第11話

「ありがとうね。いい思い出が撮れたわ」

 サヨコに別れを告げて藤川静香は駅に向かう。逃れられない死の運命があるからこその、この【おつかい】だ。サヨコちゃんに残された時間は多くないのだろう。それを思うと胸が痛んだが、藤川静香にはどうすることも出来ない。せめてこの写真がスポンサーである名も知らない依頼主の心を少しでも癒せますように、そう思いながら、藤川静香はこの【おつかい】の最終工程を思い出していた。


 藤川静香がタイムマシンに乗り込んだ翌日の日付を書いて、それに【※この日まで決して開封しないこと】と書き添えた封筒に、アルミフォイルで包んだレンズ付きフィルムを入れる。そして、この時代にあるタイムマシン研究の前団体宛の住所と聞いていた責任者名を書き添えた更に大きな封筒に、そのレンズ付きフィルムを入れた封筒を入れて封印し、配送の手配をする……これで、この【おつかい】は完了である。


「さて、どこで配送の手続きをしようかしら?」と歩いていると、藤川静香は宅配業社の小さな看板を見つけた。どこであろう、そこは、藤川心太とあの日に入った花屋だった。ポストカードの写真の植物を調べようと彷徨った末に入った花屋だ。


「ごめんください」

「いらっしゃいませー」

 若い女性の店員は藤川静香を朗らかに迎え入れてくれた。

「すみません、宅配便の手配だけ、お願いしたいのですが……」

「どうぞー。そちらのテーブルをご利用ください」

 促されたテーブルに着いて、藤川静香は【おつかい】の最終工程に取り掛かる。

「すみません。アルミフォイルを少しお分けいただけませんでしょうか?」

「ちょっとお待ちくださいねー。あ、ペンとかはそこに立ててあるものをどれでもご自由に使ってくださいねー」

 懐かしい店内にはポストカードが並ぶ棚がある。藤川静香はその棚に並ぶポストカード一枚一枚を目で追う。その中には当然、……藤川静香にとっては当然そこにあって然るべし、の、あのパイナップルの葉に似た植物の写真のポストカードがあった。藤川静香はそれを手に取り、眺める。

「あ、それはですねー。お客様にいろんな植物に興味を持ってもらおうと、うちがオリジナルで作っているポストカードなんですよー」店員はアルミフォイルをテーブルの上に置きながら藤川静香に話しかけた。

「どっちがいいのかな?と思いながら、でも、『へー、ふーん。そう』で終わってしまうよりは、『これはなんという花、なんという植物なんだろう?』って疑問を持ってもらった方が、面白いんじゃないかと思って、変わった花でも名前も記載せずに、シンプルなイイ感じの写真のポストカードにしようってテーマで作ってるんです。花言葉とかも、全部調べましたけど、そこに書かない方が味があるかもな、って……」

 藤川静香は手にしたポストカードを裏返す。知っている通り、裏面には何も書いていない。

「お客さんが今持っておられるのは、グズマニアって花ですねー。パイナップル科のお花です。私、好きなんですよー、それ。花言葉は」

「理想の夫婦、ね」

「知ってたんですか! スゴイですね!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る