第22話 首都攻防戦①(フリューエル・ミシェル・雷鳴)

 ~語り手・フリューエル~

 私の提案により、右成京には、高速道路を使って入ることにしました。

 ゾンビは、高速道路にはあまり入ってこない、と以前立証されています。

 あの時は―――恐らくは「侵略者」の手により―――高速道路は途中で破壊されていたのですが。今回はどうでしょうね。


 結論、私たちは高速道路を快調にとばしていました。

 今運転しているのは雷鳴君とミシェルです。

 後方では運転席と同じ爽快感が欲しいので、左右の扉をあけ放っています。

 スライド式の扉なので、バッタンバッタンはしません。

 でも、いつ閉まるか不安なので、マスキングテープで止めてありますが。

 風は凄いですが心地は良いですねぇ。五枚重ねの毛布の上で、寝転びます。

 アザが痛いですが、皆が集めてくれた毛布のおかげで大分マシです。

 ちなみに飛びそうな物には適当に重しをしてあります。


 皆、ゾンビが視界に侵入してこないとあって表情が明るいです。

 ………この先が地獄な可能性が高くても、今だけは明るく。


 雷鳴君のノートパソコンを借りて「生存者の集い」から、首都の様子を探ってみましたが、混雑した人ごみのごとく、大通りを地獄のごとくゾンビが行き交っているものの、その他の場所にはあまり現れないとの事。

 あと、人が多く集まる場所には、群れていることがあるとか。

 コンビニとか、スーパー、ガソリンスタンド………私達も用がある所ですね。

 質問に答えてくれたユーザーはそういう場所を避けて永らえているとの事でした。


 考え込む私に、リリジェンが今は、爽快感を楽しみましょう、と声をかけます。

 まあ、そうですね、実際目にしてから考え込んでもいいでしょう。


 ちなみに運転は、いつもの二ペアで三時間交代となっています。

 六時間では、着いた時に片方が疲弊してる可能性があるということで。

 運転席で無人の道路を爆走するのも悪くないんですけどね。

 さて、そろそろ運転交代の時間です。


 雷鳴君は運転のハンドル操作でさえ、腕や腋が擦れて痛いだろうから止めといた方が、といいますが、何もせずに鈍痛に耐える事こそ苦痛ですので、と言ったら諦めてくれました。

「悪魔なのに、あなたは優しいですね」

「ヴェルだって、内心ではフリウの事、絶対心配してる」

 ヴェルを見ると

「否定はしない。………運転なら代わってやる」

 と返ってきました。あら、まあまぁ、耳が赤いです。そんなに想ってくれるとは。

「ありがとう、ヴェル。運転は私がしますが、私も貴方を想っていますよ」

「なっ―――」

 顔まで赤くなっています。

「結ばれる運命にはないとしても―――いま、私は貴方が好きです」

「………俺もだ」

 ぼそ、とした返答。でも私は、そんな彼が好きです。

 表層意識を読んだだけでは、決してこうはならなかったでしょう。

 彼の深層意識を、あの凶悪な衝動と戦う彼を知ったからこそ好きになりました。

 読んだのが彼だったら、彼はどうしたでしょうね。嫌われたかもしれません。

「でも、誓いの宇宙空間での戦闘、あなたはどうせ履行するつもりなんでしょう?」

「当たり前だ」

 でしょうね。ヴェルですから。

 さあ、運転を代わりましょう。


 ―――2時間ほどたって、右成京に入りました。

 困りましたね、来たのは良いですが、何をすれば―――?

 と思っていたら通信機から雷鳴君の声が聞こえます。

「『勘』だけど、このまま中心部まで行って。そこに何かある」

「了解しました」

 取り合えずの指針ができたので、私はそのまま都市中央部に向けて運転を続けます。


 そして見えてきたのは、とんでもないモノでした。


 巨大なビルの屋上につかまり立ちする、超巨大な「オオキナヒト」

「オオキナヒト・キング」とでも申しましょうか、そんなモノが首都・右成京でも有数の巨大ビルにつかまり立ちしているのです。

 全身に目があり、まるで百目鬼どどめきのようです。脳天には口だろう穴が空いています。

 まさか―――と私の『第六感』が囁きます。御井祐の―――温泉地帯で、外に出てはいけない、と雷鳴君が言っていたのは、こいつが通過していってたからでは?

