第7話 バレンタインに
あの日から4ヶ月経った2月14日の今日、私は今佐藤さんがいつも下車していた駅の改札にいる。そう、待ち伏せをしているのだ。
こんなことをしても良い返事をもらえないことは分かっている。それでもやっぱり佐藤さんが忘れられない私はまた手紙を書いて今の気持ちを伝えることにした。もう今後会うつもりはない。今回が本当に最後だ。
佐藤さんはシフト勤務なので何時に帰ってくるのか分からない。早い日だと16時過ぎ、遅い日だと23時近くになるのは知っていたので、今日は16時からずっとここで待っているのだ。
今は間もなく20時になるところだからもう4時間も経つのか……。あまり遅いとまた怒られてしまうかも知れないから、21時まで待って会えなかったらもう諦めようと決めている。あと1時間でこの恋とも終わりだ。
まだ寒い時期に外で待つのは結構厳しい。ポケットに入れていたカイロも冷たくなってきている。手を擦り合わせて寒さを誤魔化す。
改札を通る人を一人一人確認していく。駅員さんからは少し怪しげな視線を受けているが、そんなことで心が折れる私ではない。次の20:52着の電車で佐藤さんが降りて来なければ諦めなきゃいけない……。
そして待っていた52分着の電車の乗客が降りてくる。しかしその中に佐藤さんの姿はなかった。私は呆然と立ち尽くしてしまう。覚悟はしていたが、本当に会えないとは思ってなかったのだ。きっと佐藤さんと私は運命なのだと思っていたから……。
「おい、何でお前がここに居るんだよ。待つなって言ったよな?」
その声に顔を上げると佐藤さんが目の前に立っていた。
「嘘っ……。何でいるの??」
「何でってここに住んでるから。それで待ってたんじゃないのか?」
佐藤さんの手にはコンビニの袋が握られている。駅中のコンビニに寄っていて他の人と出てくるタイミングがズレたみたいだ。
「会えて良かったぁ」
「俺は全然嬉しくないがな」
そう言いながらもちゃんと私に気づいて声をかけてくれた。やっぱりこの人はなんだかんだで優しいのだ。
「そんなこと言わないで下さい。今日で本当に最後にしますから」
「それで、用は何だ?」
「これ、バレンタインのチョコと私の気持ちが書いてある手紙です。3年後の今日、私はここでずっと待ってますから!」
「おいっ! ちょっと待てよ!!」
私は持っていた紙袋を無理やり佐藤さんに押し付けると、走って改札を抜ける。ちょうど運良く電車が来た為電車に乗り込むと、佐藤さんもついて来れなかったようでホッとする。
あの手紙に私の今の思いを全て書いた。そして3年後の20歳の誕生日の日にここで同じように待っていることも。
果たして彼は3年後来てくれるのだろうか。彼が来てくれる保証などどこにもない。むしろ3年経ったら私のことなんて忘れているかもしれない。
でも今の私にはそれしか出来なかったのだ。彼に迷惑をかけない為には、私が大人になるまで待ってもう一度思いを伝えるしかないと思った。
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