第25話 無人の野を途中まで(フリューエル)

 昼になりました。

 わたしは体内時計がありますが、そうでない人は「今何時?」

 でしょうね。


 皆を置いて、サイドドアから「ウィングブル」を出ます。

 病院で、掛け時計と目覚まし時計をGET。

 看護婦さんのご遺体から腕時計をいただいてから、外のコンビニに行き乾電池を「買って」おきます。それから「ウィングブル」に戻りました。


 スマホで確認したら丁度正午だったので、目覚まし時計をON。

「じりりりりりりり!!!」

 思いのほか大きな音ですね。

 今が一番起きにくい、ヴァンパイアの雷鳴以外起きたんじゃないですか?

「おい、それを止めろ」

 寝ぼけ眼のヴェルから苦情が来ました。はいはい。

「今度から交代の時に鳴らしますから」

 そう言ったら、みんなうへぇ、という顔になっていました。

 今まで結構いい加減にやってましたからね。

「あと、いちいちスマホを確認しなくてもいいように掛け時計も持ってきましたよ」

「あ………それふぁ便利れしゅかも」

 とはまだ目をこすってるリリジェンの言。下が回っていませんよ。

 まあ、彼女はスマホを持ってませんからね。

 彼女には腕時計も渡しました。

「ライノ」の上に乗った時ちゃんと休む時間がわかるように、です。

 無理しそうですから。


「さて、起こしてしまいましたが、私とヴェル以外は、まだ休んでいていいですよ。目覚まし時計は6時間ごとに鳴ります。リリジェンにはすみません」

「いえ、私はあまり寝る方ではないので、大丈夫ですよ」

 あ、舌が回るようになっています。

「それとミシェル、交代の合図なんですから、自分が起きたら雷鳴を起こすように」

「はぁい」

 まだ寝ぼけていますか?まあ、今回は良いでしょう。


「ヴェル、操縦席に行きますよ」

 内部ドアを開けます。

「ああ」

 眠気はとんでいる様子。

 発信させるとき、私は結構な緊張を強いられました。

 短距離滑走は便利で、難しいことはなかったんですけどね。

 舞い上がってしまえば、後は飛行するだけ。

 助手席に置かれた地図と計器を見て方向を決めます。

 目的地は、都市ラベーンにあるフォースパンチ基地です。

 

