第四話「焦りが生み出したモノ」(中編①)



 汐音の話を聞きつつ弁当を食べていたら、いつの間にか食べ終わってしまった。

 折角の桐香お手製弁当を、一人静かに堪能できなかったことが悔やまれる。汐音の話を真面目に聞いていたせいで、お弁当の味がちゃんと味わえなかったじゃないか。

 せめて話の内容が明るく楽しいものであったらよかったのだが、まあそんなことを言っていても仕方ない。

 からの弁当箱を鞄にしまい、本題に入るために汐音のほうへと向きなおる。


「つまり何か? 殺人事件と爆発事件の犯人が同一人物だと?」

「そうですね。あくまで警察の見解ではありますが、そのように考えているようです」


 報道でも流れていない警察内部の情報を汐音がどうやって調べてきたのかわからない以上、信憑性が高いとは言い難いな。てか、犯人が違うことは俺自身が知っているわけだが。


「今回は写真とか証拠の類はないのかよ」

「残念ながらありませんね。ていうか先輩、そんなものをピチピチjkがホイホイ入手出来たら、日本警察の情報管理が雑過ぎません?」


 ピチピチjk云々はともかくとして、確かに警察もそこまでざるではないだろう。


「仮に警察が同一犯だと考えているとして、なぜその結論に至ったんだ?」

「現場の証拠からですね」

「証拠?」


 もしかして、俺たちプレイヤーが何かしら同じ成分を持っていて、それが検出されたとかそう言うことだろうか。


「先輩は、最近の連続殺人事件と爆破事件に共通するをご存知ですか?」

「いや、知らない」


 原因が全部プレイヤーだということは、よく知っているけれども。


「では、殺人事件と爆発事件の両方とも、ハッキリとした凶器が特定しきれていないのはご存知ですか?」

「凶器?」

「はい。例えば、惨殺死体の件であれば被害者を切り裂いた刃物の刃渡りや形状、そして銃創のようなもの……ですね」

「銃創のようなもの?」

「はい。そのすべてが現実ではありえないようなものである、とされていて科捜研はおろか科警研もお手上げ状態みたいですね」


 そうか。確かにそうだ。

 ゲーム内で当然のように扱っていた武器をはじめとし、スキルや魔法なんてありえない要素のオンパレードじゃないか。しかも、扱っているのは人間の身体能力なんか比較にならないようなパラメーターのプレイヤーだ。


 武器は物理法則度外視で、銃の空薬莢は地面に落ちると自然消滅する上、おそらく射撃残渣も残らない。そもそも射ち出している弾丸も通常のものじゃない。


 この間の爆発矢だってそうだ。


 あれは、火薬がついていて爆発したとかではない。爆発するというスキルが付与されただけの矢だ。爆発する瞬間に役目を果たした矢は消滅する。

 魔法なんて、もっと何もわかるわけがない。

 つまり……。


「共通点は犯人が存在していたという情報が何一つないこと、か?」

「おおっ! 先輩にしては鋭すぎますね……これは明日は雪か嵐でも来ますね」

「はぁ……」


 汐音は俺をどう思ってるんだか。


「先輩、先輩っ! 面白くないですかっ!」

「なにがだよ」

「犯人がいるとしか思えない現場において、何一つ証拠がないんですよ?」

「いや、こんな近所で起きてんだから、もっと危機感もてよ」

「危機感は持ってますよ! でも、まるでいきなり粉々になったとしか思えない、何一つ情報の取れない死体なんですよ?」


 それは、プレイヤーの情報を今の科学で解明できないからだろ。いや、だったら父さんたちはどうやってこのゲームを作ったんだ? 魔法? いや、そんなわけ……。


「先輩が考えている姿なんて、はじめて見ましたよ」

「馬鹿にしてんのか?」

「いえいえ。真剣に聞いてくれているので話すのが楽しいですっ!」

「それは良かったな」

「はい! 先輩はどう思います? 屋上での爆発も防犯カメラに映っていたんですが、何の前触れもなくいきなりその場所が自然爆発したような映像だったんです」


 それは、矢の速度が速すぎて映像に残らなかった……ん?


「汐音。爆発の様子が防犯カメラに残っていたのか?」

「え? はい、そうみたいですけど……見ます?」

「あるのか!?」

「はい」

「見せてくれっ!」


 これはマジでまずい。

 あの場には俺を含め、桐香と茜もいた。つまり、爆発の映像には俺たちも映っているはずで……。

 俺たちが容疑者としてあげられる可能性すらあるじゃないか。

 そうでなかったとしても、俺たちを狙った爆発であることは気づかれるかもしれない。

 そうなれば当然、事件との関係を問われることになる。

 くそっ厄介だ。


「はい、先輩。どうぞ」


 汐音はスカートのポケットから出したスマホを手早く操作し、俺に見せてくる。画面をタッチすれば再生できる状態だ。

 異常に早いな。もしかしたら、もともと俺に見せるつもりで準備していたのかもしれない。いや、茜に見せるつもりだったのか……どちらにせよ。


「……」

「先輩? 再生しないんですか?」

「いや、その……。汐音は見たんだよな?」

「はい、見ましたけど?」

「そうか……」


 ということは、映像に映っている人物まではわからない程度の粗さなのだろうか。

 いや、そんなことより、防犯カメラの存在になぜもっと早く気づかなかったのか。

 再生すると自分の失敗が白日の下に曝されるような気がして、どうにも怖く躊躇してしまう。が、映っていたという事実は映像を見なかったからといってなくなるものではない。

 自分の失態に頭を抱えながら、見ないわけにはいくまいと再生ボタンを押す。


「……。……あれ?」


 そこに映ったのは誰もいない現場。直後、フェンス付近で激しい爆発が起こる。それだけのもので……。

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