だいろっかん

高村 樹

だいろっかん

わたしには恋愛に対する≪第六感≫がある。


友達の片思いの相手を当てたり、仲が悪いふりしてこっそり付き合っている人たちを発見するのなんてお茶の子さいさい。

だから同級生の女子たちの恋愛相談が後を絶たない。


自分の恋愛はどうなのかって?


もちろん、楽勝よ。


18戦18不戦勝。もちろん無敗よ。

告白しなくてもフラれるのが≪第六感≫でわかるの。

片思いを見送り続けるのは辛いけど、ひどいフラれ方するより、よっぽどマシ。


高校時代の恋愛なんて、見た目良く生まれてきた女の子たちのためのイベントでしょ。

わたしはお世辞にも美人じゃないし、スポーツだって勉強だって目立つ方じゃない。

わたしのこと好きだと思っている物好きな男なんていないに決まっている。

事実、年齢イコール彼氏いない歴だった。


わたしは≪第六感≫で傷のない恋愛人生を送るはずだった。


それなのに、なんなのよ。

たしか「田中祐人」とかいう名前だったっけ?

なんで、校舎の屋上なんかにわたしを呼び出すのよ。

何の用があるというの。


田中祐人はたしか、隣のクラス2-Bの男子。

同じクラスになったことはないし、話したこともない。

たしかサッカー部だったか。

身長はあたしと同じ172cmくらいかな。見るからにサッカー部体型。細いけど、貧弱という感じじゃなくて引き締まっている。


「あのさ、立花って誰か付き合っている奴いるの?」


なんで、呼び捨てなのよ。あんた、わたしの何なのさ。

話もしたことない相手に呼び捨てとかありえない。

立花さんとか、優希子さんとか、普通は「さん」くらいつけるでしょ。

あ、いや、下の名前で呼ばれても困るけど。


「いないけど」


田中は、それを聞くと突然黙ってしまった。


そのリアクションは何なの。

なぜ、黙るの?


だめだ、≪第六感≫が働かない。


「俺さ、お前のこと」


田中は下を向きながら、絞り出すように声を出した。


お前のこと?私がどうした。次は?


わかったぞ。この後、どこかに隠れてる友達とかが出てきて、「告白とかすると思った?」みたいな感じで皆で、わたしを嘲笑う気だろう。


辺りをキョロキョロ見渡してみる。

人が隠れている様子はない。


「お前のこと、ずっと好きだった。付き合ってください」


マジか。マジなのか。

こんなデカくて、かわいくない女に告白するような変わった男なのか、田中よ。

だって、あれだぞ。本当にかわいくないんだぞ。


「返事は?」


返事。返事をここでしろというのか。


わたしはそもそもこの田中何某のこと、何にも知らんのだ。

好きなのか嫌いなのかすらわからない。


助けて、≪第六感≫。


「田中のこと、よく知らないし、わからない」


「そっか、そうだよな。じゃあさ、来週の日曜日、うちのグラウンドで対外試合あるから応援しに来てくれよ。カッコいい所見せるからさ。それを見てから返事くれよな」


田中は一方的に言いたいことだけ言って、去っていった。


優希子は混乱していた。

もう不戦勝はできない。

無理矢理、試合のリングに上げさせられてしまった。

ゴングはもうなっている。


来週の日曜日、サッカーの試合を見た後、わたしはどんな決断を下しているのだろうか。


田中と付き合ってみるべきだろうか。


わたしの自慢の≪第六感≫は何も答えてはくれなかった。













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