 無人の野を行くかの如し、ですね。他の飛行機なんてまず飛んでません。

 ですが、眼下を見下ろすと何とも言えません。

 焼野原になってしまっているところ、屋上に「ヘルプ」と書いてあるビル、未だにゾンビが群れているところ。

 高度が上がれば見えなくなりましたが、心に刺さる光景です。

 雷鳴のHPでも、救えなかった人はいたそうですし………「助けてくれ」と言っていたひとは助けたのですから、良しとするしかありません。

 被害者を増やす輩を、倒すのが優先です………と自分に言い聞かせます。


 静かな空の旅は、考える事ばかり多いですね。

 私は操縦桿を固定してから、横の席のヴェルを見る。

 何だ、とこっちを向いたところにキス。深い口づけだ。

 本来の強度の精神感応で接触しているのですから、防御の指輪をつけていても、ここまでしたら深層意識迄感じられます。

 熱く強固な深層意識。ぐっと支えられた気分になりました。


「………どうした」

 すぐに操縦に戻った私に、ヴェルが問いかけます。

「本当は抱き着きたかったんですけど………席を立てないから、その代わりです」

「………なんで抱き着きたかった?」

「いろいろ、いろいろ重なって」

 私は膝に爪を食いこませます

 「背負い込むなとは言わないでください。いつもの仕事では、隊長は私なんですよ。部下に背負わせるぐらいなら―――」

「今は皆対等だろうが」

「癖がついてるんですよ。じゃあ、せめて愚痴を聞いてくれます?」

「………いいが。俺は悪魔だ、大したリアクションはとれんぞ」

「いいですよ、別に―――」

 そうして、わたしはヴェルに甘えることにしたのでした。


 目覚まし時計が鳴る。

「ウィングブル」の操縦席には四つ椅子があります。

 起きた雷鳴達は内部ドアから、後ろ四つの椅子に滑り込んできました。

 私から操縦の引継ぎを受けた雷鳴は、危なげなく操縦を代わりました。

 ヴェルもミシェルと場所を交代します。


「雷鳴、ノートパソコン貸してください。情報を集めてみたいので」

「いいよ、好きに使って。でも寝不足にならないでね」

「六時間ごとに寝て起きてなんて、そもそも時間間隔おかしいですけどね」

「確かに」


 軽口を叩いて、「ウィングブル」の後部に下がります。

 私は雷鳴のノートパソコンを取り出して「人民を守る会」のHPに入ります。

 彼らの本拠地は、私達の進行方向であるタラバ近く―――ニコタンテにあります。

 ちなみに、雷鳴もそうでしょうが私もこの星の言語は把握しています。

 掲示板で、「ゾンビ以外に困ったことがあったら、融通できるものはする。ラベーンのフォースパンチ基地に寄ろうと思っていて、成功すればいろいろ手に入るが、現地の様子は?情報はないか」


 と、問いかけてみました。三時間後に返答がありました。

「ラベーンから大挙してどこかに向かうゾンビを見たやつがいる。あの人数なら、街にゾンビが残っていたとしても、大した数じゃないだろうって予測だ。あくまで予測だ。もしフォースパンチでモノが手に入るなら、食料と武器弾薬が欲しい。もし医療品があればいう事ない」