 その後観光街が異形だらけになっていたのは、こいつがで普通のゾンビを「食って」行ったからでは?

 わたしは、「オオキナヒト・キング」の巨大な青い封印具に目を向けます。

 目まいと吐き気がしました。

 数千人に上るであろう魂が、不完全に(おそらくはまだ)溶け合い、怨嗟の、または歓喜の、戸惑いの声を上げているのです。


 わたしは、通信機を使って、その事実を皆に告げます。

 リリジェンが、ドアから出てきて、「オオキナヒト・キング」―――以下「キング」―――に向けて聖印をかざします。聖印が淡く光りました。

「私の実力では、あのままでは浄化する事は出来ません。肉体―――できれば脳にもっとダメージが入っていないと」

 その声で、全員が車外に出てきます。

「脳………それには、頭の突き出てるあのビルの屋上にいかないといけませんね」

「おれの『勘』だけど、それをした場合、確実にゾンビが妨害に来る。あいつはゾンビが登り易いように、体を変形できるとも思う」

 雷鳴君はすっ、と高速道路の下を指さします。

「キング」に目をとられていましたが、大通りは埋めつくされんばかりにゾンビが歩いています。―――整然と。

「あの数のゾンビに群れてこられたら、ダメージ与えるどころじゃないと思うんだ」

「同感ですね、何とかして数を減らさないと」


「で、さぁ。あれ使えないかな」

 雷鳴君の指さした方向には、建設途中の、鉄骨構造だけのビル。

 作業員が登れるように、ちゃんと道はついています。鉄骨で。

「キング」が取りついているビルと同じぐらい高いです。

 ツインタワーとか呼ばれる予定だったのですかね。が………はて?

「あの上でフラッシュバンを炸裂させる。それだけじゃ弱いから、実際に誰か配置する。近接戦闘よりショットガンで遠距離攻撃する。普通の銃弾じゃ鉄骨で阻まれるからショットガンがいい。あとリリ姉の空気砲も射程が長いからいいと思う。勿論上ってこられた時に備えて近接戦もできるに越したことはない。あの高さだから、突き落せばそれで済むし」

「要するに、ミシェル君とリリジェンを配置したらいいと思うんですね?」


「うん。後の面子は、ヴェルミリオンに頭を殴ってもらって俺がに左右の腕の相手を、フリウに登って来るゾンビの相手を―――って思うんだけど」

「『念動』で空中浮遊しながら蹴り落とせば済む話ですから、それはかまいませんが、他の面子はどうでしょう?ミシェルは高いところは、当然平気ですよね」

「平気だけど、今は飛べないから不安だ。その役目自体に異論はないけど」

「大丈夫だ、短距離だけどリリ姉が飛べる」

「えっ?」

「疲れるから、いつもは使ってないけど、足がロケットエンジンになってる」

「ええっ⁉」

 リリジェンはもじもじしながら、

「燃料が私の生命力なので、短距離飛行ですが。―――飛べますよ」

「は、ハイ。わかりました………」

「それでどうにもなりそうになかったら、俺かフリウが行くから」

「わかった」


「この方針で良いかな、フリウ?」

「そうですね、まず引き付け組ですが、フラッシュバンはまずは路面に、ついで建築中の建物の中で、最後に建築中の建物の最上階で炸裂させる。二人には最上階を目指して、中腹あたりから登ってもらって、ゾンビを引き付けるという事でどうですか」

