第26話 人助けと準備(雷鳴)

 俺たちは郊外に泊めていた「ウィングブル」まで帰って来た。

 とりあえず、全員ウィングブルを閉じて「ライノ」に乗り、休むことにした。

 体はともかく、精神の疲労が凄い。俺は二粒、麦を飲む。

「教え・治癒・痛覚鈍麻」をかけてくれるようフリウが頼んできた。珍しい。

 快諾する。どうせ自分も今切れかかってて痛いから、と。

「今回はMAXでかけるよ」

 そのための麦二粒だ。

 MAXでかけた結果、全員、痛みが久々に無くなり、死んだように眠った。

 起きたら朝だった。時計を見ると午前八時だ。

 ダメだ、俺完全に(ヴァンパイアとして)睡眠サイクル狂ってる。


 俺が起きてもぞもぞしていると、気配を感じたのか皆起きだした。

「あー。起こしてごめん」

「いえ、いいんですよ、どうせヒリヒリしだしたところでしたし」

「ああ………確かに、俺もひりつく」

 それで起きたのか、意外と繊細だな、俺。

「そんなことより、今後の方針を決めましょう。皆、目を覚ましてください」

 フリウの声掛けで、皆が目を覚ましていく。

 ダブル奇跡が堪えたのだろう、いつもすごく寝起きのいいリリ姉が一番遅かった。


「これからの方針なんですが、せっかく物資は持ってきていますし、ニコタンテの「人民を守る会」には行こうと思うのですが、どうでしょう」

「特に異論はないな、輸送だけだし、普通のゾンビなら蹴散らしていけばいい」

 他にも異論のある奴はいないみたいだな。

「では、それは予定通りに。あとは、レイズエル様も言っていましたが、雷鳴に啓示をお願いします」

「うん、構わないよ。今やろうか?」

「そうですね、行動が変わるかもしれませんし」

 じゃあ、と頷いて瞑想を始める、そこから深く………深く………意識が途切れる。


 俺はぼんやり目を覚ます。フリウの膝枕である、あんな蹴りを放つのに柔らかい。

 天使の不思議だ。悪魔にもそういう人はいるけど。

 個人的には天使の膝枕が一番………ってそうじゃなくて!

 俺は慌てて起き上がる。ヴェルから殺気も飛んできてたしな。

「何て言ってた?」

「次は首都を目指すように。寄り道は大した変化は生まないが、時間ごとにじりじり不利になるのは覚えておけ………こんな感じでした」

 大した変化ではないがじりじり不利に………?

「ニコタンテの「人民を守る会」への援助は素早く済ませておくのがいいですね」

「「人民を守る会」の連中には、俺らが移動してる理由伝えてるの?」

「はい、ゾンビが融合して化け物になるから、倒して回ってる………程度には。後の情報は蜘蛛ゾンビや、異形ゾンビの例も参考にして下さいと伝えています」

「そっか、ニコタンテには異形ゾンビ、居ないんだな。じゃあ、取り合えずニコタンテの郊外まで飛ぶか!」

「そうですね、話していても始まらないですからね」


 ニコタンテの郊外に着きました。

「人民を守る会」のHPの掲示板に「今から犀の図柄の装甲兵員輸送車が行くけど、物資を三分の一ほど―――最初は食料―――持って行くので受け入れ準備を」と書き込みしました。返事を待ちます。

「わかった、入口に張り付いてる奴に言っておく。勿論物資の搬入は手伝う」

 と、返事が返ってきたので雷鳴たちに告げる。

「戸口なりに何か目印になるものは?ここの土地勘は皆さっぱりだぞ」

「聞いてみましょう………二階の窓から国旗を垂らすそうです」

「OK、じゃあ後は市内地図を参考に『勘』でいく!俺が運転席に座るよ。後二回の時は他に頼むけど。さすがに正午を回るときっついからな。ヴァンパイアが日焼けとか冗談じゃないから。あとフリウ、今回は助手席に座って。道覚えて欲しいから」

