可愛い…
〈アオシ視点〉
車から降りて母屋の方へと歩いていくと
複数の鶏の鳴き声が聞こえ
何匹いるんだと歩く足を早めた
「タマちゃんは水が好きなのね…笑
こらッ!ピーコ!!
マルちゃんのオヤツ取らないの!」
( タマちゃん…マルちゃん… )
建物の角から顔を覗かせると
縁側の前に夢乃がピーコと呼んでいる
鶏の他に小さな鶏が2羽いた…
1羽じゃなかったのかと
驚きながら近づいて行くと
俺の足音を聞きパッと顔を振り向かせた
夢乃が「お帰りなさい」と駆け寄って来た
「ピーコにも妹ができたんだよ!
それも双子の!笑」
アオシ「双子?」
「同じ日に卵から孵ったんだって!
誕生日が一緒だし…双子でしょ?」
アオシ「・・・・・・」
「だからタマちゃんとマルちゃんって名前にしたの」
可愛いでしょと笑っている夢乃を見ながら
相変わらず変なネーミングセンスだなと思い
小さな鶏達に顔を向けると
俺の足元に前からいる
近づいて来て俺の周りをクルクルと回りだした
「ふふ…赤ちゃん返りしてるらしいの」
アオシ「・・・・・・」
鶏にそんな感情がある様には思えず
「腹減ってるだけだろ」と言うと
「もう!」と俺の腕を叩きながら
唇を軽く突き出している夢乃に
「今日は来客が多かったみたいだな」と
問いかけた
「そうそう!満太朗さんのお父さんが
お米をどうぞって届けに来たら
その後直ぐに、だーさんが来て」
アオシ「・・・だーさん?」
「うん、ペットショップの…
和田さんだから、だーさんでいいって」
アオシ「・・・・・・」
商店街の連中もそう呼んでるから
夢乃にもそう呼ぶように言ったらしいが…
( ・・・・オヤジ連中だけだろ… )
地元からずっと離れないで
商店街にいる満太朗でさえ
鳥屋のおじさんと呼んでいるし
翔も名前でなんて呼んでいない…
「あっ!あの農家の翔さん?だっけ…
おじさんの友達の!
あの人もお野菜を持って来てたわよ?」
アオシ「あぁ…会って聞いた」
翔の名前はうろ覚えで
鶏をくれた鳥屋の亭主はだーさんなのかと
少し疑問に感じていると
「新しい鶏小屋見てよ」と
俺の手を引いて歩き出し
今朝あった物よりも大きくなった鶏小屋を
「あれはね」と笑いながら説明しだした
( ・・・変な奴だよな… )
夢乃はコッチに来てからも
髪型を毎朝団子にしたり編み込んだり…
ただ一つに束ねるだけでも
小洒落た髪飾りをつけたり
向こうにいる時の様に身なりに
気を遣っているみたいだが…
「万が一また変な犬が来ても
この頑丈なネットが
ピーコ達を守ってくれるから大丈夫!笑」
ニッと笑ってピースサインをしている夢乃を見て
つくづく変わってる女だなと思った…
最初こそ…
オヤジの連れ帰った鶏を
カーテンの隙間から覗きながら
怖くて触れないと泣いていたが…
家畜である筈の鶏は夢乃のペットとなり…
「ごめんねッ…ごめッ……ニーコ…」
いなくなれば涙を流して
悲しむくらいに…家族となっていた…
田舎町だから
鶏を飼っている家も珍しくないが
夢乃の年齢でこんな風に
鶏を可愛がっている女はいない…
( 普通は犬猫あたりだろ… )
ミツタロウ「オヤジが悪いな…」
翔から話を聞いた満太朗が
申し訳なさそうに謝ってきて
ミツタロウ「夢乃ちゃんは見た目も可愛いし…
オヤジ達も娘みたいで可愛いんだろ…」
と言っていた…
俺は夢乃に対して寄せる想いがあるからこそ
可愛く見える時もあるが…
( ・・・・・・ )
「・・・・だーさんがもう一人連れて来てたらな…」
アオシ「もう一人?」
鶏小屋を作るのに時間がかかったのかと思い
夢乃に問いかけると
夢乃は庭にいる鶏達を見ながら
「一人足りないのよ」と呟いた
「ピーコももう直ぐ卵を生み出すし…
タマちゃん達も数ヶ月後には生み出すでしょ?
うちは4人家族だからあと一人くれたら
毎朝人数分の卵が手に入るのになぁーって」
アオシ「・・・・・・」
「なんとかあと一人くれないかしら…」
顎に手を当てて
唇をグニグニと動かしながら
厚かましい事を口にしている夢乃を見て
(可愛い…か?)と少し疑問に感じた…
「なんだったら…男の子を貰って
卵を孵化させれたら…いや、でも…うーん…」
アオシ「・・・・・・」
夢乃を可愛く思う時よりも
変わっている女だと感じる事の方が多く
満太朗や翔が言う〝可愛い〟に対して
「どの辺だ?」と聞きたかった…
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