「そうだな。最上階まできたら、こっちが見えるから、もう奇跡を起こせそうなら叫んでもらうってことで。一応スマホも渡しとくけど」


「で、わたしたちは、さっきのフォーメーションで良いと思いますが………」

「?何?」

「摑まってるあの腕、動きますかね」

「俺の役目だな。『勘』だけど、多分動く。もしくは体を変形させて来る。」

「そうですか………雷鳴君が言うなら動くんでしょうね」

「嫌な予感がするから、基地から持ってきた刃渡り三十cmの鉈装備で行く。リリ姉とミシェルも、似た様なの持ってきてるから自分の短剣の他に、装備しておいてな」

 ふたりはコクコクと頷く。


「ヴェルは……刃物は専門じゃないんだよな?」

「普段は使わないな。使えないわけじゃないが」

「なら、カイザーナックルに短剣の刃がついてるような、これはどうだ?ジャマハダルって名前で刺突用の短剣の一種なんだが………。珍しかったから、二本基地に転がってたのを持ってきた。もしかしたらだれか個人の持ち物だったのかもしれん」

 ヴェルは真剣に悩み始めた。

「相手の皮膚が分厚かった場合、ナックルは脳に届かんかもしれんな………。慣れないが、その短剣を二本借りて行こう」

「え、両手に装備する気?」

「殴るのと同じスタイルで使うからな」

「マジかよ………刃、折るなよ?」

「使ってみんと分からんな」

「あなたは武器とか戦いの話には饒舌ですね」

「戦魔だからな」

 それで済ませていい問題かと、私は少し首を傾げました。


「じゃあ、これでみんな作戦の概要は分かったな?」


 まず私、フリウ

「私は頭部に行くヴェルと、「手」の相手をする雷鳴君の邪魔をさせないよう「キング」を登って来るゾンビを倒します。手が空いている場合、どうせ飛んでいるので後頭部や背中を攻撃しますね」


 次にヴェル

「俺は、頭部―――というか脳みそか………にダメージを与え続ければいいんだな?届かない場合は、ジャマハダルとか言う短剣(刃渡り40㎝位)を使って攻撃する」


 雷鳴君

「ヴェルを両腕、もしくは新たに作りだされた部位から守る。ダメージを与える事にも注力するよ」


 ミシェル

「鉄骨のビルで、ゾンビを引き付ける役目をする。できたら、一番下から上がっていって、よりたくさんのゾンビを引き付けようと思うんだけど」

「お前がそんな発言するとはな。いいだろう、それでいこう」

「ありがとう」

「じゃあヴェルは、俺がこいつ(最下層)とリリ姉(中腹あたり)を送り届けた後、俺が帰ってきてから戦闘開始で」

「私は先に攻撃を開始していますよ、最初は背中が無防備でしょうから」


 リリジェン

「最初は中腹で引き付け役を勤めつつ、追手のゾンビを狙撃します。近寄ってこられたら短剣か鉈で撃退。その後上に登っていきます。登る間にも狙撃を。上についたらゾンビの浄化をしつつ、奇跡をおこなえるようになるまで待機」

「リリジェンにヴェル用のスマホを渡しておきます。私か雷鳴君にCallして下さい」


 さあ、いよいよ作戦決行です。


 ~語り手・ミシェル~

 まず、目標の建物?の前にフラッシュバン一発。

 それがおさまったら俺は目標ビルの前で雷鳴に下ろしてもらう。

 間近で見るゾンビの大集団にはそれだけで心胆が寒くなる。

 フラッシュバンの効果で集まってきてるのもあるが………。

 連中に姿を見せてから、工事中のバリケードを鉈で破壊、中に入る。

 連中は着実に付いてきている。バリケードがあちこちで破られ始めた。

 このタイミングで、中腹のあたりでフラッシュバンが鳴った。

 おさまった後、リリジェンが配置されたのが目視できた。

 俺は急いで鉄骨を登り始める。なんて本人たち以外に分かりにくい作りなんだ!

