第三話「知っていたはずの絆」(後編②)
何やってんだ俺は。桐香だって一刻も早く仲直りしたいに決まってる。それでも冷静に考えてくれてるんだ。俺も、感情論だけで考えてちゃダメだろ。
「そう……そう、だよな。じゃあ、とりあえず明日は家にこもってじっくり作戦を……」
「お兄ちゃん。明日はいつも通りに登校して」
「え? なんでだよ。俺、狙われてるんだぞ? クラスメイトとか学校に迷惑がかかるかもしれないし、最悪死人が出る可能性もあるんじゃないか?」
「お兄ちゃん。もう一度冷静に考えてみて。確かに
……そうか。
「つまり、
「そういうこと。とすれば
「確かに、そうだな」
「少なくとも、プレイヤーしかいない自宅に引きこもるよりは安全だと思うんだ。まあ、これは楽観的過ぎるかも知れないけど……。
「桐香は何かあたりをつけてるのか?」
「……わかんない。でも、聖灰である可能性はあるかもしれない」
「聖灰……」
レベル200に達したものが入手できるとまことしやかに噂されているアイテムで、その効果は不老不死であるとも、願いを叶えるものであるとも言われているが、真偽のほどはわからない。
そもそも、レベル200まで到達したプレイヤーがいるのかどうかさえ、怪しいものだ。
だが、戦っている奴のほとんどは、その噂を信じている。
「桐香の予想通りだったとすると、少なくとも
「うん。そして噂の聖灰の効果は規約無効……とかね。でも、聖灰のことはあくまで私の推測の域を出ないから、この説を前提に動くのは危険かもだけど。まあ、家にこもっているよりは、ましだと思うから」
「……」
周りを巻き込む危険性がある以上、俺はあまり気が進まないんだが……。それでも登校しろというからには、桐香も何か考えがあるんだろうしな。
「お兄ちゃん。そんな、あからさまに嫌そうな顔しないでよ」
「え、そんな顔してたか?」
「してたよ。まったく、納得できないの?」
「いや、それは……そんなことはないというか、なんというか……」
疑問はある。二つ返事でうなずくには、やはりまだ納得はいっていない。だが……。
茜とあんなことがあったばかりなのに、うかつに納得いかないなんて言えないしな……。
「お兄ちゃん、気を使いすぎだよ?」
「え?」
「ふふっ」
茜ともめた後、初めて桐香からこぼれた自然な笑みだった。それを見て、なんとなく安心してしまう。
「お兄ちゃん、考えてることが顔に出すぎだよ」
「そ、そうか?」
そう言われると、何とも恥ずかしくなるな。
「お兄ちゃん。私は正直、お兄ちゃんや茜さんほど自己犠牲精神ないから」
「え?」
桐香の目はまっすぐに俺を見据えていた。その目は真剣で、強い意志を感じた。
「私たちに余裕がある状況なら、周りのことを考えるのも良いよ? でも、今は違う。私たちでも、もしかしたら負けるかもしれないよね? であるならば、今は少しでもお兄ちゃんの危険を減らすことが優先だよ」
「それでも、俺は……」
そんなわがままに他人を巻き込めない。
「お兄ちゃん。ここで、私たちの誰かが欠けるようなことがあれば、
「……」
俺は、できることなら身近な人間や知人はすべて守りたいと思っている。
でも、現実問題としてその理想論は今通用しない。
少しでもいい結果を求めるのなら、桐香の案が正しいことくらいわかっている。でも、やはり二つ返事でうなずくには勇気がいる。
周りを巻き込む可能性を作ることへの責任を、自分の中でしっかりと整理しなければならない。
「お兄ちゃん。明日までまだ時間はあるから、ね?」
「……ああ。ごめん」
「ううん。お兄ちゃんはお兄ちゃんだから、仕方ないよね」
「……なんだよそれ」
なんか、バカにされてる気がするぞ?
「ほめてるんだよ。じゃあ私、先にお風呂入っちゃうから……って、あ。沸かしてないや。お兄ちゃん、今日シャワーでいい?」
「もちろん、大丈夫だよ」
「オッケー。じゃあ、先入っちゃうね」
「おう」
風呂場へと小走りでかけていく桐香の後姿を見ながら、自分の不甲斐なさを痛感した。
桐香に無理をさせないように、茜を傷つけないように。
あとは気持ちに整理をつけるだけ。
どうするのかなんて、答えはもう決まっているのだから、最善を尽くさず後で後悔なんて、俺は絶対に嫌だから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます