スパイG
宮瀬優希
第1話【やめろっ!俺を殺す気か!!?】
カサッ、カサカサ。……私はスパイG。G国家直属のスパイだ。今は、スパイ任務の真っ最中。私の仕事ぶりを見せてやろう。
今日の任務は、この家に住む学生……椎野夏実の情報を得ること。これは、なかなか難しい任務だ。が、私にかかればこんなの余裕なのだ!!見ていろ、とうっ!!意気揚々と、角の空間から抜け出した。拠点がいくつか欲しいので、まず、仲間たちと合流しようと思ったのだ。……今思えば、ここで姿を見せたのが間違いだった……。
ガチャリ
扉が開く音がした。ターゲットである椎野夏実が、部屋に入ってきたのだ。途端、響き渡る悲鳴。私……取り繕う余裕は無い、俺は身の危険を察知し、再び角の空間に体を向けた。殺られるのが先か、角に入るのが先か……!!全速力で駆けた。スパイとして、死ぬわけにはいかない!!椎野夏実との距離が離れていく。よし、これは行けっ……
プシュー……
ぁ……。ガクリと四肢の力が抜けた。それと同時に、全身の痺れ。なんだ?これは……。力の入らない体を動かそうと試みる。しかし、微動すら叶わない。それどころか、意識が徐々に薄れている。敵国の最新兵器か?なんて、恐ろしい。仲間に、伝えなければ……。霞みゆく意識の中に写った映像は、愛する妻子の姿。ごめんよ、お前たち……。俺は、もうここまでみたいだ……。カサカサ体操、まだ、教える途中だったよな……。ごめんなぁ……。そこで、俺の意識は途絶えた。三月の暖かい春の日のことである。
私、椎野夏実は、至って普通の高校生だ。成績も、まぁ、申し分ない。友人関係の悩みも無く、無難な学校生活を送っていた。……三月までは。四月某日、私はとある特殊能力──第六感に目覚めた。それは、虫の知らせが聞こえること。虫の知らせとは、主に身の危険が迫ったときに感じるもののことだ。聞こえるものではなく、感じるものらしい。が、しかし!!私にはそれが聞こえるのだ!!四六時中、「そっちに行くな」「そこに物を置くな」などと囁いていく。この声の主は誰なのか?なぜ私に声を届けるのか?謎は深まるばかりである。
ふっふっふ……。まさか、俺があの兵器に耐え、生き残れるとはなぁ!!虫の知らせの主である俺は、今日も椎野夏実の行動を誘導していた。四六時中、彼女についてまわり、G国家繁栄のために暗躍しているのだ。そう、虫の知らせとして!
見つかれば、こんどこそ殺される。そんな危険と隣り合わせの任務。が、せっかく生き残ったのだ。角の空間を拠点とし、スパイとしてのリベンジを果たそうではないか!俺にかかればこんなのは余裕な──!!!
ぅにゃぁ〜お
なんだ!!?角の空間から抜け出したタイミングで、またも音がした。否、猫の鳴き声だ。蘇る敵国の情報。くっ、そうか、この家は──……
猫を飼ってるんだったあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
万事休す。そいつはギラギラした目で、俺をじっくりと観察している。……見せもんじゃねえぞ!!?俺を見つめているその猫は、おもむろに前足を振り上げ、俺の元に振り下ろした。
ガチャリ
「うおっ!!?やめっ、やめろっ!俺を殺す気か!!?」
「また、虫の知らせ!?なになに……?」
「くっ、こんなところで、死んでたまるか!俺にはまだ、やらなきゃいけないことがあるんだ……!!!」
「虫の知らせさん、頑張れ!!?」
「俺は角の空間に行かなきゃいけねぇんだ!!」
「角の空間……?」
「G国家繁栄の礎になるため、椎野夏実を!必ず……!」
「私ですか!!?」
「ん……?」
俺は、猫の猛攻を躱しつつ、ゆっくりと視線をあげた。まんまるに見開かれた大きな瞳。椎野夏実と、目が合っていた。
……あ。
「きゃああああああああ!!!!」
「待て!俺は、虫の知らせだああああああああ!!!!!」
「嘘をつくなああああああああああ!!!!!」
「嘘じゃねええええええええええ!!!」
スパイG 宮瀬優希 @Promise13
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