暗中模索

第15話 保養にならない保養地①(雷鳴・フリューエル)

~雷鳴視点~


 リリ姉が、蜘蛛ゾンビに対して祈りを捧げている間。

俺は、次に行く場所たりえる場所を、ノートパソコンと地図で検索していた。

 ちなみにフリューエルさんとヴェルミリオンは、残ったゾンビがいないかどうか見回り中。よくやるよ。

俺は、いろいろ検討した結果、ここがいいかなというものを選び出した。

そこには、生存者情報はなかったけれど、希望はあると思うんだ。

けど、場所が場所だけに、フリューエルさんたちの同行が必要だと思う。

帰ってきたら交渉が必要だ。

フリューエルさん達が帰ってきた。

ふう、と、テントの中で腰掛ける彼女に、俺は話を切り出す。


「観光地、しかも温泉街、ですか?」

「ゾンビが多いことは覚悟してるんだ。だけど、人が多いなら、逃げ延びたやつもそれなりに居るんじゃないかと思ってさ」

それを探してみようと思ってるんだ、とフリューエルさんに訴える。

「ミシェルとリリ姉の賛同は得たよ、だけど、ここに行くには、戦力が必要なんだ」

「それで私達、ですか。相当な数になりますよ、ここの場所に集うゾンビは」

「分かってる、何回かに探索を分けて、拠点にする場所をつくろうと思ってる。ここどうだろう」

と、画面を切り替える

「ラブホテルじゃないですか?この拠点は」

「そう。だけど温泉街からは程よく遠いし、扉は鉄だし、鍵もかかるし。他にゾンビが居ても、他の部屋の中で完結してるか、少ないし。ついでにオーシャンビューだし、さらに言えばここ、温泉出るんだ。暖かいお風呂だよ。癒しは必要でしょ?何回も使うんだから。」

「………拠点にするには、確かに申し分ありませんね」

呆れた様子でフリューエルさんが同意すると、向こうで他の女子二人がニコニコ笑顔になりました。温泉、とか呟いている。

「それで、退却する時なんだけど。どうせ基地に保存食とか、補給しに帰るでしょ?その時、車を大型の輸送車にしないかと思って。天井閉まってるタイプで。内装を好感してソファとか毛布を積み込んでいけば、それなりに乗り心地もいいんじゃないかな。生き残った人を運ぶこともできるしね。俺、軍用車の知識あるから任せてよ」

運転手は持ち回りでお願いします―――。などの事を一気に言うと

「はいはい、わかりました」

と、両手をあげる。説得成功

「じゃあ、次は庵治おうじだ」


では、基地での補給タイムです。

俺は、装甲兵員輸送車の魔改造にとりかかるので、つつじちゃんの銃の入手と訓練は、リリ姉に任せることにする。状況は刻一刻と悪くなってる気がするから、時間がないので、俺が手ほどきしてあげたいけど、リリ姉に任せることにする。

輸送車の件だって、伊達や酔狂で言ったわけじゃない、必要だと思ったからだ。

ミシェルを助手に、装甲兵員輸送車の改造にとりかかる―――


我ながら傑作ができたね!