「了解しました」


 思いのほか………いや「アカンボ」の所に行かされてたならこんなもんか。

 道にいるゾンビの密度は低かった。ルーフに登ってミシェルが早打ちで「浄化」していってる。流石に筋力と敏捷力が解放されただけの事はある。

 同じくルーフではリリ姉がミシェルの死角のゾンビを「浄化」していっていた。

 二人とも、救援物資を踏んづけているが、コンテナに入っているので問題ない。

 このままでは着くまでに、ゾンビが全滅しそうだなと思っていると、派手な国旗を窓から垂らしている五階建てぐらいの小さなビルが目に入った。

 とりあえず、近所のゾンビは適当に殲滅しておく。そしてグレネードランチャーでフラッシュバンを遠くに打ち出して、そっちに引き付ける。

 ここで派手に戦って、超人的な力を見られるのは厄介だからだ。


 入口の近くに「ライノ」の尻尾(スロープ)を下ろし

「「人民を守る会」の人はいる⁉「ライノ」だよ!」

 仮に「救援隊ライノ」を名乗っていたのである。

 チーム名なんてものはなかったから適当に付けたのだ。

 すぐに応答があった。

「リーダーの指示で待機していた。こっちだ」

 奥にあった、鉄製らしい非常口が開いた。

 その奥には螺旋階段がある。

 主な掲示板利用者は俺とフリウだったので、この二名だけで行く。

 他の面子を残すのは「ライノ」を無防備にしておけないからだ。


 螺旋階段で五階まで行く。

 エレベーターはここに拠点を定めた当初から、故障で動かせないそうだ

 五階は、事務机がずらっと並んだ部屋に、ライフルや拳銃が置かれているというミスマッチな部屋だった。ここが司令室?なのだろうか。

 無精髭が目立つ大男がこっちにやってきた

「私はクリスだ。リーダーをやってる。いや、よく来てくれた。本当に存在するのかと思っていたら、本当に犀に乗ってやって来てくれるとは………とにかく酷い物資不足でね、助かるよ。」

 握手を交わす。

「俺は雷鳴。海超えた先で、抵抗組織を見つけて驚いたよ。」

「私はフリューエルです、同じく」


 ここは司令室。確かに机の一部は積み重ねて置いて、スペースを確保している。

 戦闘要員が詰めているそうだ。隣の部屋は戦闘員の寝所だと。

「タラバとラベーンとフォースパンチのゾンビは、全部巨大ゾンビ餌食になってたよ。倒してきたけど。今その町々は無人だ。移転をお勧めするね。それか、この街のゾンビを掃討し続ける?」

「………にわかには信じがたい。ラベーンへ誰か見に行かせるよ。ガソリンは持って来てくれたんだろう?」


「ああ、持ってきたよ。今回は口糧だけどな。それならそれで、俺たちは約束の支援をするだけさ。荷物運ぶ要員を五人ほど下に送ってくれるか?」

「ああ、それは勿論だ。ベッカー!誰か四人ほど連れて荷物の受け渡しをしてこい」

「じゃあ、俺たちは次の物資―――銃に弾丸、手榴弾、ライフルとかショットガンとその弾と、ガソリンはポリタンクで三十ケースある。持って来るよ。最後は医薬品だな。あまりかさばらなかったからどうせ雑魚寝だろうと思って、エアーマットレス100枚とかも一緒に持ってきたぞ」

「ありがたい!結構、体にこたえててな。毛布とかは避難民優先だし………」

「あんたたちが元気じゃなくてどうするよ。こんだけあれば避難民にもあんたたちにも行きわたるだろ?」


「そういえば、掲示板に書いておきましたが、ゾンビの弱点は「脳」です。それ以外では、死に切れていません。首を切り落としても、あまり意味はありません。ヘッドショットであの世に送り出してあげてください」

