第五話「確かなつながり」(後編②)
そうして、三十分くらい沈黙が続いただろうか。
「あ、えっと……」
茜は、固く閉ざした口をようやく開いてくれた。
「どうした? 茜」
「あ、うん。……私はなんで、こんなことやってるのかな?」
「……え?」
言っている意味が解らなかった。
「あ、えっとね。私は弱虫で、寂しがり屋で、何にも自分でできない役立たずなんだよ」
「……そんなことないだろ」
心臓が締め付けられるように痛い。
大切な仲間が、自分を卑下する姿を見るのが辛い。
こうなるまで、何もできなかった自分の無力さに、息苦しさを覚える。
「一輝くんは最強のプレイヤーで、桐香ちゃんは頭がキレるよね? でも、私は周りの顔色ばっかりうかがってるだけで、感情的になると周りが見えなくなる。……なんで私なんかが、一輝君たちと同じ土俵にたてると思っちゃったんだろ? 一輝くんと桐香ちゃんに助けられて、お母さんにも助けてもらって……私は無力すぎて……」
痛々しいともいえる茜のその様子を黙って見ていることはできなかった。
「もうやめてくれ……」
「あ、え……」
「頼むから……もう、やめてくれ」
衝動的に、俺は立ち上がっていた。
「俺の大切な仲間は、茜は……そんなダメな人じゃない。めちゃくちゃ強くて頼りになる遊撃手……それが茜、いや、紅空だろ!」
「……」
俺の言葉に茜は、無言で顔を上げた。
「っ」
優し気で、それでいて悲し気なその表情を見て、俺は言葉を失ってしまった。
「一輝くん。私はね、リアルでのデスゲームが始まったとき、自分ができることを一生懸命考えたんだよ? 一輝君たちの仲間として、やるべきことを考えた。一輝君たちならどうするかなって、いっぱい考えたの。それで、付近で起こる
「
自分の身を危険に冒してまで、そんなことを?
「一輝君たちが、こんなデスゲームを許容するとは思えなかった。もちろん、お母さんたちがこんなゲームを望んで作るとも思えなかった。真相が知りたかったけど、私一人の力では限度があるから。一輝君と桐香ちゃんが動いてくれることを信じて、私はその時の自分にできることをやろうとしたの。でも、止められなかった。
「……」
正直、何を言ったら正解なのかわからなかった。
「一輝くんなら止めることも出来たのかもしれないけど、私には無理だった。
「茜……」
だからか。だから茜は、必要に自分が前線に出ようとしていたのか。俺を戦わせないようにしたがっていたのか。
「私は、テスターのメンバーとして失格だよ。私が弱いから、誰も守れないんだよ」
だから一種の罪滅ぼしのように、自分が戦う場所を手に入れようとしていたのか。そうして活躍できる場所を手に入れることで、安心しようとしていたのか。だからこそ、俺たちに認めてもらおうとして、一人で犯人に立ち向かっていくことを選んだのか。
これまでずっと、茜は自分を責め続けていたんだ。
一緒に登校したあの日、茜に寄り添う時間が必要だと思ったはずだった。
大切な幼馴染だから、二度と辛い思いをさせたくないと思っていたはずだった。
なのに。事件ばかりに気をとられてしまっていた。
そばにいたのに、なんで俺は気づいてやれなかったんだ。
「茜が失格なんて、そんなわけない」
なにを言ったところで、気休めにしかならないのかもしれない。それでも、言わずにはいられなかった。
「あ、えっと……そんなことないの。私は、一輝くんに比べたら……」
「俺だって、そんな立派なもんじゃない。確かにゲームでは、最強プレイヤーって言われてたかもしれないよ。でも、現実では桐香なしじゃろくに何もできない、ただの元ゲーマーなんだ。親父のことだって……。調べようって、真相を探るんだって言いながらも、ほとんど行動に起こしてすらいなかった。毎日ネットで情報を集めていただけで……それだけで、情報が見つかるわけがないのに……。学生にできることなんて限られてるんだから仕方ないって、どっかで諦めてる部分もあったんだ。でも、茜は違う。自分が製作者の子供であることに強い責任を感じて、必死に動いていたんだよな? それは誇るべきことだと思う」
「あ、え……でもっ……でもっ」
「でもじゃない。……茜。俺は、ほかの誰がなんと言おうと、茜がしたことを心から尊敬するし、すごいって思う……いや、すごいって知ってるんだよ」
「あ、あうっ……うぅっ」
茜の頬を大粒の涙が伝う。茜の中で、ずっとひっかかっていた気持ちを、抱え込んできた苦しみを、少しでも俺が分かち合いたい。
ゆっくりと優しく包み込むように、茜の頭をなでる。
「俺は、
「あっ……う、ん……」
泣きじゃくりながらも、茜は絞り出すようにそう返事を返してくれた。
「それとな、茜。もう、一人で抱え込まないでほしいんだ。俺たちは仲間なんだから、俺の茜への気持ちは本物だよ。信じてるし信頼してる。だからさ? そんな俺の茜への想いを疑わないでくれると嬉しいんだ」
「あ……うん、うん」
ぼろぼろと泣きながら、茜は勢いよく俺の胸に飛び込んできた。
「一輝くん……ごめんね……心配かけて、ごめん、ごめんね」
もう離さないとでも言うように、茜は俺をぎゅっと抱きしめてくる。それに応えるように俺も抱きしめて、背中をさすった。
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