 大挙してどこかへ………「キング」を思い起こさせて嫌ですねえ。

 取り合えず返事は

「当方の移動手段は空か陸、多く運べるのは「空」だが、その場合市外まで取りに来てもらわないといけない。それが無理なら「陸」で何回か輸送するが、どうか?」

「市外に行くまでに、ゾンビの吹き溜まりになってる箇所がある。届けてくれるのであればありがたいが、そこを突破することになるが、いいか?」

「近くまで「空」の輸送機で行き、「陸」の輸送機で、試みてみて、ダメならまた相談しましょう………っと」


 何度か交代があり、雷鳴とミシェルの当番の時に、「ウィングブル」は着陸しました。大体24時間で到着です。予想より早かったですね。

 私は起きていたので(体が痛くて)内部ドアからするりと入り、後部座席に座りました。コックピットから見る景色は「惨劇の跡」

 つまり、動くものはなーんにもありません。

 ………ただの「惨劇の痕跡」です。

 羽小江山の軍基地と何も変わらない―――いえ、あちらは私たちがゾンビの死体を量産したので、こちらの方がまだきれいかもしれません。


「他の者も起こして見て回ってみましょう」

 雷鳴は振り返り

「OK。多分だだっ広いから二手に分かれよう。何が仕掛けられているか分からないから気を付けてね」

 寝てる連中―――リリジェンは起きてきていたので、ヴェルだけでした―――を起こして、基地内探検です。


 ………広すぎますよ!さすが町が基地に支えられていると、webに書いてあっただけの事はあります。

 幸いきちんと区分けされていたので、純軍事物資は固められてありましたが、それでも広すぎます。ただ、妙に死体が少ない………いえ、ないです。

 ゾンビがいないからだけではありません。死体がないのです。痕跡はあるのに。


 雷鳴と通信を開き

「とにかく、ここは広すぎます。ちょっと時間をかけて探索しましょう………自分の行ったところの地図を作ります」

「いや、これもう俺の「教え」で何とかするわ。いっぺん、発着場のウィングブルまで戻ってきて。」「はぁ………。わかりました」

 通話を切りました。


「ウィングブル」に帰ります。ヴェルもです。

「おー、お帰り、そこの長方形は踏まないでな」

 滑走路に白線で、巨大な長方形が描かれています。

「じゃあ、いくぞ『教え・観測十・縮小国家』!」


 ぱぁぁ………長方形の中が光り輝きました。

 光が治まるとそこには、この基地のホログラムで描かれた立体地図がありました。

「雷鳴、これは?」

 確かに全体図は把握できますが、物、場所の把握はどうするのでしょう。

 雷鳴はそれに命令を下しました

「軍用倉庫、光れ」

 立体地図いくつも光ります

「フラッシュバンがある場所、赤く光れ」

 倉庫のある一角が光りました。

「こうやって使う」

 なるほど………。なら、

「リセット」

 雷鳴が、私の聞きたいことをやって見せてくれました。

 全ての光が消えます。

「物、場所、人を検知して光る仕組みだ。光の色は様々に変えられる。動いてるものは、一緒に光も移動する」


「これで皆、各々目的物を見つけて欲しい。フリウは「人民を守る会」から色々頼まれているんだろう?」

「ええ、ただその前に手に入れたいものがありまして。雷鳴、貴方も先の「キング」戦で思いませんでしたか?相手が大きすぎて、リーチのない武器は通用しにくいと」

「確かに。ヴェルの脳みそ破壊なんて、まさにそうだったもんな」

「それで皆に、軍刀を持ってほしいと思いまして」

「なるほど、全員で体に合うのを見つけに行きたいんだな?」

「はい、確かアマリカのものは、刃渡り七十センチぐらい。それぐらいなら皆持てるでしょう。リリジェンだけがちょっと長いですかね?」

「背にさしていきます。わたしも一応、ビームソードなら扱えますし」

「俺は苦手だぞ。打撃武器の方が得意だ。このジャマハダルぐらいなら扱えるが」

「ええ、ですのでヴェルは本当に万一の備えですね」

「俺、短剣とかよりそっちの方が得意です」

 まあ、天界の訓練方法を考えたら、ミシェルはそれで普通でしょう。

「俺も、剣の方が得意だ。賛成多数のようだし………地図よ、軍刀の在りかを示せ」

 基地の一か所が光り始めます。

 全員でそこに移動を始めました。


「私とヴェル以外軍服ですから、ベルト装備で違和感ないですね。わたしたち二人は、かなりしっかりベルトをしておかないと固定されませんが………ヴェルはジャマハダル装備ですから、増えましたね」

「意外と細身なんですね」

「切れ味はどうなんでしょうか」

「無理な力のかけ方したら折れるぞ、気をつけろよヴェル」

 などなど、皆新たな装備をためつすがめつしています。

 さっきのホログラムをミニチュア化して持って来ていた雷鳴が

「訓練用ダミーの場所」

 と言い、ホログラムはこの近くを示しました。

「近くに訓練所もあるし、ちょっと試し切りしてから、「ウィングブル」前―――ホログラムがある場所の前―――で解散しよう」


 試し切りしました。

 ほぼ儀礼用の物にしては、さすが軍用品。切れ味は悪くありませんでした。

 雷鳴がヴェルに軽く指導しています、流石戦魔、覚えは早いようで、普通に使いこなせる程度にはなっていきます。

「悪くはない」とはヴェルの言。

 ミシェルは少しリリジェンを指導していました。

 ですが戦闘用チップを脳内に埋め込まれている彼女のこと。

 教えられれば、すぐにものにしてしまいました。

 多分剣ではヴェルより手練れです。

 ミシェル本人はというと、リリジェンに教えられるだけあって、なかなかの腕前。

 将来に期待ですね。

 私と雷鳴は試合してみました。ほぼ互角。

 他の面子の剣術などお遊びだと言わんばかりの、高度な打ち合いが続きます。

 鍔迫り合いがかなり続いた後、わたしたちはばっと距離を取ります。

 それ以上やると剣が折れるとの判断です。


「いやあ、強いね、フリウ。外で戦りたくなっちゃったよ」

「あなたもですか?ご勘弁を。それに私の本来の武器はこっち―――刃渡り八十cmの中華包丁―――ですよ。また勝手が違うでしょう」

「機会があったらってことでよろしく」

「はいはい、機会があったらですね………もう戻りましょう」


「ウィングブル」の前で、わたしたちはめいめいの行動を決めます。

 最も、補給後ほとんど時間は経っていません。

 皆、「人民を守る会」への輸送品を取って来るのに手を貸してくれるそうです。

 なので、私は何が欲しいか「人民を守る会」に改めて聞いてみます。その際ここラベーンのフォースパンチに無事着いたが、人影は全くないことも添えて。

 しばらくして、返事がありました。

 こちらの現状についての驚きがありありと伝わってきますが、それならいっそ都合がいいと、欲しいものを言ってきます。

 食べ物(携行口糧でいいそうです)、銃器(威力が大きい物なら種類は任せるそうです)、医薬品(専門的なものでなくていいそうです)