「うむ、我々も試しては見た。確かに脳にダメージを入れると簡単に止まるな」

「活用して下さっているならいいです。行きましょう、雷鳴」


 俺達は螺旋階段を下りながら話す。

「信じてもらえないのは、当たり前ですね。見たことがないのですから」

「ここで粘ってもらおう。無理に異空間病院に放り込んでもいい事はなさそうだし」

 途中で、荷運び中の連中とすれ違ったけど、通路の幅が狭くて難儀した。

 あとは、同じ作業を二回続けて行うだけだ。


 だが、その二回は無駄にあちこち走り回ってきた。フリウの希望だ。

 少しでも「浄化」しておいてやろうと提案されたのである。

 こういうところは普通に天使なんだけどな、フリウって。

 だが、ここまでやったのだから、あとは「人民を守る会」次第だ。


 物資を渡し終えて、ウィングブルへ戻ってきた。

 出していた自分たちの物資を「ライノ」に戻しておく。

 ソファとマットレスも出していたので、それも戻す。

 現在十四時。

「さて、まだ日が高いし、「ウィングブル」で途中まで進む?途中にいろいろ町はあるけど、寄らなくていいよね?」

「ちょっと見捨てていくのは忍びないですけど………多分首都に「オオキナヒト」がいるんでしょうから、仕方ないです。暗くなるまで私が飛ばしましょう。時間を取り戻すために雷鳴、夜の操縦をお願いできますか?」

「ああ、大丈夫。今回は日の出に交代で。夜ぶっ続けで飛ばすから。その後はいつもの六時間交代に戻そう」

 他の面子も同意した。


「ヤポンでやってたように、「生き残りの集い」をHPで立ち上げてみるつもりだ。特にインデ、オーステラリア、イタリクをターゲットにして今後の情報を得られないか試してみるよ」

「分かりました、お願いします」

 そう言って、フリウとヴェルは運転席に向かった。


 まだミシェルとリリ姉は起きている。物資輸送は、あまり疲れなかったからだ。

 そこで、二人の意見も取り入れながらHPを作る。

 簡単な自己紹介と、現在いる地域を表示する。何だか癒し系のデザインになった。

 後はフリーの掲示板を設置して終わりだ。


 立ち上げた後まだ少し時間があったので、あちこち検索してみた。

 そうしたら丁度首都に住んでる人達がSOSを発信していた。

 改装中だった高層ビルに避難している人たちだ。

 改装中ゆえに、中にゾンビはいない。

 普通は改装中の所には人は入って行かないから、ゾンビも入って来ない。

 一階と二階が食料品売り場だったため、それで永らえているとか。

 

 そのSOS(これ以後「首都SOS」)に、街の様子を聞いてみたら、ビルを横倒しにしたくらいの巨大な化け物がいて、ゾンビの大集団を従えてメインストリートをゆっくり歩いているとか。

 どうも町の外に出て行こうとしているように見えるらしい。

 それに引き付けられて、ゾンビも一緒に出て行こうとしているという。

 情報をくれたら助けに行く、と言ったら、「巨大な怪物」の動画を送ってくれた。

 

「おおい、敵の画像が手に入った。検討したいから集合!」

 情報の共有を図るために全員でコクピットに入る。

 

 敵の姿は、一言で言えば柄のないデッキブラシだった。

 平らな板チョコみたいな本体?に、デッキブラシのブラシ部分よろしく、イソギンチャクのような肉色の触手が無数に生えており、それが平らな部分を支えている。

 この触手が蠢くことで、移動するらしい。初めての自立型だ。

 またこの触手は、近くにいるゾンビを捕獲して、平らな部分にあるでかい口に放りこんでいっている。人間の唇を模した口は肉色でグロテスクだ。

 そしてたまに、ぷりっと触手が新しく生える

 全員黙り込んでしまった。脳がフリーズしたのだ。俺も最初見た時は固まった。


「なぁ、一辺ラベーンの軍基地に戻らないか?爆弾とか、爆撃機とか、本体にも取り巻きのゾンビにも有効そうに見える。特に直接戦闘前にゾンビの数を減らしたい」

 いち早くフリーズから戻ったフリウが

「確かにゾンビの数を減らさないと、回復されそうですね………雷鳴、あなた爆撃機は操縦できますか?私は大丈夫です」

「機種によって違うから、ざっくりとだけど。ちょっと練習すれば………」

「時間をかければじりじりと不利になる………ですが、爆撃機ならラベーンの基地から、首都まで一気に行けます、大丈夫でしょう!」

「そうか、フリウもそう思うか?他は?」

 フリーズの解けた面々は、口々に賛同の意を示してくれた。

「良いんじゃないか、邪魔な連中を先に始末するなら」

 とは、ヴェルの弁だ。他の二人も頷いている。


「俺とフリウで2機。他は、後部座席で待機、機体の放棄と共に飛んで出る。放棄した機体は、損壊の大きいあたり―――要は人のいなさそうな辺り―――に落とす」

「その後、通常戦に移行ですね、これだけ大きければ全員でかかっても―――ん?」

「どうしたよフリウ」

「「第六感」です。あなたも何か感じませんか」

 んん~?おれは動画を良く見直す………と

「ピンときた。あれ、これ脳はイソギンチャクの生えてる面の方じゃね?ひっくりかえしたら多分露出する―――。」

「でしょう?」

「………どうする、こんなのひっくり返せるか?」

「ひっくりかえせます。「アカンボ」のあとレイズエル様に『超能力・念動力』を解放してもらえましたから。ただ………私は恐らくその後、疲労で通常攻撃しか出来なくなるので、援護しか出来なくなりますが」