 ここでショットガンを撃っても、鉄骨に阻まれて碌なダメージにならないだろう。

 それでも頭部にきっちり照準を合わせられれば「浄化」できるだろうが。

 ゾンビを引き付けつつ、リリジェンのいる高さの反対側へ登らなければ。


 リリジェンは、俺が登る援護をしてくれた。

 リリジェンが居る位置は、俺が登ろうとしている方向と反対側。

 上まで上がり切れば、「キング」にショットガンの届く位置だ。

 俺はその反対、奥の方。リリジェンにすれば、援護しやすい位置なのだろう。


 その時、頭上で最後のフラッシュバンが鳴った。

 かなり目立ったろう、早く登らないと、押し寄せてくる津波に飲み込まれる。

 もう、バリケードは襤褸屑と化していた。


 ~語り手・フリューエル~

 雷鳴君が鉄骨建設中ビルにミシェルとリリジェンを運んで行きました。

 私は向こうのフラッシュバンの三発目が―――建設中ビル屋上(?)―――で炸裂したのを確認しました。

 ヴェルの胸に抱き着き「いきますよ」「ああ」と言葉を交わす。

 まるで睦言のように。

 私とヴェルは「超能力・念動」で、舞い上がる。というか念動に持ち上げられる。

 巨大ビルの屋上にヴェルを送り届けます。

「無事で」「おまえもな」囁きあい。


 雷鳴君が来るのを確認して、私は剣を抜き、「キング」の背中の片側を真っ直ぐ上から下へ切り裂きました。それはもう、深く。私の剣は刃渡り八十センチはあるので。

 もう一方の背中も、同じようにしてやります。

 ゾンビが登って来るまでの間ですが、爽快です。

 その後は滅多切です、こういう時、私の愛剣はダメージ範囲が広いので良いです。

「おおおおおおおお」

 キングの口から呻き、もしくは悲鳴が発されます。

 おや、私の方へ、触手が何本も出来上がり、迫ってきます。

 ひらひらと舞いながら避け、全て切り落としてやりました。

 ここにきて、「キング」は体を変形させ、ゾンビの登れるスロープと化しました。

 ゾロゾロとゾンビ達が登ってきました。

 私は手榴弾を取り出します、最初ぐらい牽制してもいいでしょう。

 頭を狙うので倒れるゾンビもいるでしょう。手持ちのうちから二個投擲。

 ちなみに、今のを合わせて、十個持ち出しています。

 ゾンビたちに、「キング」にもダメージの行く方向を狙って投げてやります。

 すべての手榴弾を使いつくしました。意外とダメージになりましたね。

「オオオオオオオオオオ!!」

 おや、わたしではないので、おそらくヴェルが攻撃に成功したようです。

 でも、当然ですがゾンビの登って来るスピードは変わりません、いえ、もしかしたら彼らなりに焦っているのでしょうか?