まず、ゾンビは音で寄って来るので、エンジンを変え、排気管を変え排気音を限りなく少なく絞った。座席には、最低限の窓を取り付ける。当然防弾だ。

ミシェルの発案で銃眼もある、これで前部座席を援護できるだろう。

座席は、できるだけお尻に優しい奴―――向かい合わせのソファを設置、交換。

運転席と助手席もできるだけクッションの効いたやつにする。

この辺は、この敷地に放置してある乗用車から拝借した。

生存者を座らせておくスペースも、装備置きになってた場所から確保。

開いた箇所に補給物資を山のように置く。

食料がほとんどだが、規格を統一した銃器と弾丸もある。

俺たちはソファを倒して寝れるようにしてある。ソファは向かい合わせだ。

後部座席の出入りは後ろから(大)、もしくは側面(小)から滑り込む感じで。

前部座席は普通のバンと同じ。防弾だけど。+9-

あと、今まで観察してきて、ゾンビは明らかに視覚情報ももとにして動いてるから、都市迷彩にに塗りなおした。これで少しはましだろう。

昼間はって?こんなデカいの、昼間は何色でも一緒でしょ。

屋根の上に手すりを付けたんで、ここで砲台になることも可能。

暴徒鎮圧用の透明盾も装備させといた。

いや、整備施設があって、マジ助かった。


皆は着替えを手に入れたり(軍服になるのは致し方なし)、病みメイクを落としたりしてきたあと、俺を手伝ってくれていた。

「………デカい鉄の棺桶ができたな」

感性物を見た第一声ははヴェルミリオンだった。

「はいはい、俺はヴァンパイアだからねー」

「前部座席は、後部座席と会話できるんですか?」

まっとうな疑問はフリューエルさんから。

「通信機を介して話す。それは元の仕様のまんま。運転は六時間交代でどう?」

「それで。羽小江山の野営の時のペアから、つつじちゃんとリリジェンを外しましょう」

「みんな、それでいい?」

「それでいい」

とはヴェルミリオン。

「俺も、それでいいです」

とミシェル

「それでいいけど、やっぱあたし足手まとい?せっかく練習したのに」

「そんなにすぐ撃てたら、みんな苦労はしないわ、つつじちゃん」

などの返事が帰ってきた。

フリューエルさんが

「浮いたリリジェン、明るいうちだけでかまわないですから、屋上で警戒お願いできませんか?」

「リリ姉でも屋上に長時間いるのは無理だよ!三時間ごとぐらいでお願い」

「わたしは、あまりこたえない体なのよ雷ちゃん。まあでも、確かに屋上は少しきつい感はありますし………それでいいです。その代わり夜もやります」

「リリ姉、キツイって」

「ずっとは無理かもしれないけど、しんどくなったら言うから」

「………わかった。止めないよ」

「我がままを、聞いてくれてありがとう」

「じゃあ、わかりやすく、夜十二時に出発しよう。最初は俺とミシェルで担当と思ってるんだけど、本人を含めて異論のある人?」

なかった。

「………あ、そうだ、フリューエルさん。正面からゾンビが来た時なんだけど、機関銃座があるから、それで追っ払って。操作は―――こんな感じ」

実際に引き金は引かずに動かしてみせた。わかるというのでお任せだ。

これであの恐怖のスピンをこのマシンで味合わずにすむだろう。

ヴェルミリオンが半目になっているのが見えた。


俺たちは庵治おうじに向かって進みだした。

色と音が効いたらしく、直近にいるゾンビ以外は、こっちにむかってくる様子はない。銃の音で気付かれるんじゃって?

確かにそれはある。なので、乗員にはできるだけナイフ使用をお願いした。

乗りあがってきたやつは、機関銃で沈黙。もっとも、これはさすがに音がするので、使用は控えめでお願いします。余計な仕事が増えるから。

正面は、ひき潰す前に身を乗り出して、頭に一発入れるのが大変だった。

屋上のリリ姉が、仕留めてくれることもあった。

俺はともかく、ミシェルがひき潰すだけひき潰して、解放はしないっていうのは罪だと言い張ったためだ。頭を潰せるとは限らないんだから、と。

機関銃を、頭の位置にも取り付けておくべきだったか。

と思わず考えてしまった。

だが、高速道路に入ってしまうと事情が変わった。

ところどころに事故車もあるし、そこからゾンビが出てくるので、全く遭遇しないで済むわけじゃあないが、街中よりはるかにゾンビに遭遇しないで済んだのだ。

車は快調に進む。

フリューエルさん達と交代して、二~三時間で、車は目的地付近に到達した。


~フリューエル視点~


起こされて、高速道路に入っていると聞かされて、その快適さに驚きました。

入り口では、事故車などがあり、そこからゾンビが出てきたそうですが、この辺りまで来ると全くゾンビが出てきません。いい事………なんでしょうか?

二~三時間後、目的地付近につつがなく侵入します。

……?住宅地なのに全くゾンビが出てきません。不思議ですね。何か要因が………?

そんなことを考えながら、観光地付近に向けて、車を進めます。

座席の通信機で、後部座席に通信します

『こちらフリューエル。周辺住宅にゾンビの影は見えません。観光地に集結している可能性あり。大量のゾンビで、車が身動き取れなくなる可能性があるので、この辺りで止めようと思いますがいかが』

『あーこちら雷鳴。嫌な未来像ありがとう。だけどこっちもそれに賛成だ。車を降りて、徒歩で向かおう。ただ、つつじちゃんには待っていてもらおうと思う。全ての窓とドアを施錠すれば、こいつは兵員輸送車だ。安全だと思う』

『こちらフリューエル。雷鳴君の案に賛成。ならば車は観光地から、走って戻れる距離に止めるように善処します』

そして、つつじちゃんを除いた全員が、路上に降り立ちました。

観光地―――温泉街―――の方に向かいます。

予想通り、そこはにぎわっていました。

普通のゾンビから異形のゾンビまで、選り取り見取りです!

ヤケはいけませんね、ヤケは。こほん。

当たり前ですけど、激戦になりました。

ゾンビに取り囲まれる中、ヴェルと私は背中合わせになって戦います。

時折巨大な異形ゾンビに共同で当たる事もありましたが。

大きいだけで、大して強くないモノは、雷鳴君が空を飛んで片付けてくれます。

その背にはなんとミシェルまたがっています。ちゃんと撃てるのでしょうね?

リリジェンさんは、後方から援護―――たまに一撃粉砕―――をしてくれています。

次から次へと津波のように襲い掛かって来るゾンビの群れ、終わりはあるのかと思わず弱気なことを考えてしまいます。

今日はまだ一日目、弱気はいけませんね。

ですが、本当に疲労困憊になってきました。そろそろ一時撤退を宣言するべきでしょうか?

―――そんなときに、『それ』は来ました。

今までゾンビは、大きさに合わせて首の数がありました。最大が蜘蛛ゾンビの四個です。いま、戦っているここでは三個までしか確認されていません。

そのなかで現れた『それ』は、五人分ぐらいの大きさを誇っていました。しかし、体が大きいのに頭は一つで、ハニワのような人の形なのです。

仮称「オオキナヒト」とでも申しましょうか。

魂は今まで頭の分だけありました。

ですが、これの頭は一つ、そして。凝視して見ると―――頭の上にある封印具の中には、半ば融合しかかって、ぐちゃぐちゃの魂が五つ!

最悪です。壊れたゾンビとでも言えばいいのでしょうか。

これでは、解放したところで、魂は壊れたまま………神よ、私はどうしたら?

救いは背後からやってきました

「それはダメぇぇぇぇぇ!」

リリジェンが叫びながら、聖印をかざしています

「この哀れなる者達を救済したまえ!」

聖印から眩い光が発され始めました。光は、魂の壊れたゾンビを呑み込みます。

リリジェンの祈りが響きます


想いを込めて この世界を想い 伝えます

癒しの祈りを 救いの祈りを 絆の祈りを

存在の祈りを

魂の営みを われらは諦めず

例え迷うても、生命は再誕すると信ず


はたして、眩い光がおさまった後には、五人の死者と、天に昇りゆく五つの魂がありました。私はまごう事の無き神の奇跡を―――天帝陛下の起される奇跡を。

私は初めて目撃したのです。


ですが、我に返ったのは、どうやら私が一番早かったようです。

悪魔連は聖光のせいで目つぶし状態です。

「雷鳴君目は大丈夫ですか?、撤退しますよ!」

ヴェル、あなたも!目を押さえてないで、撤退しますよ!

