私の居場所
伊崎夢玖
第1話
「遅くなっちゃった…」
あたりは真っ暗。
未成年が出歩いていい時間ではない。
警察に見つかれば補導まっしぐらである。
だから急いでいるというわけではない。
私の家の門限がもう目の前に迫っていた。
二十三時。
それが我が家の門限。
絶対に破らないからと彼氏である山本浩太との交際を認めてもらった。
しかし、今は二十二時五十分。
現在地から家までどんなにがんばっても二十分はかかる。
門限を破ることは確実だった。
これには深い理由があった。
日中、私たちはデートをしていた。
夕方には帰ろうとしていた矢先、幼稚園くらいの小さい女の子が私の服を掴んでこう言った。
「ママがいない…」
それから警察に行き、幸いにも親と連絡がついたからと待たされたが、待てど暮らせど親は来ず…。
ついには警察からも「遅い時間だから帰りなさい」と促され帰ってきたというわけだ。
女の子は警察署で保護されると聞いたので一安心したのも束の間、自分のピンチが襲い掛かってきて、現在に至る。
理由を話せば許してもらえるかもしれないが、そんな保証はどこにもない。
ただひたすらに走る。
それしか今の自分にできることはなかった。
少し走ると、公園に差し掛かった。
ここを横切れば、二十分かかる帰り道も半分の十分になる。
(これなら、ワンチャン間に合うかも…)
しかし、その思いは一瞬躊躇われた。
『暗くなってからこの公園に足を踏み入れてはいけない』
子供の頃から言い聞かされてきたことだった。
内容は神隠しがあったとか、誘拐されたとか、本当にあったか定かではないようなことばかり。
成長した今となっては、嘘だと分かる。
子供が危ない目に遭わないようにするためのはったりを親が言ったのだと。
(ええい、ままよ!)
背に腹は代えられない。
一歩公園内に足を踏み入れた瞬間、生ぬるい風が髪をなでた。
そして、鼻をツンとつく匂いも僅かに感じた。
(ヤバイ…)
第六感が働いた。
こういう時の人間の第六感は、だいたい当たる。
本能に近いのかもしれない。
この時の私も『入ってはいけない』と体全体で何かを感じ取り、それ以上先に進むことをやめた。
そして、家に着いたのは思った通り公園から二十分経過した、二十三時十分。
玄関を開けると、そこには仁王立ちした両親の姿。
理由を話すもこんこんと怒られ、眠りについたのは日付を跨いてからだった。
翌朝、眠気眼を擦りながらリビングに向かうと真っ青な顔をした母がいた。
「どうしたの?」
「アンタ、昨日ここ通ってないわよね?」
母が指差したのはテレビだった。
そこに写し出されていたのは、昨日私が横切れば近道になると思った公園で、私と同じ歳の女の子が惨殺されていたという内容のニュースだった。
もし、あの時横切っていたら今ニュースに取り上げられていたのは私だったかもしれない。
本能的に何かを感じ取り、第六感を信じて、公園を横切らなくて本当によかった。
安堵するとともに、私の身代わりになってくれた女の子へそっと心の中で冥福を祈った。
私の居場所 伊崎夢玖 @mkmk_69
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