第23話 首都攻防戦②(語り手多数)

 ~語り手・雷鳴~

 取り合えず、目の前の「両腕」に対処しなくては。

 片腕に対して「支配十」『自分の頭を殴れ!』をかけて、麦を一粒。

 左腕に取り掛かる。

 音速で翻弄する。やはり向こうは対応できてないようだ。

 左肩から切りにかかる。当然「手」が妨害に来る、だが、俺は『教え・支配十』で対応する。『自分の頭を殴れ!』

 両手は戸惑うようにゆらゆらと、空中を動いている。

 がががががっと、高速で、「キング」の肩は「掘削」された。

 ちぎれるところまで、俺は容赦せずに切り切っていく。

 コイツには、潰れてもらわないといけない。

 侵略者の作り出したものだと、『勘』がびんびん反応しているのだ。


 俺は、十分もしないうちに両手の肩を本体から切り離した。

 なんせ、持ってきたのは鉈。叩き切るのは得意だ。

 未だ、両手は俺の「支配十」に抗い続け―――その動きを止めている。

 そのタイミングで、屋上の扉からゾンビが上がって来る。

 そこで、両腕が反応した。

 そのゾンビ達と「キング」の腕は融合した。

 冒涜的な事だ。新たに封印具に魂が追加されていく。融合してゆく。

 俺たち悪魔は一つの魂を尊ぶ。これは悪魔の視点からも許されざることだ。

 そのまま、「両肩」は宙に舞い上がる。

『支配』に抵抗して、俺と戦うつもりなのだろう。

 しかし、『支配』のせいで、それは芋虫のごとく遅い。

『教え・観測』

 バッドステータス、支配。本体と接続しないが故のエネルギー不足。

 だが打撃力は無視できるものではない。

 仕方なく、俺は構えをとった。油断してやられるのはごめんだ。


 数十分後。

 両腕はみじん切りになっていた。

 俺の、悪魔としての能力が解放されていたら、液状にまでしてやったものを………。

 今、俺は再生される気配のない両腕を放っておいて、普通のゾンビを「浄化」している。悪魔が浄化とは笑えたものだが、美織ちゃん以降、俺はこの行為を浄化だと思えるようになっていた。


 ヴェルは黙々と、脳を殴り続けている、手を抜かずに、ひたすら全力で。

 その度に、頭頂の穴から苦鳴が発される。ざまぁ。多分ヴェルも同じ気分だろう。

 すでにジャマハダルの刀身は折れている。

 ぐぐぐぐ、と押し返されてはいるのだが、ヴェルはカイザーナックルで、殴る事でそれを奥へ奥へと刺し進めている。

 殴打の速度が速くなり、痛いのだろうか

「うああああああああああ」

 という叫びがこだまする


 ~語り手・フリューエル~

 私の戦場は、すでに崩壊寸前です。

 いくら頭を蹴り砕いたとて、彼らはただ黙々と登って来るだけ。

 もう一度「引きはがし」をやるには、私の体力が不安です………。

 まあ、ヴェルに到達しそうだったら、迷いなくやりますけどね。


 そして、その時は来ました。

 私の「踏み砕き」でも、押し寄せてくる津波を止める事は出来なかったのです。

 二回目の「引きはがし」

 再度、「キング」の足元に死体の山が築かれます。

 私は、目がチカチカし、視界不良。さらにとてつもない倦怠感が襲ってきます。

「雷鳴君!私はこれ以上は大技は繰り出せません!よって、次にゾンビがここまで登ってきたら、後は貴方に任せます。勿論、遅滞戦闘は行いますが!」

「了解、リリ姉、後どれぐらい!!」

 隣のビルの、一番高い場所で戦うリリジェンに雷鳴君が叫びます。

 その時

「もう少し………本当にもう少しよ!!」

 返答が返ってきました。その返答には希望がちゃんとあるじゃないですか。

「あと少し、脳にダメージを与えて!腕とか背中のダメージも大きかったんだけど、結局は脳に集約するの!!」

 ヴェルが、殴打の数を増したのが見えます。

「うああああああああああ」

 獲物は射程圏内と言われれば、戦魔はそうでしょうね。


 ~語り手・リリジェン~

 ミシェル君との援護のしあいもあって、戦場は安定していました。

 これなら、相当数のゾンビが引き付けられているはず―――。

 そう思って「キング」の方を見ると、恐ろしい数のゾンビが登攀しているじゃあないですか。フリューエル様は、それを一人で相手取って、一歩も引いていません。

 何というバトルセンス、何という冷静さでしょう。

 思わず援護したくなりますが、私には私の戦場があります。


 登ってきたゾンビを、合金製の足の蹴りで、まとめて蹴り落とします。

 万が一私が落とされる事態になっても、私は飛べます。心配ありません。

 

 唯一苦慮したことは、ゾンビの中に異様に強いものが混ざっていたこと。

 空気砲を直撃させても、頭が割れません。刃物でないとダメでしょうか。

 その迷いの時間を突かれて殴打が来ます、その上噛まれそうになって、私は手斧で応戦しました。強ゾンビの頭を割る事に成功しました。

 やはり私には、短剣より斧の方があっているようです。

「リリ姉、後どれぐらい!!」

 切羽詰まった質問を受けて、やはり向こうも厳しいのだ、と気づきます。

 当たり前ですよね、浄化するべき本体を相手にしているのですから。

 聖印をかざし、私は手ごたえを得ます。

「もう少し………本当にもう少しよ!!」

 頭に閃いたことを言います

「あと少し、脳にダメージを与えて!腕とか背中のダメージも大きかったんだけど、結局は脳に集約するの!!」

 迫ってきたゾンビに蹴り攻撃。ばらばらと、面白いように下に落ちていきます。

 いえ、この発言は冒涜的です。

 彼らは落下で頭を破壊され「浄化」されたのです。


 やがて、ヴェルさんの攻撃が、一定値を突破します。

 今なら………!

「皆さん、奇跡を乞い願います………!」

 叫んでから、祈りを唱えます


 想いを込めて この世界を想い 伝えます

 癒しの祈りを 救いの祈りを 絆の祈りを

 存在の祈りを

 魂の営みを われらは諦めず

 例え迷うても、生命は再生すると信ず

 世界を抱き

 良きなるものに光を導きたい

 われらに託された、かけがえのない祈り

 癒しの祈りを 救いのの祈りを 絆の祈りを

 存在の祈りを

 生命は営みを諦めない

 例え迷ったとしても、いのちは再生すると信じてます

 だからこそ、わたしは祈るのです…


 どうか希望の力を


 聖光が炸裂します。

「キング」の体がぐずぐずに崩れ―――。

 次のものは私にも見えました。神の御加護でしょう。

 数千人の魂が解放されて、喜色と共に天に―――宇宙に昇ってゆくのです。

 そして、聖光を浴びたゾンビ達も、溶けて「浄化」されていきました。

 ああ、私は本当に神から愛されているのだなあ。

 感動が、頭の隅まで染み渡っていきます。

 そんなことを考えていたら

 

 ぎいいいいいっ


 牙がきしむ様な音が虚空に響き、巨大な顎を持つ超巨大な蟻が、顕現しようとしています。それは明らかに私たちに敵意を向けています。

 目をやられてるヴェルさんと雷ちゃんも、は強大な気配を察知して

 そちらを見(?)ます


 その時。

 きらめきを伴って、「それ」は蟻と私たちの間に結界を張りました。

 あれは………院長先生です!


 ~語り手・フリューエル~

 顕現しかけの巨大蟻と私たちの間に、レイズエル様が立ちふさがった。

 あぁ、お目にかかるのはなんて美しい。

 腰まである天鵞絨ビロードのような黒髪。

 この世のものとは思えないほど美しいかんばせ

 メタリックな艶のある深紅の瞳は見る者全てをを魅了する。

 純白の肌は蠱惑的でいながら清純。黒生地に金糸のチャイナドレスを纏っている。

そんな彼女が

「こちらは「ルールを守って勝てば、「ガイア」を譲る」と言っているんです。あなたがこちらに出てくるのはルール違反ですよね?戻ってください。それとも私と、勝ち目のない闘争をしたいのですか?」

「ぎいぃ………」

 巨大蟻は、逡巡したものの、「何か」の命令でも受けた様で、戻っていきました。


「姉ちゃん!何でここに………!」

 雷鳴君が話しかけます。

「ごめんね?本当は祝福ギフトを与えるために来たんだけど、少しあの「侵略者」の説明もするわね」

と、結界を消して振り向くレイズエル様が言う。

「侵略者ってマジで蟻型だったんだ」

 それは聞くべきことでしょうか。まあいいです。

「それは接触してみて、私も初めて知ったんだけど………。とにかく、あいつらと普通に戦うと、宇宙空間にかなりの汚染が残りそうでね。だから『駒を使って戦って勝てば、「ガイア」を与える。負ければ外宇宙に去る』っていう契約を結んだの。こちらも色々交渉したけど使える『駒』は色々交渉したけど、あなたたちだけ」


 私は青くなった。それではゾンビはその「駒」として死なされて―――?

「違う違う。「ゾンビ」は結果的に「駒」になっちゃったけど、「侵略者」は最初から人間をああするつもりだったよ。「キングのような者たちを作るため」にね。契約がなくても何も変わらなかった。今回の「キング」はまだ未完成だったけど」

 レイズエル様は私の思考を読んで、そう仰る。

「あなたたちが「キング」と呼んでいた存在も、最初から作る予定だった。「女王蟻」が作れないかの実験としてね。海外ではもっと実験が進んでいるわ」

「姉ちゃん、それって………」


「そう、海外に出て、そこの「キング」なり「クイーン」なりを倒してきてねって話よ。こちらの「駒」はあなたたちしかいないんだから」

「あの、院長先生。そんな争いに、奇跡の力を使っていいんでしょうか」

「「そんな」争いじゃないわ。貴女があの魂たちを解放しなければ、あれは本当に融合してしまっていたのよ?奇跡と同じ事をするのは、私でも無理なんだから」

「院長先生でも………なら、意味はありますね、分かりました」

 リリジェンは納得したようです。私は

「私たちが、相手の「駒」を全て倒す必要があるのでしょうか?」

 と問いました。国ごとに「駒」があるのであれば、とても―――

「安心して。砕かなければいけない「駒」は五つよ。アマリカに二つ、インデに一つ、オーストテリアに一つ、イタリカに一つ」

「姉ちゃん、そこまでぶっちゃけちゃっていいの?」

「さっきの「将軍」の出現未遂と相殺するわよ。言えるのはここまでだけどね」



「本来は、私は支援のために出てきたの」

「支援?」

 私の問いに、レイズエル様は

「不便な能力状態を、一部解除してあげようって話。あと物理的支援ね」

 皆の顔が明るくなりました。中途半端な能力は、ストレスが溜まりますからね。

 私?溜めていないとでも?

「まず、雷鳴。『教え』のうち『治癒』と『観測』の力を十全なものにしてあげる」

「少しの『教え』でもありがたいよ………!凄いストレスなんだ!」

 あれで弱体化していたのですか―――まあ、本来の雷鳴君の力を思えば不思議ではありません。彼は魔界の大公です。

 しかし、『治癒』解放とは、皆が助かりそうです。

「次にフリューエル。『超能力・身体強化』と『超能力・精神感応』を十全に振るえるようにしてあげるわ」

「ありがとうございます。ストレスでしたから」

 これで、仲間の思考を全部読んでしまう事になりますが………。

「思考バリアの指輪全員分もつけましょう」

 !!!私の思考を読んだのでしょうか?でも、私には何よりの―――。

「ありがとうございます―――」

 いつもなら、仲間の思考は最初から読めています。

 でもそうでなかった今回は、正直、読みたくなかった。読むのが怖かったのです。

 そして、読んだことによる彼らの反応も―――怖かった。

 私は心底レイズエル様に感謝しました。

「次にヴェルミリオン。身体能力を………フリューエルさんの解放された『身体強化』と同じ位まで解放しましょう」

「………そうか」

 と言ってヴェルは獰猛に笑いました。私と同じ。そんなことでどきりとします。

 満足してくれたのでしょうか。

「ミシェル。翼は出せないけど、飛行能力と筋力を返してあげましょう」

「えっ!飛べるようになれたんですか!………でも翼なしで飛ぶってどういう感じで………」

「翼があるものと思って飛んだら大丈夫」

「ええと………あっ、飛べた!飛べました!」

 ミシェルはすっかりはしゃいでいます。

 筋力を戻したのくだり、聞いてましたかね?

 ああ、大丈夫です。レイズエル様が、トンボでもつまむかのような感じでミシェルを捕まえ、「筋力も戻したからね?」と言い聞かせて下さっています。

 最後はリリジェンですね。

「リリジェン、「ガイア」で祈りは届き難い。貴方の聖印をもっと天とつながりやすくしましょう。聖印をこっち向けてくれる?それでいい………『聖女の涙』。古き聖女の涙を凍らせておいたもの。それを貴女の聖印に封入したわ。翡翠の部分には別の意志があるから、木の部分にね。………あら、ラピスラズリみたいになったわね」

 確かに、リリジェンの聖印は太陽の紋章部分がラピスラズリのようになりました。

 高い聖性を感じます、良いですね。

「リリ姉、俺は大丈夫だけど、異空間病院の悪魔棟の人にそれ向けちゃダメだよ。凶器の域に入ってる。いやマジで」

 雷鳴君が引いています。

「………ヴェルに向けないよう、気を付けてくださいね」

 思わず口を挟んでしまいました。

「ああ、そうだヴェルがいた。リリ姉、それ服の中にしまっといてね」

「はぁい………」

 ちょっと拗ねた様子のリリジェンなのでした。


「ごほん、注目」

 わいわいやっていた私たちは、慌ててレイズエル様に注目しました。

 ちなみに私はこの間に、全員に思考バリアの指輪を装着してもらっていました。

 その間だけ、全力で自分の『精神感応』を押さえこんでいました。

「あと物理的支援があるって言ったでしょ。別大陸まで行くんだから、乗り物が必要よね?あなた達の装甲兵員輸送車がまるっと乗る輸送機、用意したわよ。しかも燃料は最初からマックス。私の加護で、燃料は減らない。不整地にも着陸可能。現在は羽小江山の軍基地の滑走路に置いてあるよ。軒並み飛び立ってたから楽だったわ(ここで私に視線が来ました)物資は、羽小江山の軍基地の物資をリセットしといたから、持って行きなさい。今の装甲兵員輸送車に愛着あるんでしょう?与える輸送機は、アマリカのどんな戦術機械も乗せられる代物。要は大型戦車も乗せられる代物よ」

「確かに、羽小江山の軍基地に、私たちは愛着があります。そこに兵員輸送機を設置して下さるとは、支援に感謝です。」

「姉ちゃん。そういうのくれるって事は、各国の軍基地に着陸していったらいいんだね。ゾンビは残ってるだろうから、「浄化」は大変だろうけど」

「そこで頑張って「浄化」して、補給しましょう。ヤポンの基地とは比べ物にならない施設があるでしょうから」

 レイズエル様が言います。

「皆私に従ってくれるの?結果的にそうなってしまったとはいえ、「駒」にするなんて、怒られてもおかしくないと思って出てきたんだけど」

「俺は、姉ちゃんのミッションなら何でもこなすよ」

「天帝陛下の許可が下りてる以上、何でもやりますよ」

「俺は、天帝陛下に従う」

「戦い―――強敵―――があるなら、細かい事は気にしない」

「院長先生、これは院長先生が、私に課した試練ですね?ならば、進み続けます!」

 すこし、レイズエル様の瞳に涙が浮かぶ

「ありがとう皆。嬉しい。代わりってわけじゃないけど、できるだけ、こっちは交渉を有利に進めるからね―――」


 それで、レイズエル様の降臨は終わりでした。

 手を振りながら、ふっと、消えてしまったのです。

 皆、変わった自分の体をもぎゅもぎゅしています。

 相変わらずアザは痛いです。

 私は言いました。とりあえず。

「航空機を運転できる人は、私の外に何人いますか?」

 雷鳴君だけが手を上げました。だろうと思っていましたよ。


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