第六話「仲間とともに」(中編①)

「おまえ……Real/Game最大規模の諜報ギルド。三ツ者のギルドマスター、shioriだな?」


 俺の質問に、汐音はニヤリと口角を上げると、


「いきなりなんの冗談ですか? 先輩。そりゃあまあReal/Gameくらいやったことありますよ、話題のゲームですからね。でも、三ツ者っていうギルドのマスターだなんて、そんなわけないじゃないですかぁー」


 あくまでもしらを切り通すつもりか。

 まあいい。

 だったら俺にも考えがある。


「なあ汐音。お前が、ただの女子高生だったとしたら、俺にあそこまで正確な情報を届けられるとは思えないんだ」

「……それはどういうことでしょうか?」

「茜と犯人が戦闘を行っていたとしても、普通のプレイヤーでは追いかけるのも困難だろう。そのくらいに戦場は急激に移り変わっていたし、ただの人間がそれについていけるなんて訳がない。その上、茜にあれだけ正確な情報を渡していて、戦闘中も最後に犯人に気づかれるまで追跡して、状況報告を正確に行っていた。ハイディ隠蔽ングスキルも、トラッキ追跡ングスキルも、エスピオナ諜報ージスキルも、かなりハイレベルだ。これだけ出来るプレイヤーなんて、俺は一人しか知らない。これ以上誤魔化しても仕方ないぞ?」

「先輩。いや、マジで私を買いかぶりすぎですって! だいたい、ゲームですごいプレイヤーだったとしても、犯人を追えたこととなにも関係ないじゃないですかぁ」


 認める気が無いんじゃ、証拠もない俺はこれ以上の手札がない。

 だから、これは最終手段。スキルを使うことのリスクもあるから、できればやりたくなかったんだが……。


「あくまで白を切るなら、しかたない。……全知検証ベヴァイス


 視認したものの情報を即座に解析、理解するのが全知検証ベヴァイスだ。そして……。

 汐音の情報が頭に流れ込んでくる。最初の情報は、汐音がプレイヤーではないというの情報だ。


「やっぱりな。汐音、お前……誤認隠蔽メタンフィエシスを使っていたな?」

「……はぁ~、降参です、先輩。いえ……Glanz殿。お久しゅうございまするな」


 喋り方が変わった瞬間、汐音の纏う雰囲気が、がらりと変わった。重く暗い影の衣を何層も纏っているような、そんなすごみを感じる。

 誤認隠蔽メタンフィエシスは他のプレイヤーに自分をNPCであると誤認させるハイディ隠蔽ングスキルだ。

 ただし、このスキルは使用していることが相手プレイヤーにばれると解除されてしまう。

 もちろん、その効果もレベル次第でいくらか補正がかかるのだが……。


誤認隠蔽メタンフィエシスは、暗殺者シノビの初期スキル。そして、それで俺たちをここまで欺き続けられるようなプレイヤーは、shiori以外にいない。そうだろう?」

「お褒めいただき、恐悦至極に存じます。……この喋り方疲れるんでもういいっすかね?」


 いや、そんなのどっちでもいいよ。


「すきにしろ」

「では、いつも通りでっ!」


 汐音から感じられたすごみが一気に消える。

 それが逆に、不気味さを感じさせた。


「でも先輩、合格ですね!」

「は? 合格?」


 どういう意味だよ。


「いえ、だってですね。屋上での防犯カメラの件ですけど、気になったからって私に撮らせます? 普通。それで本当に映らなかったらどうするつもりだったんですか?」

「……」


 確かに、ぐうの音も出ない。自分で撮れば良かったよな。


「それにですね。屋上の監視カメラもろくに確認せずにダイブとか、危機感無さすぎです」

「……どういうことだよ」

「私が根回しして、映像を改ざんしてあげたんですよ? 感謝して、ちゅーしてくれちゃっても良いんですからね?」

「っ⁉」


 そんなことまで……じゃあ、汐音はずっと俺たちのことをつけまわしてたってことか? いつから? まさか、現実世界でゲームが始まってからずっとなのか?


「……」

「もう、せんぱ~い。睨まないでくださいよう」


 こいつ、なんなんだ。


「今回の事件に、お前は関与してるのか?」

「どうでしょうねぇ~?」


 なぜ、はぐらかす? それは関与してるってことなのか?


「汐音。お前は敵なのか? 味方なのか?」

「……それは先輩次第ですよ。あーでも、良いこと教えてあげましょうか?」

「良いこと?」

「はい! 実はですねぇ……むふふ」


 なんだ、その気持ち悪い笑いは。


「先輩! だから、睨まないでくださいって!」

「いいから言え。じつは、なんなんだ」

「まったく、先輩はせっかちですねぇ……。まあ、いいでしょう教えてあげます!」


 散々引き延ばしてろくなことを言わなかったら、ここでとらえて拷問でも何でもしてやろう。そう、思っていた。

 だが、汐音の口から発せられた言葉は、


「私が来島茜に教えたんですよ。お母さんの目撃情報」

「っ!」


 衝撃以外の何物でもなかった。


「そして、私が仕向けたんですよ。来島茜が群馬こっちに来るように」

「そんな、バカな」

「にゅふふ。良い反応です! 先輩」

「ちゃんと説明しろ!」

「ええ、勿論ですとも。説明させていただきます。長くなりますけど良いですか?」

「話せ」

「もぅ~相変わらず偉そうですね。まあ、いいでしょう。えっとですね、あれは……」




 ――あれは、二か月ほど前の話です。

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