第四話「焦りが生み出したモノ」(前編①)
『本日午前六時ごろ、
「……くそ」
翌朝、俺は制服に着替え、リビングでニュースを見ていた。
もう三日目だ。
今まで連続殺人のニュースを見ても、毎日被害者が出ていることを、ここまで重く受け止めたことはなかったと思う。
当然、無関心ではいられない。
「お兄ちゃん、はいこれお弁当」
「……ありがとう」
今日は、桐香のお手製弁当も一緒だ。お守りだと思っておこう。
「お兄ちゃんにしては早いじゃん」
「まあな」
どうせなら、多くの高校生が登校している時間に行こうと思ったのだ。
「……お兄ちゃんのせいじゃないんだからね? 自分を責め過ぎたら、もたないよ?」
そう言う桐香だって、ニュースが流れたとき苦虫を噛み潰したような表情をしていたのだ。
「……ごめん、ありがとう」
「……お兄ちゃんが素直に二回も感謝するなんて……大丈夫? 熱あるんじゃないの?」
「桐香……お前なぁ……」
まったく。いつも俺のことを気にかけてくれている桐香には、一生頭が上がりそうにないな。
……いつも通りの桐香の口調に、日常の大切さを痛感させられる。
多くを守るためには、自分が死んだら駄目だと桐香は言った。
俺がそんなに特別な存在なのか自分ではわからないが、それは俺が決めることではなく、周りが決めることなのだろう。
そして、桐香がそうだというのならそうなのだろうし、茜も俺が危険な目に遭うのをあんなにも嫌っていた。
これ以上は俺のわがままになる。だから、今回は自分の身をまず優先させてもらうことにした。
万が一、何かがあっても、責任はとれるだけ取る。そしてすべてを解決する。そう、心に誓って。
「行ってきます」
「うん! 行ってらっしゃい!」
家を出ると、日光がやけにまぶしく感じた。
こんなに緊張感のある登校は初めてだ。こんなとき、茜が隣にいてくれたらな、と、そう思ってしまう。
住宅街を抜け、通学路に出ると思いの他多くの学生がいた。
もし、こんなところで襲われたら、と考えると冷汗が出てくる。だが、平静を装わなければ下手に目立つだけだ。
そう自分に言い聞かせつつ歩いているとハッとした。
さっきから無意識に、キョロキョロしてしまっていた。
同じ学校の制服を着ている女子の中に、茜がいるんじゃないかと探してしまっていたのだ。
「なにやってんだかな」
一人ため息をつきつつ歩を進める。
いつもは遠いだの長いだのと思う道のりだが、考え事で頭が占領されているせいか、気づけば学校の近くまで来ていた。
そうなると、今度は逆の意味で茜を探してしまう。
昨日あんなことがあったあとで、いったい俺はどんな顔をして会えば良いのだろうか。今度はそんな考えが俺の頭を支配し始めた。
胸が苦しい。息苦しい。まさか、幼馴染とこんなふうにもめるとは思ってもみなかったな。
教室に着き、自分の席に腰を下ろすと、ふと振り返り後ろの席を確認してしまう。
まだ茜は来ていないようだった。
それを確認してなんとなく安心してしまったのだが……。
結論からいえばこの日、茜は学校を無断で休んだ。
「来島のこと、何も知らないのか?」
というのは、昼休みに担任の先生に言われた言葉だ。
午前の授業を終えるころには朝の緊張感も薄れてきて、これだけ経っても襲撃がないということは大丈夫なのでは? と、なんとなく楽観的な発想が頭をよぎっていた。
そんな、丁度少し気が抜けたタイミングで担任の先生に声をかけられ、茜が転校してきた日よろしく廊下で話をしている。
「茜が休んでいる理由ならわからないですよ?」
「そうか……いや、連絡がなかったもんでな。来島と桐原は幼馴染だと聞いたもんでな、知っているかと思ったんだが……」
薄い頭をポリポリと困ったようにかいて俺を見てくるが、俺だって知らないことには答えようがないのだ。でも。
「茜は、無断で休むような奴だとは思えないんですけどね」
少なくとも俺の知っている茜は、休むなら連絡くらい入れる奴だ。
「来島も引っ越してきたばかりだからな、いろいろあるんだろうが……まあ、悪かったな。知らないならいいんだ。何かわかったら教えてくれ」
「はい」
ただでさえいつも疲れていそうなのに、去っていく担任の背中はいつも以上に
転校してきたばかりの生徒が無断で来ないとか、確かに担任的には悩みの種が一つ増えたといったところなのだろう。
それにしても……。
「無断……なのか」
さすがにそれを聞くと俺自身、気になるに決まっている。
そんなにも昨日のことが
昨日の今日で俺と顔を合わせづらかったとか、そもそも顔も見たくなかった……いや、それは考えすぎか。どちらにしても、これは何かしら対処を考えないと、これっきり会えないなんてことも……それは困る。
今日の帰りにでも茜の家に寄って……。
家、どこだったっけかな。昔の記憶すぎて覚えてない。
「あっそうだ」
ポケットからスマホを取り出し電話帳を開くと、
「あった」
来島茜。交換したんだったな。けど……。
「はぁ……」
ため息をつきつつ画面を消すも、ブラックアウトしたスマホをしまうこともできずに眺めてしまう。
まだ、電話をかけるほどの勇気は出ない。あんな風にもめた後に、顔を見ずに話すのはかなり抵抗がある。
まあ、そもそも電話かけても拒否られるかもしれないし……ならいっそかけてみて……いや、万が一出たら何を喋っていいのかわからない。
「あぁーくそっ」
どうしたら良いんだかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます