夜…

〈ユメノ視点〉









「ふんふんふーん…」






お風呂場で鼻歌を歌いながら

自分の身体を念入りに洗い

腕や脚のムダ毛チェックをして

「よし!」と言ってから

湯船には浸からずに

廊下に置いてあるバスタオルに手を伸ばした





( ・・・多分今日だよね… )






就任式の日から今日で7日経つ…

1日目は透輝さんと一緒に向こうへと帰り

部屋の契約を取り消したり

ホテルに置いたままの荷物を取って来て…

2日目の夜はお義母さんやお義父さんに

改めてお世話になりますと挨拶をしたり…





おじさんの就任式に来ていた

檀家さん達へのお礼状をお母さんと

夜通し書いたりと…

バタバタとしている間に一週間が経っていて

今日からやっと

前の様におじさんと一緒に眠れる…






「ふふ…ホテルの試供品もバカに出来ないわね」






自分の鼻に腕を近づけて

クンクンと匂いを嗅いでみると

優しい花の様な香りがしていて

もっと沢山取ってくれば良かったと

早足で自分の部屋へと戻り

髪の毛を丁寧にブラッシングしながら乾かした




麻梨子から貰ったシャンプーはもう無いし…

おじさん達が使う市販のシャンプーは

やっぱり少し髪の毛がキシキシと

する様な気がするけれど

おじさんと同じ香りだと思うと

そんなに嫌でもなかった…






「あとは…あっ!アレだ!!」






お風呂で歯磨きは済ませてあるし

最後にコレを塗れば…





ハンドバッグのポケットから

リップクリームを取り出し

自分の唇に優しく塗り込むと

甘い桃の香りがしていて

「540円も結構やるじゃない」と

笑いながら呟き

鏡の中のほんのり色づいた唇に

また笑みを溢していた






「多分おじさんは苺よりも桃派だと思うし」






おじさんが送って来た

段ボールと大きめなバッグ達は

宅配業者にお寺まで送る手配をし




電車で帰ろうと駅に向かう途中にあった

ドラッグストアで見つけたこのリップ…




苺味と桃味どっちにしようかと

15分近く悩み続け

甘酸っぱい苺よりも優しい桃の味の方が

何となく好きそうだなと思い

レジへと持って行った





こんなに誰かとそうなる事を

望んだのは初めてだし…

少し緊張している鏡の中の自分に

「大丈夫!可愛い、可愛い」と

暗示をするかの様に語りかけてから

枕と目覚まし時計を持って

おじさんの部屋へと向かうと…





( ・・・・まだ読経どきょう中か… )





腕の中の目覚まし時計に目を向けると

22時15分をさしていて

邪魔するのもなと少し悩み…




30分過ぎには終わるかなと思い

廊下にゆっくりと腰を降ろして

おじさんから貰った目覚まし時計を見ながら

聞こえてくるお経に耳を傾けていたら…






アオシ「お前はいつまで寝てんだ」






「・・・んッ…………ぉじ…さん?」







いつもの様に袈裟を着たおじさんが

眉間にシワを寄せて見下ろしていた…






「・・・・ん……んっ!?」






ガバッと体を起こして

キョロキョロと周りを見渡すと

おじさんの布団に寝ていた様で…

枕元にある目覚まし時計は4時を少し過ぎている






「よっ…4時!?なんで??」





アオシ「・・・よく廊下なんかで眠れるな」





「廊下??」






廊下にしゃがんで

あくびをしながらお経を聞いていた事を思い出し

いつの間にか寝ていたんだと分かった…






( なんで寝ちゃってるのよ…バカバカ! )


 




頭の中にガーンと言う効果音が響いた後に

寝てしまっていた自分をバカバカとせめていると

「オヤジが見つけなきゃお前朝まで廊下だったぞ」と

呆れた声が耳に届いてきて「え…」と固まった…






「・・・お義父さん?」





アオシ「オヤジが連れて来たんだよ」





「・・・つれて……来た?」






意味が分からず首を傾けると

「お前…口開けて寝てたぞ」と

呆れた目をコッチに向けている…




おじさんが読経をしていると

襖の外からお義父さんに呼ばれて

不思議に思いながら襖を開けると

寝ている私を抱きかかえた

お義父さんが立っていたらしい…





「・・・お義父さんが…私を…」






アオシ「後で礼言っとけよ」






「・・・・・・」






確かに…

廊下で寝ていれば

寒さで風邪をひいたかもしれないけれど…







「おじさんのバカッ!」


 




アオシ「はっ!?」







おじさんとそうなるだろうと

あんなに準備したのに

おじさんは私を抱いてはいないし…

もう朝の4時だし…






「あんなに頑張ったのに…もうッ!バカ!」






アオシ「・・・何の話だ…」







おじさんに優しく抱いてもらう筈が

お義父さんに抱き上げられて

部屋まで運ばれたんだと知り

「なんでおじさんが運んでくれないのよ」と

朝の身支度をしながらも

ずっと「バカ」と怒り続けていて…







「昨夜は…どうもありがとうございました…」






父「・・・・・・」







お義父さんにお礼を伝える私の唇は

少し…いやだいぶ突き出てとんがっていた…



















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