ヴェルをひっぱり、昏倒したリリジェンを小脇に抱えて走ります。

どうも、ゾンビも目がやられたらしく追っては来ません。

雷鳴君はミシェルに操縦(!)されて帰ってきました。ヴェルも役にたたないので、皆まとめて後部座席です。

通信機で『安全なところまで運転します。皆さんちょっと落ち着いて待っていて下さい』と言います。

しばし運転………安全なところ………拠点予定のラブホテルの近くまで来ました。

わたしも運転席から後部座席まで行きます。

中に入ると、ソファで昏倒するリリジェンをもう一つのソファに座った皆が見つめている、といったところです。

わたしはリリジェン側のソファに座り、事前説明をします。

「皆さぞかしびっくりしていると思います。私もこんな所で奇跡を目撃できるとは思ってもみませんでした」

皆(つつじちゃんを除く)頷きます。ヴェルは、苦々しげですが、他は純粋に驚いてる様ですね。

「あの奇跡が起こった原因について、先に説明しておきましょう。今まで、様々なゾンビと戦ってきましたが、普通タイプのゾンビは、皆人間への攻撃………感染を原則にして動いているようです。複合ゾンビも同じですが、魂は頭の数によって左右されます。例えば4つ頭の蜘蛛の時は、魂が4つくくりつけられて、てんで勝手にあばれてるゾンビに振り回されてる感じです。それを救済するには脳を破壊するしかないわけです。」

一息はさみます

「でも、今回の仮称「オオキナヒト」はそうじゃありませんでした。魂は無理やり融合させられていて、まだ意識はめちゃくちゃだったでしょうが、ぼんやりとはいえ一つの意志を持って襲ってきました。恐ろしい事です。人間の魂はちゃんと五つあるのに、まるで、五人が居なかったかのように一つに融合させられて意志を持つ。ゾンビ以上に生命を冒涜する行為です。なぜならそこから融合された彼らは「一つになって」すなわち元の五人は「いなくなって」新しい「何か」がかわりに出来るのですから。融合に使われた彼らの魂はどこに行ってしまうんでしょう?もしもこの状態で殺されたら、三人の魂は永遠に新しく合成された魂として処理されてしまうでしょう。もっとスケールを大きくして、百人が融合していたとしましょう。恐ろしさが、わかりますか?百人の魂が一個として処理されてしまうんですよ。それは、百人を殺したのと変わりません。人間の魂を使った錬金術です。」

また、一息

「このガイアでは、私たちは魂を弄れません。よって、ああいった「オオキナヒト」に対して、我々が出来る対処はひとつ。リリジェンの奇跡に頼る事のみです。リリジェンがいないときに遭遇したら、戦闘はしても殺さず無力化する事。他のゾンビに対する対処とは差をつけるようにしてください。殺したらどうなるのか分かりませんが、ろくなことにはならないでしょう」

そこで、リリジェンが動いたので彼女を介抱します。ほどなく、目を覚ましました。

彼女は目を覚ますと、周囲を見回してから、ほっと息を吐いた。

「あの、哀れな魂たちは解放されたのですか」

「ええ、解放されましたよ。健常な形でね。あの魂についての解説はしましたが、合っていますか?」

と、先ほどの説明を繰り返します。

「大丈夫です。さすがフリューエル様ですね」

「俺、魂が一つだってことしか気が付かなかった………」

と、ミシェルが凹んでいますが

「このガイアで魂が見えること自体、能力ですよ。ヴェルなんてまるきり見えないんですから」

リリジェンが続けます

「私、今回は何故か見えましたけど、普段は全然見えません。魂がどんなものかは知っていたので、あれが異常な五つの魂にに見えたのですけど」

リリジェンは人間ですからねぇ。続けて雷鳴君が

「俺も何か気持ち悪い魂だってコトしか分かんなかったよ。あんま落ち込むなって」

「うん………」

「それより、さっさと「宿」まで行きますよ。もうくたくたです」

「「「了解」」」

それに関しては全員が合意しました。

戦闘に次ぐ戦闘で皆、疲れ切っていたのでしょう。ここのゾンビは本当に多い。

私は車をラブホテルに入れるのでした。

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