 これらから、医薬品をリリジェンに、銃器を雷鳴とヴェルが、食料をミシェルに頼むことにしました。

 私自身はドローンを取りに行きます。空撮用で、できたら頑丈なやつを。


 それぞれ、大量の荷物を何回かに分けて取りに行き、やっと再集合しました。

 私ですか?ドローンの場所がかなり複数個所に散らばっていたので、走り回って目的のものをGETしてきました。


 協議して、ニコタンテ―――「人民を守る会」のある町―――の郊外までは「ウィングブル」で行くことになりました。

 理由?単に物資が多かったからです。

 目的地であるタラバの町の近くも通りますし。


「ウィングブル」を発進させます。

 色々やっているうちに結構時間が経っていたので、全員「ライノ」内でゆっくり休みます。起きたら夕方だったので、操縦は雷鳴とミシェルの担当が担当することになりました。ニコタンテまでは、数時間です。

 体を休めていたら、操縦室からミシェルが出てきて、青ざめた顔で全員集まってくれと言います。

 集まった私たちは、全員絶句しました。

 そこにはタラバに向けて、延々と行進を続けるゾンビの列があったのです。


 方針はすぐに固まりました。

 とりあえず、この先まで「ウィングブル」で偵察、というものです。

 結果、わたしたちが見たものは、悪夢のようなものでした。

 そこには、のっぺりとした肉で出来た、二百m誓い「赤ん坊」が居たのです。

 それは、「オオキナヒト」の一種でした。

 ゾンビの列の行先は―――「オオキナヒト・アカンボ」としましょう―――の口の中だったのです。

 そしてかみ砕かれ(服と靴はごと)、デロっとした液状に吐き戻されて、周囲にいる小さな大量の「侵略者」達のエサになっています。

 小さな「侵略者」のサイズは三十cmぐらいでしょう。

 あくまで、確認したのはこの種類だけですが、この「侵略者」は液状でないとものを摂取出来ないようです。

 もしかしたら幼生体なのかもしれません。

 それにエサをやる係として作られたのが、「アカンボ」なのでしょうか。

 とりあえず、一人モグモグするたびに、「封印具」に新たに人が混ぜられているような動きが感じ取れます。

 次々に新しい者が来るので「封印具」はパニック状態です。

 あまり融合自体は進んでいないのは喜ばしい限り。

 ええ、テレパシーが解放されたので、わたしにはこれぐらい朝飯前なのですよ。

 二百mはあるのに体の半分はある、赤ん坊めいた大きな頭は、多量の魂を収容するためなのでしょう。

 バランスが取れないらしく、大きなタワーに寄りかかっています。


「フリウ様………私、今やれといわれれば「アカンボ」は弱らせないと無理ですけど、ゾンビなら列ごと全部浄化できます………「侵略者」は分かりませんけど」

 怒りと悲哀の表情を隠すことなくリリジェンが言います。

「私も、さすがに今これを放って、ニコタンテに行く気は起こりません………」

 皆に是非を問うと

「俺はどっちでもいい………が、フリウが放っておけないなら、そうしよう」

 と、ヴェル。ふふ、ありがとう。

「俺はこれを放って他の所へなんていけません」

 とは、ミシェル。天使として正常な感覚で喜ばしい限りです。

「多数決で、ささやかな人助けより先に戦闘だね。『勘』だけど多分、リリ姉が浄化したら、細かいアリもジュワっと行く気がするんだよね」

「それは私もそう思います―――『第六感』で。」

「で、用心棒が出てくる、と」

「どう出てくるかが分からないですよね」

「だから、布陣はこうしよう」

 雷鳴と私は軽く意見のすり合わせを行います。

 ほぼ同じことを考えていました。


「脳破壊は、頭の上に立てるといっても早晩振り落とされるでしょう。ですから、安定して飛べる私と雷鳴とで努めます。ただヴェルの一撃は大きい。雷鳴が飛ばしてくれるので一緒に脳破壊に残ってください」

