第2話 手紙



「えっ! とうとう告白したの? あのリーマンに!!」


「そう!! 振られちゃったけど、挨拶は許してもらえた!!」


「そりゃあ初対面で告白されて、はいそうですかって付き合う人居ないって。何て告白したの?」


「うーーん、緊張しすぎて覚えてないけど、ずっと好きでした、ずっと見てたんですみたいなこと言ってた気がする」


「うわ……。ストーカー丸出しじゃん!!」


「違うもん! ストーカーじゃないもん! 見てたのは電車の中だけだもん」


「でも相手が下車する駅の周りうろうろとかもしてたじゃん」


「……偶然出会えないかなって思っただけで、家とか職場とか調べようとか思ってないもん!」


「いや、十分アウトだったから」


 あの告白の翌日、バイト終わりに千里とスタバで昨夜のことを報告する。彼女には今まで散々あのお兄さんのことを相談していたのだ。




「まあとにかくこれで顔を覚えてもらったんだから、あとは少しずつ挨拶して好印象を残していけば良いじゃん」


「だよね!!」


「うん、なにせうちらは女子高生だよ!? 女子高生に言い寄られてなびかない男は居ないって! 千尋は可愛いし、モテるじゃん!」


「モテはしないけど、女子高生って最強だよね! うちのお兄ちゃんも制服は最強の武器って言ってたし!!」


「あんたの兄はヤバいけどね。あとはそのリーマンに彼女が居ないことを願うしかないね。年齢も分かんないんでしょ?」


「うん……。多分25くらいなのかなって思ってる」


「25か……。千尋誕生日遅いもんね、9歳差か」


「うん、2月生まれだから。千里はもう17でしょう? 良いなぁ」


 私は今高校2年なのだが、2月生まれなので16歳。これが18歳とかだったらあの人も付き合ってくれたのかなぁ……。

 その後も千里と作戦会議をしたのだが、結局笑顔で挨拶することくらいしか思い浮かばなかった。それから私の好印象大作戦は始まったのだが、それもなかなか上手くいかない。何せあのお兄さんとは乗る駅も降りる駅も違うのだ。



 私が通っている高校は少し遠くて、電車に40分ほど乗っている。あのサラリーマンのお兄さんは、私にとっては7駅目で乗り、そこから3つ目の駅で降りてしまう。せめて同じ駅を利用していたら、ホームで挨拶出来たかも知れないが、電車内で見かけても会釈をすることしか出来ない。しかも乗る車両は毎回同じなのだが、通勤時間がバラバラらしく、全く会えない週もあるのだ。あの告白から3か月経つが、私はなかなか縮まらない距離にヤキモキしていた。




「ねぇ、全く作戦が上手くいかないんだけど」


「まぁそう上手くはいかないよね……。また待ち伏せするとか?」


「挨拶すること以外はOK貰えてないもん……。次やったら無視されて終わると思う。話してみたら想像よりぶっきらぼうな感じだったもん」


「良くそれで折れないよね。私なら断られた時点で心折れるわ」


「だって1年もずっと好きだったんだよ?」


「はいはい、それ何回も聞いたから。もう聞き飽きました」


「ねぇ、次の作戦考えたの! 古風でいこう文通作戦!!」


「無視かい! で、何なのその作戦は?」


「電車であえた時にさりげなく手紙を渡すの!!」


 本当だったらLINEを交換したいが、多分教えてくれない気がする。だからさりげなく隣を確保した時に手紙を渡すのだ。


「それはそれでハードル高くない?」


「大丈夫! 1週間ごとに通勤時間ズレるみたいだから、月曜に会えたら作戦実行するの。乗るドアも分ってるから、そのドアの横を確保していれば多分渡せるはずっ」


 私は比較的早い時間の電車に乗っているから人は比較的まだ少ない。ドアの横にさえついていれば気づいてくれるはずだ。今までは私が座っていたのでなかなか近づけなかったが、頑張て立って待つことにする。本当は始発の駅から乗るので座っていたい。何せそこで座れなければ40分も立ったまんまになる可能性もあるのだ。だから今までは座ったままだったのだが、全く進展がない以上体力を使って頑張るしかない。……今日から持久走の練習が始まるが、なんとか乗り切ろう。


 翌週の月曜にお兄さんの姿を見かけ、家に帰ると手紙を書き始める。なるべく目立たずに渡せるように小さなレターセットを用意しておいたのだ。一言書いてプレゼントに添えるようなタイプの物。いきなり長文は読んでもらえない気もするので、最初は短めにしようと思う。散々迷ったあげく、「好きです。LINE下さい」の一言と、私のIDを書いた。返事が来ることは期待しないが、万が一の可能性もある。


 翌日の火曜日。お兄さんをドアの横で待つが、結局その日はお兄さんが乗ってくることはなかった。お兄さんは休みなのか時々こうして週の真ん中で会えない時がある。気合を入れなおして、翌日に再度手紙を持ってスタンバイする。あと1駅……、ホームに電車が入った瞬間窓からお兄さんの姿を探す。……良かった、今日はいつもの所にいる。ドアが開き乗車してくるとビックリした顔のお兄さん。私はすかさず手紙を差し出す。


「あのっ、おはようございます」


「ああ、おはよう」



「これ」


「??」


 少し首をかしげながらも、無事に受け取りスーツのポケットにしまってくれた。そのままお兄さんに話しかけようとしたのだが、彼は空いていた座席に座ってしまい、私はついていくタイミングを失い結局お兄さんが降りるまでドアの前に立って居たのだが、降りる時は隣のドアから降りてしまった。やっぱり避けられているのかな……。でも今日は挨拶も出来たし、手紙も渡せた! もしかしたら今日メッセージが届くかも知れないもんね!



 そう前向きに捉え、スマホを頻繁にチェックするが、その日お兄さんからメッセージが来ることはなかった。……こんなんじゃ折れないんだから! また手紙を渡すんだもん! 


 翌日もお兄さんを例の扉で待ち構え、朝の挨拶と共に手紙を渡す。そして手紙を受け取るとそのまま座席に座りにいくのにちゃんとついて行き、お兄さんの前に立った。それを見たお兄さんは少し疲れたような顔をするが気にしない。話すことは出来なかったが、3駅の間お兄さんのことを眺めることが出来て私は幸せだった。そうして手紙を渡し続けて2週間が経つ。




「それで、一方的な文通をまだ続けてるの?」


「うん! ちゃんと受け取ってもらえてるよ」


「本当に読まれているか分かんないけどね」


「……きっと読んでくれてるもん」


「でも結局LINE来てないんでしょ?」


 そうなのだ。結局お兄さんからは連絡が来ていない。手紙に毎回IDを載せているけど、もうスマホを開くのもむなしくなりチェックするのも辞めた。



「うん……」


「手紙はどんなこと書いてるの?」


「帰宅は何時の電車に乗るんですか? とか、昨日は休みだったんですか? とかの質問形式にしてる! 一問一答みたいな感じ」


「ゲッ。ストーカー感丸出しじゃん! もっとここが好きですみたいなこと書いてアピールしなよ」


「その手があったか!!」


「もう馬鹿なの? そういうとこホント変というか、天然というか……」


「ありがとう! 今すぐ帰って手紙書かなきゃ! ごめん行くね!!」


 そう千里に別れを告げると急いで家に帰って手紙を書き始める。お兄さんの好きな所……。どうしよう沢山ありすぎて書けない。私はもう1年以上片思い中なのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る