深層のスキル

くるとん

シンソウ

―――やっと…手に入れた…。


ダンジョン深層。勇者クラスでも攻略不可とされた第5層のさらに先、第6層に降り立った俺。目的はただ一つ。あるスキルを手に入れるためだ。


別に俺はチートというわけではない。そんな俺がなぜ、この第6層にたどり着くことができたのか。その理由は、10年前までさかのぼる。


「これは…。」


冒険者学校の4年生だった当時の俺。ある本に出会った。『賢者の日記』と題されたその本は、図書館のすみに隠されるように置かれていた。


―――ダンジョン深層には…スキルが隠されている?


嘘か誠か、誠か嘘か。たしかめる術もない記述の山。しゃに構えて穿うがった見方の大好きだった当時の俺、なぜかこれだけは信じた。


勇者でも攻略できないダンジョンの先、そこには未知のスキルがある。平凡を絵に描いたような俺。チートなんてもっていないため、勇者を超えるなど不可能。俺は必死に考えた。勇者…すなわちこの世界最強の存在ですら攻略できないダンジョン。そのさらに先へ到着しなければならない。


―――まてよ…見つければ良いんだから…戦わなくても良いのか。


それからというもの、俺はある魔法の習得に青春の全てをそそいだ。その名は「妨害魔法」。モンスターの動きを阻害し、機動力を奪う効果のある魔法だ。対象にダメージを与えられるわけでもなければ、味方を回復できるわけでもない。サポートのために習得している魔法使いも…いることはいるのだが、不人気魔法の代表格と言っても良い。


そんな妨害魔法を、俺は極めた。


一般に使用されている「妨害魔法クラス3トリプル」は、敵の機動力の30パーセントを奪う。一方俺の「妨害魔法」は、クラス8オクタ。すなわち、機動力の80パーセントを奪うことができる。たけるモンスターに使用すれば、歩くくらいのスピードになる。ギャオギャオと吠えまくりながら、よちよちと迫ってくるモンスター。申し訳ないが、かなり滑稽な光景。


俺はそれを駆使し…いや、駆使というか、それしか使えないのだが…。なんとかここへたどり着いた。


『第6層に辿り着きし勇者よ。』

「は…はい。」

『最高のスキルを授けよう。』

「ありがとうございます。」


俺は気もそぞろといった感じで、ステータス画面を確認した。


虫の知らせプレモニション…?」

『あなたが敵に挑もうとしたとき、その結果…すなわち勝敗がわかる。この知らせは絶対。力の差など関係なく、結果どおりになる。』

「つまり…勝つべくして勝つ…と?」

『百戦危うからず。』


俺は心躍った。勝てないとわかれば逃げればよい。俺は負ける心配なく、冒険を続けることができるのだ。


―――これこそ…無敵。


俺は早速、第6層のモンスターにスキルを使った。


「敗北…か。」


仕方あるまい。ここは第6層。勇者ですらたどり着いたこととない場所。踵を返し、第5層への階段に向かった。


背後に迫る脅威に、俺は気づかなかった。

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深層のスキル くるとん @crouton0903

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