結婚までは…

〈ユメノ視点〉










朝ごはんの片付けを終えて

庭で洗濯物を干していると

ジャリッと草履が小石を踏む音が聞こえ

顔を向けると私の突き出た唇を見て

頬をピクリと引き攣らせた

おじさんの顔があった…






「・・・・フン…」






アオシ「・・・・・・」






聞こえるか聞こえない程度に鼻を鳴らして

顔の向きを洗濯物に戻すと

後ろからタメ息が聞こえてきて

私の不貞腐れた顔におじさんが困っている事も

呆れている事も分かった…





( ・・・だって… )






おじさんは一緒に寝ても前と変わらず

ただ一緒に寝るだけで

何もしてくれなくて…





廊下で寝てしまった日以来

おじさんが読経中であっても

襖を開けて部屋の中へと入り

布団の中で待っていたけど




おじさんのお経は…

聞いていると瞼が重たくなっていき

気がつけばいつも寝てしまっていた…





だから昨日は勇気を出して

おじさんの背中に声をかけてみた






「・・・今日は…早く寝たら?」






お経を読むのを止めて顔をコッチに向けた

おじさんにドキドキとしながら

毛布を鼻上まで引き上げて

「たまには一緒に寝て」と甘えてみたら…







アオシ「・・・・お前… 」






「・・・・・・」






アオシ「今日からは自分の部屋で寝ろ」







ドグン、ドグンと息苦しくなる

自分の胸の音を聞きながら

おじさんの甘い言葉を待っていると

返ってきたのは想像とは違うもので

「へっ?」と間抜けな声がでた





正式な婚約者になった今

なんで別々に寝なきゃいけないのよと

上体を起こして「なんで!?」と問いかけると

面倒臭そうに顔をそむけて黙るおじさんに

ムッとしながらまた体を布団の中へと

潜り込ませて「ヤダ」と答えた






「ここで寝るもんッ!」






アオシ「・・・・・・」






あの就任式の日以来…

おじさんからは甘い言葉も…

キスも貰ってない…

もっと…イチャイチャしたいと思うのは

普通の事だし…




ハッキリ言って

そろそろ抱きしめてほしい…





そう思って毛布の中で身体を丸めて

不貞腐れていると…






アオシ「・・・婚礼の儀が終わるまで何もする気はねぇぞ」






「・・・・・・」






またしても予想外の言葉が耳に届き

数秒頭の中がフリーズした後に

毛布から顔を出しておじさんを見ると

目を細めた困り顔をしている






「・・・・何も?」





アオシ「・・・抱く気はねぇ…」





「・・・・・・」






そう言ってまた私に背を向けると

お経を読み出し

その背中を見ながら

「抱く気はねぇ」の言葉がグルグルと頭の中を周り

「なんで?」と言う感情よりも

拒まれたショックの方が大きく

枕と目覚まし時計をパッと抱きしめて立ち上がると







「もうッ……もう絶対抱かせてあげないもんッ!」







そう怒鳴ってから

部屋から出て行き

ドカドカと廊下を歩きながら

自分の部屋へと戻って行った…






アオシ「・・・・実家だぞ…」






「・・・お父さんは…一緒に寝てるの知ってるもん…」






前におじさんの布団に

潜り込んでいる姿を見られているし

寝ている私をおじさんの部屋に届けたと言う事は

一緒に寝ているのを知ってて何も言わないわけだし…






( ・・・別に変な事じゃないもん… )






就任式の日におじさんに手を引かれながら

お義父さん達の前に歩いて行くと

お義父さんは私を見て小さく頬えみ

「家を空けるのは最後にしない」と言った…





つまり…私はおじさんの…

このお寺のお嫁さんなわけだし





私とおじさんは結婚をするし

別に…問題もないと思う…





おじさんの実家だけど

お義父さんとお義母さんも

実家ここでそう言う事をして

おじさんが生まれたんだし…






「・・・・一人で寝るからいいもん…」






唇を突き出したままそう言うと

「はぁ…」とまたタメ息が聞こえ

益々不貞腐れていく…






アオシ「・・・午後から雨らしいぞ」






「・・・・・・」






アオシ「・・・買い出しは早めに行けよ」






おじさんの足音が離れたのが分かり

洗濯物から手を離して

おじさんの後をパタパタとついて行き

いつもの様に袖を掴んで歩くと





歩く速度を少し落として

駐車場へと向かっているのが分かり

嬉しくも感じているけれど

突き出た唇は中々引っ込んではくれない…






「・・・・・キョウは……ナンジ…」






尖った唇を小さく動かして

日課の言葉を問いかけると

「早めに帰る」と返ってきた






アオシ「昼過ぎには戻って…

   檀家が数人来るから

  午後からはずっと寺にいる」






「・・・・じゃあ…お昼準備してる…」






いつもなら

おじさんがお寺にいると聞いて喜ぶけれど

今日の私はイマイチ可愛くなれず…





掴んでいる袖をギュッと強く握りしめ

駐車場まで見送ると

いつもの様に「袖を離せ」と言わないおじさんを

困らせる様に袖から手を離さないでいた…






アオシ「・・・・夢乃…」





「・・・・・・」





アオシ「・・・はぁ…」






お参りに行く時間は決まっているし

お寺を出るのが遅くなれば

帰って来るのも遅くなる…




渋々手を離して

顔を下に向けたまま

後ろに下がると

視界におじさんの白い手が伸びてきたのが見え

顔を少し上げるとグニっと唇を掴まれ

「大人しく待ってろ」と眉を寄せた困り顔が見えた






「・・・夜は…相手して…」






アオシ「・・・・・・」






「毎日30分は私との時間を作って!」






アオシ「・・・・・・」






「じゃなきゃ、今日も明日も

 お経を読んでるおじさんの後ろで寝るから」







そう言いながらおじさんを見上げると

おじさんはフッと笑って

「30分でいいのか?」と問いかけてきたから

「やっぱり35分」と言って

またおじさんの袖に手を伸ばした







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