第四話「焦りが生み出したモノ」(中編②)
爆発前も後も、そこには俺たちの影も形もなかった。
「どういうことだ?」
「? 何かわかったんですか? 先輩」
「悪いけど、少し黙っていてくれ」
「ぶぅー」
頬をぷっくり膨らませて怒る汐音はちょっと可愛らしいが、今はそんなことにかかずらわっていられない。
俺たちの存在が、まるでなかったかのように消えている。どういうことだ。事件の証拠が何もないのと同じで、俺たち自体もプレイヤーだから映らなかったのだろうか。
いや、だとしたらなぜ、スキルによる爆発はハッキリと映っているんだろうか。起爆地点から六方向に放たれる噴火のような爆発は、紛れもなく爆発矢スキル、アオスブルフの特徴だ。
人が映らなくなるよりも、スキルが映らないってほうがわかる気がするしな。なんとなくだけど。
まさか、俺たちが映らないように、カメラに細工した奴がいるのか? もしそうだとしたら、誰がそんなことをしたんだ。そんなことをしてメリットのあるやつがいるのだろうか。
情報不足だな。わからないことだらけだ。
「なあ、汐音。俺をスマホで撮ってみてくれないか? 動画で」
「急にどうしたんですか? 私は別に、先輩の動画なんかいらないんですけど」
「いいから、な?」
「んー。まあ、今日はちゃんと話を聞いてくれたので、そのくらいはしてあげましょう」
そう言うと、汐音はめんどくさそうにスマホを俺に向けた。
スマホの背面カメラ上部のライトが、赤く点灯したところを見ると、撮影を開始したようだ。
「これでいいですか?」
すぐに撮影をやめると、画面を再生して見せてきた。
「映ってるな」
「それはそうですよ、撮ったんですから。まさか、変態行為のやりすぎで頭がおかしくなったんじゃ……」
と言いながら、汐音はそそくさと動画を消している。
「そんな怪訝そうな顔をするな。大丈夫だ」
やはり、プレイヤーだからと言って動画に映らないということはないな。
と、簡単に検証を済ませたところで予鈴が鳴った。
「では先輩、またビッグニュースがあったら持ってきますねー」
「ああ」
飛び跳ねるようにして茜の椅子から立ち上がると、椅子を直しもせずに汐音は立ち去り……いや、
「ちょっと待て」
立ち去られる前に、汐音の手首を捕まえた。
「どうしたんですか、先輩。あ、もしかして、一緒にいられないと寂しいんですかぁ~? 私、困っちゃいますよぉ~」
顔を赤らめ、くねくねとわざとらしい仕草をする汐音に、ツッコミを入れるのは後回しだ。
「汐音。もう、この事件には関わるな」
「……どうしてですか?」
「危険すぎる。とにかくやめろ」
俺の必死な様子が伝わったのか、汐音もふざけた雰囲気ではなくなって。
「嫌です」
きっぱりと断られた。
「いや、これ以上好奇心だけで突っ走ったら、お前も殺される危険性だってあるんだぞ?」
今回のことで、汐音が情報を持ってきてくれたことは確かに大きかった。
その情報収集能力は俺にすらないもので、できればこの先もその手腕に期待したいと思ってしまう自分もいる。
けど……今回は相手が悪すぎる。普通のプレイヤーなら
俺の都合で、汐音を巻き込むわけにはいかない。
「先輩は、私の唯一の趣味を邪魔しようって言うんですか?」
「そうじゃない。ただ、この事件からは手を引いてくれ。他にも面白いネタはいくらでもあるだろ?」
「嫌です。これから面白くなりそうってところじゃないですか! それに、先輩だって興味津々に聞いてくれましたし、ね?」
そうだ。確かに俺には関係のあることだから聞きいってしまった。それが悪かったか……いや、そんなこと言っていても仕方ない。
「頼む。まともな相手じゃないんだ。やめてくれ」
「……先輩? もしかして事件の犯人のこと、何か知ってるんですか?」
「……いや、それは」
答えられない。いや、どう答えたらいいのかわからない。
答えあぐねて黙り込んでしまった。そんなタイミングだった。
「おい桐原、何やっているんだ」
「へ?」
明らかに若さとはかけ離れたおじいさんの声に教卓のほうを見ると、そこには歴史の先生が立っていた。
やばいところを見られた、と反射的に汐音の手を離してしまう。
「君、一年生の子だったよね? 早く教室に戻りなさい」
「はーい! 失礼しましたーっ! 先輩もっ! また来ますねっ」
汐音はいつもの様子で面白いものでも見るように、にししっと笑うと一目散に走って教室を出て行った。
「桐原。青春もいいが、節度を持つんだぞ?」
「……はい。すいません」
なんで俺が謝ってるんだか。
心の中ではそう思いつつも茜の椅子を元に戻し、俺も午後の授業へと身を投じた。
汐音の説得は、またの機会に試みよう。とりあえず、今聞いた話を茜とも共有したい。
午後からでも茜は来ないかな。
なんて、思いながらふと空を見上げ校庭を見下ろすも当然、茜の姿はどこにもなかった。
後輩の女の子ともめていたからといって、なんだか面倒そうなことに周りの奴らが突っ込んでくるはずもなく、俺は放課後が来ると急いで学校を出た。
まずは汐音から聞いたことを桐香とも共有しておこう。
その考えが嘘だったとは言わない。でも、帰ったら茜がひょっこりやってきてくれるんじゃないか、という希望的観測をしていたこともまた事実だった。
一日経ったからか、
そうして、帰る生徒達を抜き去るように通学路を脇見もせずに進んでいくと、だいぶ早く家に着いた。が、そのころにはもう夕方と言って遜色ない程度には日が傾いていた。
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