第2話 職場案内ですか!? 魔王様!
コツコツと歩く音とガシャガシャと鎧の擦れる音が長い廊下に響く。
どれぐらい歩いただろうか? まだ慣れない体のせいで足元がふらつく。
一体どれだけ歩かせるんだ。 でもこの体、鎧を着こんでいるのに重さも感じないし疲れないな。
そんなことを思っているとクロニカは俺の方を一瞬視線を移し、すぐに視線を前に戻し言う。
「もうすぐ目的地に着くぞ、今のうちにその体で歩くことに慣れておけ」
俺の心を読んでいるのか、いや、こんな長い廊下を初めての体で歩くのであれば当たり前に思うことだろう。
2、3分ほど歩くと壁に木のドアがあり、人の声が漏れている。
「ここだ!」
クロニカはこちらを見ながらニヤリと笑っていた。
ドアに手をかけ、ゆっくりと開けた。
中はかなり広く明るい空間だった。
獣人に半獣人、下半身が蛇で上半身が人間の奴もいる。
機械の頭だが首から下は人間の体もいれば、魔獣らしい者もいた。
皆一様に羊皮紙を使い仕事をしていた、まるで一昔前のパソコンが無い時代の会社の様だった。
「ここは、この魔王城に送られてくる伝書を整理、その他来客や様々な対応をする総務部だな」
総務部があるとは、普通の会社となんら変わりないんじゃないか?
しかし魔王城だろ? 魔王城と言ったら……
「魔王城って普通、世界征服と企むものだと思うんですが……」
クロニカは目を丸くしてこちらを見た。
「ガッハッハ! 今の時代は征服より共存だ! 世界征服と言う思考はかなり前の世代で終わっておる!」
ゲームとか漫画とかの魔王城とはかなり違うみたいだな。
俺とクロニカが話していると横から「クロニカ様! お疲れ様でゴザル!」と声が聞こえた。
ゴザル…? なんだその古典的な語尾は……。
声の主を見ると頭は近未来的なヘルメットの様なものを被っており、体は忍者がよく着ている忍び装束を身に着けていた。
首には長いスカーフを巻いていて口元を隠している。
「おや、このデュラハンは?」
俺の方へと視線を落とす。
「あぁ、今日転生してきたイヴェールだ。 元人間だ」
「へぇ~、元人間は珍しいでゴザルね!」
「ギコはギコです!!」
ギコは大きな声で自己紹介をする。
「なんと珍妙な…」
忍者はギコを珍しそうに見ている。 ギコもドヤ顔で見つめ返していた。
そしてこちらに視線を移すが相手の表情はわからない。
ここは新入社員のように振舞わなくては。
「イ、イヴェールと言います。 よろしくおねがいします…!」
「うん! よろしくでゴザル! 拙者はシグレと申す! この総務部の伝達関係をメインとしてここで働いてるでゴザルよ!」
俺の手をとり、ブンブンと強く上下に振る。 鎧がガシャガシャと音を立てる。
「オーイ! シグレ! この伝書、ダンジョン制作部の方に持って行ってくれ!」
シグレのことを呼ぶ声が聞こえた。
「了解でゴザル!」
シグレが目に見えぬ速さで声の主の所まで行き、羊皮紙を受け取るとまた自分達の目の前で現れた。
「クロニカ様、イヴェール、拙者これを届けに…」
「シグレよ、ワガハイ達も共に行こうぞ。 ダンジョン制作部には我々も用がある。 ついでにイヴェールにこの城の事、色々説明してやれ」
シグレは跪き、クロニカの顔を見て頷く。
「御意、かしこまりました! クロニカ様!」
シグレがこの城のことを色々教えてくる。
「ここが食堂でゴザル! 基本いつでも利用出来るでゴザルよ!」
長い廊下のドアを通るたびに説明を受ける。
シグレの説明はかなり丁寧で、分かりやすかった。
「そしてここが、ダンジョン制作部に部屋になるでゴザル!」
他の部屋と同じで木で出来た両開きの扉だった。
シグレは何も躊躇せず扉に手をかけ開ける。
「お疲れでゴザル! 王都からの伝書持ってきたでゴザルよ!」
羊皮紙を掲げ部屋に入っていく。
「お疲れっす! 王都からの伝書…嫌な気がするっす…」
シグレから伝書を受け取った魔物はこちらに視線を移す
「あ、クロニカ様じゃないっすか! ん? 隣のデュラハンは誰っすか?」
その魔物はクロニカと同じぐらいの身長で見た目はハスキーの様な顔をしていた。
目は白と青が混じりの深い色をしていた。 服装は上半身には何も着ておらず、麻のズボンを穿いていた。 首には黒い首輪をしており留め具部分がキラリと光に反射する。 体は人間の体に近いが顔の毛と同じように体にも毛が覆われている。
自分よりかなり大きいため威圧されているとクロニカが話し始める。
「こいつは今日転生して来たイヴェールだ。 今日からこのダンジョン制作部の一員になるぞ」
え、俺今日からここで働くの?