 言葉を継ぐ

「リリジェンとミシェル。たぶん、こういう時のために用心棒が居ます。こちらに登って来ようとするでしょうから、撃墜をお願いします」

「リリ姉とヴェルは俺が『教え・血の魔術・飛翔』で飛ばすよ。そっちに制御は委ねるけど、あんまり俺から離れないでね、効果範囲が切れる。三百m以内かな」

「今回はスピード勝負になるでしょう、各人頑張って下さい」


「ではリリジェン、お願いします」


 想いを込めて この世界を想い 伝えます………


 リリジェンの奇跡により、町を目指していたゾンビの群れと、タラバのゾンビの群れは、残らず灰と化しました。

 小さな「侵略者」たちも、ジュッと蒸発していきます。

 それと同時に、「アカンボ」の巨大な頭部に取りついた私達は、攻撃を始めました。


 取り合えず殴るヴェル。

 その力は解放された私の『超能力・身体強化』を纏った私と同値のはず。

 ならば―――。

「アカンボ」の頭にクレーターが出来ました。皮膚がだらんとめくれ、頭蓋骨がバラバラと落ちていきます。それ以外は頭に刺さりました。


 わたしは、「アカンボ」の額に一閃。

 もちろん『超能力・身体強化』をMAXでかけて。

 前よりもはるかに強くなった一閃です。刃渡り八十cmの刀身は、ほぼ根元まで埋まって―――振り抜かれました。


 雷鳴は、何かの術をかけると、「アカンボ」の頭を切り取り始めました。鉈を超高速で、しかも超力で、振るっていきます。

「おんぎゃやあやっややややきゃきゃ!!!」

「アカンボ」が絶叫しました。


 そして下は―――人間サイズの「侵略者」すなわち二足歩行する蟻が、多数―――目分量で五百体ほど―――出てきました。

 しばらく前、助けに入った家の中で人間に化けていた奴らです。

 あれらは弱い。リリジェンとミシェルなら楽勝です。………が。

 それは数が多少ならの話、この数だと「アカンボ」を登って来る「侵略者」を払いきれるかどうか。


 まあ、あれならいくらか登ってこられても平気ですが―――数で押されて手間取ると「アカンボ」が回復されてしまいかねません。

 私は『超能力・第六感』で、「アカンボ」が回復能力を持っていると感じ取っていました。それを凌ぐスピードで破壊せねばなりません。

 援軍の「侵略者」たちは、その時間稼ぎのためにいるのでしょう。

 次は、その歪な「目」を抉りましょう。


「アカンボ」は目を持っていました。歪に傾いた一つの巨眼を。

 ダメージを与えるには最適でしょう。

 何度も切りつけ―――その端から癒着していくので、体内に潜り込むほどめり込んで刃をふるい、歪な目を抉り出してやりました。


 他でも猛攻が続いています。

 ヴェルの作ったクレーターは「アカンボ」の頭部を変形せしめていました。

 当然、「固いグミ」のような脳もひび割れ、中身が抉れています。

 雷鳴はあれから、「アカンボ」の頭の一部を切り分けました。


「フリウ様!これなら防衛戦をするまでもなく、奇跡を乞えます!」


 でしょうね。

 わたしもここまで、主力陣が暴れたら凄いとは思ってもみませんでした。前と違って、戦場も限定されていませんでしたしね。

 ゾンビもいた分「キング」の方が強かったような気がします。


 リリジェンの、奇跡を乞う声が聞こえます


 想いを込めて この世界を想い 伝えます

 癒しの祈りを 救いの祈りを 絆の祈りを

 存在の祈りを

 魂の営みを われらは諦めず

 例え迷うても生命は再生すると信ず

 世界を抱き 良きなるものに光を導きたい

 われらに託された、かけがえのない祈り

 癒しの祈りを 救いのの祈りを 絆の祈りを

 存在の祈りを

 生命は営みを諦めない

 例え迷ったとしても、いのちは再生すると信じてます

 だからこそ、わたしは祈るのです…

 どうか希望の力を


 輝きが、「アカンボ」の摑まっていた塔から舞い落ち、その身を光にしてゆきます。

「侵略者」達も同じく光へ還元されます。

 そして、魂たちが喜色に包まれ、宇宙へ昇ってゆきます。

 悪魔たちは背を向けていましたが、私とミシェルは魂たちに手を振ったのでした。


 光が去った後に残ったのは。

 この世で最も美しい者の一人でした。

 そう、レイズエル様の降臨です。

 にっこりと笑い、両手を振りながら、

「最弱の駒だったけど、それでも早かったわね、お疲れ様!」

 あわてて、悪魔たちがこっちに向き直ります。

