第八話「レベルの壁」(後編)
「くくくっあははっ! ……あばよっ!」
大きく振り上げられたガンブレードが、無惨にも俺達めがけて振り下ろされる。
……ここまでなのかよ。そんなっ……親父っ!
「
俺たちを囲うように展開された輝く魔法陣が、ガンブレードを防ぎ、はじき返した。
「これはっ⁉ 桐香っ!」
「お兄ちゃん、お待たせ! ごめん、遅くなった」
俺たちの後ろから桐香は駆け寄ってくる。
「桐香、ナイスタイミングだ。茜の損傷が激しい。頼む」
「うん!」
「くくっ……さすがにしぶとく運のいい。賢者様もそろい踏みかぁ……忘れるところだったぜ、お前」
「お兄ちゃんたちをここまで痛めつけたのは、ほめてあげる。でもね! 私が来たからにはもう、
「くくっ……その威勢がいつまでもつかな?」
「あんたが死ぬまでよっ!
俺と茜の体が、温かく優しい緑の光で包まれる。
よし……これならやれる。
俺は立ち上がると、もう一度剣を握りなおした。
「さあ、第二ラウンドと行こうか。犯人さんよ」
「くくっ……心、折れないなぁ……面白いよ。壊しがいがある
「お兄ちゃん。五秒でいいから持ちこたえて」
「わかった……」
持つか持たないかじゃない。やるしかないんだっ!
「
一気に犯人との間合いを詰め、切りかかる。常に死角へと移り切り込むが、そのすべてをはじき返される。
「勇者様……もう、それは飽きたよ」
「ぐぁっ!」
不意を突いたように腹部を殴られ、俺の動きが止まった隙をついてガンブレードが振り下ろされる。
それをまた、すんでのところで防ぐが片膝をついてしまった。
「くくっ……そうか。
「……それがわかったところで、どうするって言うんだ?」
「勇者様こそ、打つ手なしだろうに」
「……残念ながら俺たちは、勇者一行なんだよ」
「……なに?」
「五秒はもう経った!」
「っ!?」
犯人が気づいたときには、もう遅かった。犯人を囲うように、天から光が降り注ぐ。
驚き力が抜けた一瞬の隙をついて、俺はバックステップで距離をとった。
「桐香っ!」
「うん!
癒し手系最上級職、
その光に包まれた時点で、その者は身動きが取れなくなる。
そして……。
「茜さん!」
「あ、うん!」
治療を受け全快した茜は立ち上がり桐香の隣に並ぶと、左手を天に掲げた。
「……ナトゥーア・カタストローフェっ!」
犯人の頭上が怪しく光りだす。そうして、天から降り注ぐは紫雷。
「くくくっ……その程度の魔法、どれだけくらったところで、どうにもならないとまだわからないか?」
「わかってないのはお前だ」
「なに?」
それは公式のスキルには存在しない、システム外複合スキル。
「行きますよ! 茜さん!」
「あ、うん!」
二人の息がぴったり合う。
「「ディザスター・ネメシスっ!」」
犯人を囲み、焼き尽くさんと光っていた天からの柱に雷が纏い加速する。急所を突き焼き尽くす天罰の光はさらなる力を纏い、雷で犯人の体を貫き続ける。
「ぐあぁぁぁぁっ!」
さすがの犯人も苦悶の表情で叫んだ。魔法が終わるとともに、体中から焼けこげた煙を出した犯人は膝をついている。
よし、ここでっ!