 私は下の方に降り剣の一閃で、彼らの脳にダメージを与えます。

 第二波、第三波とくるので何度も薙ぎ払いを繰り返します。

 面積が多すぎて、上ってくる者を全部落とし切るのは無理です………が、高所に行け行くほどば念動で落とせばよくなります。焦らずにいきましょう。

 念動は不得手ではありませんが得意でもないので、少々体力が不安ですが。

 ここからは、相手が登攀中という事を逆手にとって、ゾンビの頭を刃の付いたこのブーツで踏んでいきました。脳を破壊されて(「浄化」されて)停止するゾンビ。

 それを後続のゾンビが乗り越えてくるので、タップダンスで舞台を右から左へと踊っているかのように、一列にゾンビ達の頭を蹴っていきます。

『身体強化・MAX』をかけている私には、卵を蹴っていくようなモノでした。

 冒涜的な所業だというのは分かっています、後でいくらでも懺悔しましょう。

 だが、上に辿り着かせるわけにはいかないのです。

 あれを―――「キング」を存在させておくほうが冒涜なのですから。

 時々、彼らの後ろに回り、一閃。

 同時に「キング」にもダメージになるように刃をふるいます。

 しかしこのやり方では、頭は一列には並んでないので、切るところがバラバラになります。首だったり、顎のあたりだったり。

 確実に「浄化」してやりたい私は、確実に頭を狙える「タップダンス」方式に切り替えます。要は徹底して脳天を狙うのです。

 この辺りで気付いたのですが、ゾンビはビル内部にも流入していっています。

 このまま屋上まで行ってしまっては雷鳴君の後方を脅かしかねません。

「頭」の位置にまで舞い上がり、その事実を伝えます。

「クソッタレ」というのが雷鳴君の返事でした。

 見れば、「キング」の手がずいぶんゴツくなっていますね、雷鳴君の健闘の結果が出ているのでしょうか?そりゃあ、罵りたくもなりますね。

 私は役割に戻ります。


 ~語り手・雷名~

 超高層ビルの屋上までやってきた。やる事は一つ。殺るつもりで戦るのだ。

 とはいえ、それはヴェルの役目だ。俺は今は様子見だ。

 ヴェルはといえば、近寄ったらあったのが見えた、赤い歪な二つの目を警戒しているようだった。

 結論が出たようだ、ヴェルは右目に強烈なパンチを叩き込む。周囲の皮膚がベロンとまくれ上がるほどだった。目は四散した。さすがだね。

 確かに脳はあった、この攻撃でも届いた。だがヴェルが言う。

「硬質ゴムを叩いているようだ………まだ刺さりやすそうなジャマハダルに得物を変える。折れる可能性は否定できんが、折れた刀身が頭に残ればやり様もあるだろう」

「了解」

 とだけ俺は言った、神経を研ぎ澄ませて、俺は邪魔者はいないか見張りについた。

「おおおおおおおお」

 脳天の「口」から呻きが発される。これは俺達ではなく、フリウだろう。

 ゾンビが来るまでの間を好きに動いているのだろう。

「キング」がスロープ状に変化するのが見えた。フリウの担当区域は激戦地となるだろう。それはこっちも一緒だが。

 ヴェルがジャマハダルでの初撃を放った。今度は左目だ。

 ジャマハダルは、ヴェルの馬鹿げた筋力で半ばまで脳に埋まっていた。

「オオオオオオオオオオ!!」

「キング」の叫びが響く、だが容赦してやる必要はない。

 俺は動かない「キング」の手に攻撃を加えてみることにした。

 バランスを崩せたら儲けものだ。

 ヴェルは、ジャマハダルを引き抜くのに苦戦しているようだが攻撃そのものに支障はないようだし、大丈夫だろう。

 出し惜しみなしだ「剛力十」「剛力十」をかけ、麦を一粒。

 飛び上がり、鉈で、右手首(らしき場所)を深く一薙ぎ。体勢を崩す様子はない。

 切り離された右手はびくびくと震える。

 なんと、切れた右手が本体から離れて浮き、俺に襲い掛かってきた。

 俺は、右手の手のひらに包まれる。―――だが。

 拘束の中で俺は『瞬足』の段階を十まで引き上げた。

 拘束をを力づくで振りほどき、鉈で右手を超高速で振り続けた。

 右手は肉片になった。

 殺気を感じて、一挙動で、屋上の端まで飛びのく。

 左腕が、俺の方へのびてきていた。

 俺は、音を置き去りにして、左手をかいくぐり、その太い肩へと到達する。

 そのまま鉈で掘るかのように、肩を切断していく。

