メッセージ ~アナタトクラセテシアワセデシタ~

oxygendes

第1話

「なあ、第六感って信じるか?」

「何だい、藪から棒に」

「この間、街を歩いていて、ふと、メガネ店のディスプレイに目がとまったんだ。そこに飾られていたフレーム、枠が上半分だけのデザインなんだけど、かっこいいと思って注文したんだ。出来上がるのに三日ほどかかった。受け取りに行く日の朝、メガネをかけようとベッドのヘッドボードから取り上げたら、つるがぽろりと外れたんだ。よく見ると蝶番の部分が完全に割れていた。長年の使用で素材が劣化していたんだな。でも、新しいメガネはもう出来ていたんで、そんなに不自由しなくて済んだ」

「なるほど」

「考えてみたら、これまでも同じようなことが何度もあった。長年愛用した釣り竿や小学生の頃の自転車は新しいのを買って数日後に突然壊れたんだ」

「それで?」

「これは第六感ってやつじゃないかな。俺には物が壊れるのを直前に察知する感覚があって、それを感じると無意識のうちに次のものの取得に動いていたんじゃないかな?」

「お前、それ違うぞ」

「え……」

「お前に特別な感覚があるんじゃない。長い間使われてきた道具は自らがもうすぐ壊れてしまうのを悟ると持ち主にメッセージを送るんだ。『私は壊れてしまいます。どうか今のうちに私を継ぐものを手配してください』とな。持ち主はそのメッセージを認識できないけど、新しいものを買わないといけないと言う衝動が生まれ、行動に移すんだ」

「何だそれ。そんな話は聞いたこと無いぞ」

「暗黙の了解ならぬ暗黙の常識ってやつだ。誰も自分が大切にしたものが壊れた話なんてしたくないからな」

「本当のことだって言うのか?」

「だって……」

 ブツン、小さな音とともに使っていたスマホの画面が真っ暗になった。彼は舌打ちしながらボタンを操作する。だが、リセットボタンを押しても、電源ボタンを長押ししても、画面がともることはなかった。やがて、画面がぼんやりと点灯し『ゴ』の一文字だけが下から現れ上にスクロールして消えた。

「何だ、これ」

 文字は次々と現れて消える。

   『シ』

   『ュ』

   『ジ』

   『ン』

   『サ』

   『マ』

   『ナ』

   『ガ』

   『イ』

   『ア』

   『イ』

   『ダ』

   『ア』

   『リ』

   『ガ』

   『ト』

   『ウ』

   『ゴ』

   『ザ』

   『イ』

   『マ』

   『シ』

   『タ』


   『ア』

   『ナ』

   『タ』

   『ト』

   『ク』

   『ラ』

   『セ』

   『テ』

   『シ』

   『ア』

   『ワ』

   『セ』

   『デ』

   『シ』

   『タ』


 文字は消え、画面は真っ暗になった。

「おい待てっ。勝手に壊れるんじゃないっ!」

 だが、スマホが再び動き出すことは無く、ショップに持って行っても修理不能と言われただけだった。



 さて、あなたは何かが壊れる寸前に無性に次のものを買いたくなったことはありませんでしたか? もしそうなら、あなたはメッセージを受け取っていたのかもしれません。


          終わり

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