第11話 大地side 手紙
2月14日バレンタイン。俺にとってその日はただの戦である。バレンタインの売上目標を達成出来たかであったり、特設コーナーを撤去しすぐに次のひな祭りへと模様替えをしなければならない。
その日は早番だったので17時上がりだったのだが、結局残業して途中まで手伝ってから帰った。バイトの子達からチョコをいくつかもらったがどうせ義理だ。それなのに誰からもらったか覚えておいて、お返しをしないと社員としての評判が上がらないので面倒臭いイベントだ。
疲れた体の重い足取りでコンビニに寄る。明日も早番で今日設置したものの最終確認と、売上報告を本社にあげなければいけないから朝も忙しいのだ。俺は栄養ドリンクとカップ麺を買って帰ろうとしたのだが、改札に立っている彼女を見て驚きと同時に嬉しい気持ちが湧き上がる。
乗る電車を早くし、車両も変えたのだが彼女と同じ制服を見るたびに顔を確認してしまう。そして彼女じゃなかったと落胆してしまうのだ。本物の彼女に会えた、その嬉しい気持ちを隠して俯いている彼女に声をかける。
「おい、何でお前がここに居るんだよ。待つなって言ったよな?」
また鼻を真っ赤にさせて一体何時間待ってたんだよ。そんな短いスカート履いて風邪ひくだろ。
「会えて良かったぁ」
「俺は全然嬉しくないがな」
嘘だ。一眼見ただけで嬉しくなる俺がいる。
「そんなこと言わないで下さい。今日で本当に最後にしますから」
「それで、用は何だ?」
「これ、バレンタインのチョコと私の気持ちが書いてある手紙です。3年後の今日、私はここでずっと待ってますから!」
そう告げて紙袋を押し付けられると、彼女は改札を抜けて行った。追いかけようとしたが、紙袋と鞄で両手が塞がりもたもたしている間に彼女の姿はもう見えなくなっていた。
家に帰ってから紙袋を開くと、綺麗にラッピングされた手作り生チョコと、手紙が入っていた。チョコを味わいながら手紙を開く。
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佐藤さんへ
もう待つなと言われていたのにごめんなさい。
あれから私も佐藤さんが言ってたことについて考えました。そして佐藤さんが言ってた意味も、考えも分かりました。
だから私が成人したらもう一度返事を来れませんか。佐藤さんが振るのが惜しくなっちゃうくらい絶対良い女になってみせるので、あと3年待ってて下さい。
あっもちろん3年間の間に彼女さんが出来たりしても良いです! 私は佐藤さんの幸せを邪魔したい訳じゃないので、その時はちゃんと諦めます。
でも、もし3年後佐藤さんに良い人が誰も居なかったら、次こそは私を選んで欲しいです。
3年のうちに俺のことなんか忘れるだろうって思ってますよね? 私絶対忘れませんから。この4ヶ月間毎日佐藤さんのことを考えてました。もう佐藤さん以外の人を好きになれる自分が想像出来ないんです。絶対3年後もあなたのことが好きです。
3年後の私の誕生日、2/14に今日と同じ場所で待っています。その時にこの手紙の返事を下さい。
千尋
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「ばーーか、待つなって言ってんのに。こんなおっさんを3年間思うなんて意味ないだろう」
そう1人愚痴るが、嬉しくてたまらない。例え3年後彼女が俺の前に現れなくとも良い。この今の気持ちだけで十分だ。
それなのに、それなのに何でお前はこうして再び俺の前に現れるんだよ。もう期待しないって自分に言い聞かせてたのに。俺の3年と彼女の3年じゃ全く濃さが違うだろう。充実した青春時代を過ごして俺のことなんか忘れてると思ったのに……。
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