 勿論、左手は妨害に来た、だが―――「教え・支配十」

 命令は頭を攻撃せよ、だ。

 実質左手ではなく脳に出した命令だ。

 素直に聞くとは思ってない、抗おうとするだろう。

 抵抗しようと動きが止まるのが狙い。

 その間に、俺は肩を切断しきる。

 ばだ。屋上に巨大な腕が落ちる―――俺の支配に抵抗しているため動けないのだ。

 その間に、音速で腕はみじん切りだ。

 腕はでろりと液状化した。

 何か来るかと身構えたが、大丈夫な気がしたので放っておく。

 ヴェルの元に戻ると、脳みそは刺し傷だらけになっていた。

「これの三倍は刺したぞ。だが、こいつは再生する」

 なるほど、道理でリリ姉からまだ連絡がこないわけだ。

 俺も手伝おうか、と言ったら、おまえはあっちだろう、と言われた。

 指さす方を見たら、なんと、腕が再生されている。

 先ほどより筋骨たくましいものが、だ。

 そのタイミングで、フリウが報告に上がってきた

 ゾンビ達が建物内にも侵入、屋上に到達したら恐らくそっちに行くと。

「クソッタレ」

 思わず、俺はそう罵っていた。

 腕の相手は、そこまで手こずるものではなかった。

 何せ今俺は音速。その上体の強度は鋼鉄以上、力は「キング」の手を圧倒する。

 時間はかかるが、翻弄して刻んでみせるとも。


 ~語り手・ミシェル~

 なんとか、中腹まで登ってきた。

 後を追ってきたゾンビの頭にショットガンを撃ちこむ。

 なんとかこの鉄で入り組んだ現場で、相手に致命打を与える方法が分かってきた。

 如何に弾丸がすり抜ける場所を見つけるかだ。

 リリジェンは、俺が中腹まで登ってきた時点で、さらに上を目指し始めた。

 援護は期待できない、足を止めていたら追いつかれる―――。

 俺は鉄骨の上を必死で駆けた。追いついてきたゾンビは悪いけど蹴り落とした。

 それは、重力に引かれた落下し「パキャン」と音を立てて潰れる。

 中腹でこれなのだ、最上階から落ちたらミンチになるだろう、勿論俺もだ。

 決して足を踏み外してはいけない。

 俺は高所には慣れてる。体を強張らせる原因である恐怖とは無縁だ。

 だが、追い立てられていては確実と思える足場を選ぶのも一苦労だ。

 やがて、俺は最上階―――屋上?についた。

 ゾロゾロとゾンビ達も上がって来る。

 俺は鉈を持って、相手を倒すのではなく、落とすように戦った。

 ぼとぼとと落下していく、多数のゾンビ達、ああでも彼らももとは人間で―――なんてひどい死にざまなんだ。いやもう死んでいるのだけれど。

 かすかに見える、昇る魂だけが、正しい事をしているのだと思わせる要因で。


 リリジェンは、上ってきた者たちを、空気砲でなぎ倒していた。

 表情は凍り付いたようだが、彼女が何も感じてないはずはない。

 俺は、彼女の斜め後ろの角に位置どった。

 これで、お互いの援護も可能だ。

 これで、あとはどれだけのゾンビを引き付け、倒せるかだった。


 ~語り手・フリューエル~

 じりじりと、ゾンビたちは上に這い登ってきます。

 それを空を走り、頭をかち割っていきます。

 時間をかけて、彼らは「キング」の肩の近くまで来ました。

 彼らは折り重なり、後ろの者が前の者に掴まって登ったり、重なり合ったりとほぼ全員、どこかしら隣や上下の者に重なっています。

 それは、魔法や『超能力』において「一体」と示せる状態。

 ゆえに私は行使します『超能力・念動力』フルパワー!

 べりべりべりっと、一枚のタイルでも剥がすように、全てのゾンビが「キング」から―――超高層ビルから引きはがされ―――宙に放りだされました。念動力は、さらにその上から彼らを押さえつけます。

「ぐしゃんっ!!」効くのが嫌な音でした。

「浄化」されきれなかった人がいるのも、青い光で判ります。

 神よ、「キング」が消え去るまでお許しを。後で必ず「浄化」します。

 そして足元では、知能などないので仕方ないのかもしれませんが、またゾンビが一から登ろうとしています。

 疲労から来る眩暈がします、けれど、そのゾンビは退けなければ。

 もう一回あれをやれといわれても、やれる気はしないのですから。

 だから徹底的につぶさないといけないのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る