「茜、いくぞっ!」
「あ、うん」
この隙を逃すまいと、俺と茜が同時に地面を蹴ったその瞬間。
俺には見えてしまった。犯人がニヤリと笑うのが。
「っ! 茜、駄目だっ!」
庇おうにも遅かった。待ってましたと言わんばかりに、犯人はガンブレードを振り抜き俺たちを迎え撃つ。
「アタック・シュルプリーズ」
紅に光ったガンブレードは、見事に俺達二人をとらえた。そのままそろって吹き飛ばされる。受け身をとる余裕すらなかった。
「お兄ちゃんっ! 茜さん!」
俺たちの元に、桐香が慌てて駆け寄ってくる。
「
桐香の魔法で、どうにか俺は立ち上がる。茜も意識はあるようだが、ダメージの蓄積なのか
「くくっ……勇者様よぉ~、さすがにさっきのは効いたぜ。だがな、俺を倒すにはまだ弱い!」
「……化け物め」
戦う以外に選択肢がないのなら、俺が今武器を構えなければ何も守れない。
だからまだ、諦めるわけにはいかない。
「勇者様。まだ構えるか……賢者様がいると、これは埒が明かなそうだなぁ……」
犯人は嬉しそうにニヤリと笑うと、ガンブレードのカートリッチが作動し空薬莢が八つ排出された。
「っ! くそがっ」
やばい。強化弾による次攻撃のブースト化。こんなもの今受けたらひとたまりもない。
「神速……」
「遅いってんだよぉ!」
蓄積された疲労のせいか、判断が一瞬遅れたのだろう。それが致命傷となった。
腰溜めにされたガンブレードは、金色に輝き振り出される。
そうして打ち出された刃は三倍ほどに巨大化し、気づいたときには俺たちを薙いでいた。
「ぐぁっ」
吹き飛ばされ俺たち三人は地面に叩きつけられる。
次いで、三人の外套が消滅した。耐久値を削り切られたのだ。
「お兄……ちゃん」
防御力の高い桐香が一番に起き上がる。
だが、その動きは緩慢なもので、目の前に横たわる茜を庇おうとよろよろ立ち上がろうとしているだけだ。
圧倒的な力の差。
体よりも先に心が折れてしまいそうな状況でも、桐香は必死に立ち上がろうとしている。
「一輝、くん……」
茜も手から離れた刀に必死に手を伸ばそうとしているが、その手は届かない。それでも茜は必死に顔を上げ、もがき続けている。
「くくくっ! あっはっはっはっはっぁ~あ。しぶといねぇ、本当に。紙装甲の
守らなければ。ただ、守らなければならない。茜を、桐香を、みんなを……俺は守るんだ。
俺は別に勇者なんかじゃない。英雄でもない。ただ、それだって、力があるのなら大切な人たちを守らないでどうするんだよっ!
「くくっ……まずは美人二人からぁ~。勇者様ぁ~自分の無力さをかみしめて、最後を見てやりな!」
無力? ああ、そうさ。そんなことは、わかっている。
誰かを殺すのが怖くて、ずっと言い訳を続けてきたんだ。俺に力があるわけがない。
けどな、綺麗ごとに逃げるだけじゃだめだ。どんな力であっても、力があるのなら掴んで切り開く。それが、今の俺にできる唯一のこと。
俺はエクスカリバーとデュランダルを鞘に納めた。
犯人の手により振り上げられたガンブレードは、躊躇なく振り下ろされる。
俺は、残る二刀の柄をつかんだ。
「
犯人は、驚愕に顔を染めていた。
振り下ろされたガンブレードは、俺が右手の剣で受け止めた。 左手に握った剣で、犯人の胴を薙ぐのと同時に。
「なぜ動ける⁉ いや、問題は……そんなことじゃ……ない。……まさか、そのサークレット……赤の装飾入り黒和装装備……おまえ、ツヴィーベルナイトなのかっ!?」
「はあっ!」
「ぐぁっ!」
犯人をガンブレードごと弾き飛ばし、俺は新たな二刀を構える。
エクスカリバーの自然回復スキルをもってしても限界域の速さはきついと思ったが、左手の剣のスキルが発動し、傷は瞬時に回復した。
「あ、一輝、くん……」
「悪いな茜、おいしいところは俺がもらうぞ」
「……あ、うん、大丈夫。気軽に、行ってきて。うちもらしても、私が、いるから」
「おう」
まったく、そんなボロボロな姿でよく言う。
……ありがとな、茜。
逃げるのはやめだ。俺は俺の責任を、役割を果たす。
「さあ、犯人さんよ。忘れちゃいけないだろ? 勇者ってのは、お姫様のピンチには絶対に負けないってことをな!」
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