「十分だよ!他の皆もパワーアップしてるんだから」

「よし、ならひっくり返して、触手の部分も巻き込んで爆撃しよう!」


「では、今回は、まずこれを―――「ブラシ」と呼びましょう―――をひっくり返してから、爆弾で周囲のゾンビと触手を攻撃。爆撃機から離脱して自由戦闘」

 それでいいですか、とフリウは目で聞いてくる。

「良いと思う。皆もそれでいい?」

 めいめいが頷く。


「じゃあ、操縦交代。ミシェル以外の皆、休んでて。フォースパンチ基地までの帰りは俺が操縦する。フリウ、使いたかったらノーパソ使っていいから」

 と、フリウにノーパソを渡す。動画のお礼言っといて、と。

「わかりました。寝る前に私も操作させてもらいます」

 皆は操縦席を出て行くと、「ライノ」でくつろぎ始めたようだ。

「ミシェル、眠かったら後部に行ってもいいぞ?」

「眠くなったら、そうする。しかし雷鳴とフリウ様、よく連携とれてるよね………」

「フリウは隊長を勤めてるだけあって、話や理解が早くて助かってる」


「俺は………役に立ってるかな」

 ぼそ、とした声。

「何言ってるんだ、本体以外の場所も重要なんだぞ。お前に居なくなられちゃ困る」

「そうか」

「そうだよ、当たり前だろ。暇ならフリウから借りたコレ(タブレット)でも弄ってろ。HPは見れるぞ」

「うん………」

「なんか、元気がないな。能力解放もされてるんだし、お前も十分な戦力だぞ?」

「分かってる、けど、なんかさ」

「これ飲んで後ろで寝てるか?」

 と、俺は軽い抗うつ薬をミシェルに渡す。


「飲むけど、ここにいる。雷鳴といた方が落ち着くから」

「おいおい、天使だろー?そういうことはフリウに言えよ」

「けど、最初助けてくれたのは雷鳴だし」

 そう言ってミシェルは黙り込む、抗うつ薬の効果が出て眠くなったようで、ぼーっとしている。そのまま寝始めたので、俺はブランケットをかけてやった。


 そして、ラベーンのフォースパンチまで、夜明けには辿り着いたのだった。

「『教え・観測十・縮小国家』」

 立体地図をホログラムで表示する。血の麦を一つ。

 爆撃機の場所を割り出して、皆で格納庫から引っ張り出した。

(この規模の基地でなければ、こんなもん置いてないよな)とか思いつつ、操縦法を確かめる。これがこれで、この機能はああ、ここについてるのか………と確認する。

「雷鳴ー?いけそうですか?私は試しに飛びますけど」

「行けると思う。『教え』で説明書表示するから一緒に見よう」

『教え・観測・説明書』っと。どれどれ………

「慣らし飛行をすれば大丈夫そうですね」

「同感」

「燃料は………補給車があるみたいだ。あそこの格納庫だな」

 幸い、機体の数が多い分燃料も大量にあった。


 飛ぶ前に滑走路の点検。まず出ているほかの飛行機を、格納庫に片づけていく。

 それが終わったら、全員で滑走路チェック。異物が落ちてないか確認するためだ。

 飛ぶ前に、パンクとかされると大変だからだ。


 まずはフリウが練習する事になった。

 補給タンクを運転してきて、しばし補給の仕方が分からず四苦八苦。

 ええい『教え・観測・説明書』!