「よかったですね! 働き先がもう見つかって!」
ギコは嬉しそうに言ってきた。
クロニカは続けて語る。
「こいつのスキルは建築スキルに法律スキルだ。 ダンジョン制作にはうってつけだろ?」
ニヤリと笑いこちらの方を見てくる。
ハスキー獣人も目を輝かせながら「すげー!」と言いながらシグレとはしゃいでいた。
そのまま俺の前まで歩み寄ってくる。 やはり大きく、影で自分が覆われるほどだった。
ハスキー獣人は顔を俺の顔の位置まで降ろしニカっと笑う。
「よろしくっす! 俺はスルトっす!」
見た目の威圧さよりかは軽い口調でスルトは話す。
「えっと、イヴェールです。 よろしくお願いします」
ギコがパタパタと飛びながらスルトの周りを飛び、自己紹介をしていく。
よろしく~~と言い笑いながら俺の背中をバシバシと叩いていく。
叩かれた反動で部屋の中に入る。 部屋の奥にはまだ魔物が座っていた。
その魔物は竜人…と例えるのがしっくりくる。 赤い鱗に覆われ太い腕を組み眉間にしわを寄せていた。 目の色は深い赤色で今にも飲み込まれそうになるほどだった。 服装は輝かしく美しい繊維でできた絹織物を体に巻き付けており古代ギリシャでよく見る片方の肩を出している着方をしていた。 他に角や指、腕には金色のリングをつけており神々しさすら感じれた。
挨拶をする為に近づき自己紹介をする。
「イヴェールと言います。 今日からここで働くことになりました。 よろしくお願いします」
…挨拶したは良いが反応がない。
しばらくするとギロリとこちらを睨み小さな声で「…よろしく頼む」と言った。
もしかして最初からやらかしたか…?
「あ~、ダンダロスは寡黙だから気にしなくていいっすよ! つかダンダロスも新人来たんすからちゃんと挨拶しないとダメっす!」
スルトが一喝した。 ダンダロスという名の竜人は「…むぅ」といい眉間にしわを寄せ俯いていた。
ギコがダンダロスの目の前まで飛んでいき、腰に手を当て堂々とした態度で挨拶をしていた。
「ギコです! イヴェールの付き人的ポジションで…」
ギコがすべて言い切る前にダンダロスの手がギコの顔をつかむ。
怒らせてしまったか、助けなければ…!と思ったがよく見たらギコのほっぺたをムニムニと優しい手つきで揉んでいた。
「や、や~め~て~!」
ギコは顔を揉まれながらバタバタと動いていたが手から抜け出すことはできなかった。
「…可愛い」
ボソっと一言ダンダロスから聞こえた。
しばらくして、ダンダロスが手を放しギコは俺の肩まで飛んでくる。
「…すまない、つい…」
ダンダロスの謝罪に対してギコは言う。
「可愛いのは当たり前です! ほっぺた揉むのもちゃんと一言断ってからにしてください!」
また小さい声で「…むぅ」と言う。
意外と可愛い物好きだったりするのだろうか?
「へぇ~、ダンダロスが反応するって珍しいっすね!」
スルトが珍しそうに言う。
「そろそろよいか?」
クロニカが何か言いたそうにこちらを見ていた。
「ゴホンッ! シグレよ、イヴェールの案内ご苦労だった。 もう戻ってよいぞ!」
「主君に仕えることこそ喜びでゴザル! では失礼!」
シグレはどこから出した白い布で巻かれた小さな球体を床にぶつけると人ひとり隠れる煙が出た。煙が晴れるころにはもうシグレの姿はなかった。
「それでは、ダンジョン制作部の皆の者…って今居るのはスルトとダンダロスだけか? 他のメンバーは?」
「あ~、結構前からいないっすよ…。 王都に行ったり他のダンジョン見に行ったりなんか材料取りだとか…」
「自由にさせ過ぎるのも考え物だな…。 まぁよい…」
クロニカは続けて語る。
「そうだスルトよ、貴様先ほどシグレから伝書を受け取っていたな。 内容はなんだ」
スルトが手に持っていた羊皮紙を開く。
「えぇっと、なになに…?」
フムフムとスルトが内容を確認している。
「あ~~~~~~~!!!!!!」
スルトが大きな声を出し慌てだした。
「クロニカ様大変っす! 王都からの要請で、2週間以内にダンジョンの制作依頼が来てるっす!」
クロニカは、ガハハと笑いながら部屋の奥へと歩き出す。
「ふむ、丁度良いではないか! イヴェール、早速だがダンジョン制作やってみようか。 なに、ワガハイも今回手を貸そうではないか!」
「クロニカ様が手伝ってくれるんすか!」
「アイデア出しならワガハイでも出来ようぞ」
初めての仕事、この世界で最初に出会ったクロニカが一緒に居てくれるのならばとても心強い。
「では、早速だが今回のダンジョンのテーマはワガハイが決めさせてもらうぞ!」
「もう決まってるんすか?」
スルトの問いかけに悪い笑みを浮かべながら椅子に座る。
この世界に来て初めての仕事、一体どんなことが起きるのだろうか。
期待と不安で胸が一杯の中、俺は内心ワクワクしていた。
そしてクロニカは高らかに宣言する。
「今から貴様らにはエロトラップダンジョンを作ってもらう!」
前言撤回だ…。
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