「姉ちゃん、もうちょっと言い様がなくない?脱力しちゃったじゃん」

「そうですよ、レイズエル様。飛行できる人数によっては、「アカンボ」をこかすところから始めないといけなかったでしょう」

「そうね、でもそれは今回で完全解消してあげる」

「どういうこと、姉ちゃん」

「各人の飛行手段を取り戻させてあげるってこと。ああ、前回それだったミシェル君は、今回は敏捷力の解放を」

「は、はい。ありがとうございます」

「リリジェンは元の手段がないから、『魔法・飛行フライト』ができるように」

「ありがとうございます、院長先生」

「全くあなたは………いい子ね」

「?」

「いいのよ。各人疑問はない?」

 私たちはそれぞれ、翼で羽ばたくイメージで飛んでいた。というか、見えないだけで翼の感触がするのだ。飛べて当然であろう。ヴェルや雷鳴も飛べている。

 リリジェンもあわてて『魔法・飛行フライト』の使用感を確かめ、

「魔力は元のままなんでしょうか?」

 と疑問を口にしている

「使えないだけで元のままね。気にせず使いなさい」

 成る程、ガス欠を心配したのですね。

「リリジェン、それなりの魔力はあるのですよね?」

「大丈夫よフリューエルさん、人間としては大したものだと思うから」

「レイズエル様、お答えありがとうございます」

「いいからいいから。これで、大分戦いやすくなったでしょう?他の人の飛行まで維持したり、念動で自分自身を浮かせたりって、滅茶苦茶神経使うもの」

 レイズエル様はぱたぱたと手を振って

「それとね、今回の物理的支援なんだけど、何だか自分でも工夫してるみたいなところ悪いんだけど、本来の自分の武器、使いたくないかなって思って」

「ちょっ、姉ちゃん、使いたいよ!俺、短剣も軍刀も拳銃もダメじゃないけど、本来の武器、ファルシオンなんだから」

 初耳ですが、それでは今の武器は使いづらいでしょうね。

「何で最初の銃用バッグに入れてくれなかったの?」

「ごめん、最初は銃の方がいいかなーと思って。リソースそっちに割いた結果」

「うー。今から使えるならいい事にするけどさぁ」

 言って雷鳴はダークブルーの刀身、煌めく銀の柄のファルシオンを受け取ります。

 ここで発揮できるのかは分かりませんが、どうみてもマジックアイテム。

 鞘とベルトは、おそらくドラゴンの革ですね。

 短剣と軍刀、鉈も、そちらのベルトに挟みなおして、雷鳴はしっくり来た、という動作をしています。だいぶものものしいですね。

 全部使いどころがあると思っての判断でしょうが。


「次はあなただけど、解放空間での武器、もう持ってるわよね。代わりに『超能力・念動』の解放をしましょうか」

「有難うございます。充分です」

 わざわざ使い勝手が高い能力を解放して下さっています。

文句のあろうはずもありませんでした。


「あなたはこれね」

 ヴェルに渡されたのは、デザインナックル。

 黒鉄の握る所は中央に髑髏、それが羽を広げたかのような仕様。

 リングの殴るところは尖り盛り上がり、ルビーのようになっている。

 正に悪魔か死神を連想させる代物。

 己の武器を見つめて、ヴェルが物騒な笑みを浮かべている。


「あなたはこれ」

 ロングソードを受け取ったミシェルは嬉しそうです。

 癖のなさそうないいひと振りですね。

「このままだと、天界の品っていうだけだから、二つ能力を付与しておくわ。「破壊困難」「切断強化」これでいいかな?」

「はいっ!」

 凄く嬉しそうです。


「最後に、リリジェンにはこれ」

 使いこまれたハルベルト。

 何度も修復を重ねてきたものらしく、色々な金属が混ざって見える。

「あなたはこのままでいいっていうだろうけど、壊れるのは嫌でしょ?「破壊困難」「攻撃力強化」だけかけておくわね」

「はい、ありがとうございます!思い出の装備なので嬉しいです」

 リリジェンにもそういうものがあったのですね。


「これで、今回の支援は終わり!何かいう事ある人、いる?」

「次に行くべき場所などは、自分で選ばないといけませんか?」

「うん………さすがに文句が出ると思う………けど」

「けど?」

「雷鳴の啓示で大丈夫でしょう」

「ちょ、姉ちゃん、答え言ってるようなもんじゃん」

「私は何も教えてないもーん」

 そう笑って、悪戯な台詞を残したレイズエル様は消えてしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る