 無事に給油できた。………麦一粒(ぼそり)


 フリウが機体に乗り込む。練習でなので危ないから、一緒に飛ぶ奴はいない。

 機体は舞い上が………らず、予定外の方向に曲がり、何とか軌道修正し、滑走路の端で止まった。フリウから連絡が入る

「すみません、ミスりました。もう一度、そっちに戻ってやり直します」

 しゃー、とこっちに戻って来る爆撃機。

「雷鳴、説明書くれません?」

「………気持ちは分かる、はい『教え・観測・説明書』」

 しばらく俺とフリウは他の連中をほっといて座学の時間だ。

 その他の連中は、ノーパソを囲んでわいわい言っている。


「今度こそ、まともに飛んで見せます」

 と、張り切って出て行った。おれは少し眠い。朝日が………。

 座学は、日が差さない所でやってたからいいけど………。

 その辺にあったパラソルで日光を遮りながら、フリウの方を見に行く。

 今回は、普通に飛び立った。スマホで

「順調に郊外に出ました!一周して帰ります」

 と報告がある。今回は、爆弾はナシだ。ちゃんと飛べるようになってから!

 実習には、ダミーの砲弾がある事が分かっていたので、それを使うのだ。

 三十分ほどでフリウは帰ってきた。何周かしたんだな。


 次は俺………だが、さすがに西日に向かって飛ぶ気にはならない。

 日の入りがすんでからだな。

 俺達は整備工場の中に入り、めいめいくつろいだ。

 そこに、ミシェルとリリ姉がやってくる。

「おめでとうございます!」

「いえ、そこまでいわれる程のものではないですよ?最初の私が抜けていただけで」

「いえ、他の皆は、覗き込んでもちんぷんかんぷんでしたから」

「ところで………とノートパソコンを見せてくるミシェル。うちのHPにラベーンとフォースパンチ基地の写真を、無人化の証拠に乗せたろ?「人民を守る会」は自分たちで偵察を出すつもりみたいだけど、他の集団で、移住したいから手伝ってほしい………要は「ウィングブル」に乗せてってほしいっていう集団が首都近辺で3件あるんだけど………どうしよう?」


 俺とフリウは視線を交わしあって、

「決戦の後ならいいんじゃないですか?「首都SOS」も助けるのでしょう?」

「そうだな、二、三日後になるが移住させると答えていいぞ」

「わかった。さがせばやっぱりいるんだね、こういう人たちが、まだ」

「あ、ミシェルお前、わざわざ探したのか?」

「うん、邪魔しない程度ならいいと思って………ダメか?」

「いや、いいよ。俺が見てないときは管理を任せる。俺じゃあ、そこまで熱心に探さないからな」

 ぱああっと、ミシェルの顔が輝いた気がした。こいつのこういう顔、久しぶりに見るな。うん、こないだのフライトの時を考えると、出来ることをやらせた方がいい。

 人助けは程々にしないと、ヴェルが嫌がるけどな。


 そんなことをやっていると、日が沈んだ。俺の番だ。

 操縦席に乗り込み、説明書を思い出しながら操作を始める………。

 機体は、見事に宙を舞った………何だか不安定なのは俺のせいだろうか?

 おいおいおい!!!

 機体は、横にスライドしてあらぬ方向に飛んでいく。

 あ、もしかしてこのレバー!

 想定外の動きをしていたレバーは元に戻したが態勢が回復しない!

 俺は郊外に横倒しに着陸した。

 これは………普通には元の場所に戻せないな。

『教え・剛力十!』

 俺は爆撃機を持ち上げた。そして空を飛んで滑走路に戻って来る。


 歓声が上がってるが………近づくにつれて静かになった。

 俺は、ちょん、と爆撃機を置いた。

 沈黙が痛い。

「雷鳴………もう一回復習しましょう」

 何だよフリウ!その表情は!慰めなくていいから!


 結局、成功したのは一時間後だった。

 町を何周かして普通に帰って来る。

「おめでとう、雷鳴!」

 うるさい、ミシェル。ジト目で見ると笑顔で返された。

 天使って、天然でこういう返し技くらわしてくるよな。


 二人共の機体に、ダミー爆弾をできうる限り積んだ。

 あとは、効率的な落とし方を研究するだけだ。

 ダミー爆弾の回収は、自分たちでもするけど、ミシェルとヴェルとリリ姉に任せた。

(ヴェルは基地内を散策してたのを呼び戻した)

 何回か練習してから、本番に挑むのだ。


 それには、あと1日ほど時間がかかった―――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る