくるから

 マルちゃんとタマちゃんなのッ!」







「なんだそれ」と笑うおじさんに

胸の奥がキュウと掴まれた様な感じがして

湯飲みを持ってない方の手に

自分の手を重ねて「それでね!」と話を続けた






( ・・・・もう30分経っちゃった… )






時計に目を向けると

あっと言う間に時計の針は進んでいて

飲み終わってる湯飲みをおぼんに乗せて

繋いでる手に目線を落とし…






「・・・・・・」






アオシ「・・・・・・」







明日の朝にはまた会えるし

同じに家に一緒に住んでいるから毎日会える…





( ・・・・でも… )





夜こそずっと一緒にいたい…

例え背中を向けてお経を読んでいても

同じ部屋の中に一緒にいたい…





「・・・・また明日の朝ね…」






そう口で言いながらも

手を離せずにいると

「40分にするか?」と頭の上から

降って来た言葉に「えっ…」と

おじさんに顔を向けると

渋い緑茶の味が口に広がり

あの日以来のおじさんからのキスに

目を閉じて渋くて甘いキスを感じていた





帰って来た日…

私の耳元に捧げられたあの言葉は

夢なんかじゃなくて…





キスも甘い言葉も中々くれないおじさんに

不貞腐れたりもするけれど…






( ・・・大好き… )






角度を変えて何度も重なる唇に

朝まで続けばいいのにと思ってしまう…




でも…

おじさんは読経の途中だし

私が部屋から出て行った後に

また読み出す筈だから

チュッと小さく音を立てて離れた唇に

寂しさを感じながらも

おじさんの目を見上げて

「早く寝てね」と伝えてから手を離した





「おやすみなさい」と部屋を出てから

おぼんに乗った空の湯飲みを持って

台所へと行き…





「明日の買い出しは…」と

冷蔵庫の中身をチェックしだし

買い足す物をメモに書き込みながら

カレンダーに目を向けた…






「あと…1週間か…」






福引の締切は1週間後で

買い足す物もそんなにないしなと考え

ピーコ達のご飯の袋を覗き込んで

「買い溜めかな」と呟いた…






一粒…甘くて美味しいチョコレートを

口に入れてしまえば

次が欲しくなるのが女の子よ…






さっきの甘いキスを貰い…

私の欲はドンドン加速していき

絶対に特商の温泉チケットを当ててやるんだからと

夜の台所で小さく意気込んでいた














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る