第14話 閑話休題

 その眩い部屋は、円形に配置された黄金の石によって、中心に水盆を現出させていた。

 レイズエルは、水盆を見つめて「セフォン」と言った。

 その眼差しはリリジェンに向いている。

 セフォンは、「ライラック」―――レイズエルの本名と言える名だ―――だった頃に、初めて(無自覚ながら)恋と呼べるものをした相手だ。

「想う相手なのか」

 問う相手は、魔界の第四王子、紅龍ホンロンだ。

 ささやかながらの、嫉妬

「幼い私が恋と言えるか、言えないかの感情を抱いた相手の転生体が彼女よ」

 と、紅龍の妻は、紅龍に向かって言う。

「もう恋心はないわ―――でもね、せめて幸せになって欲しいから、こんなガイア《ところ》に導いたのよ。啓示の示すままにね」

「どういうことだ」

 レイズエルは歌うように言う

「彼、もしくは彼女は、神に愛され、別の神がその神に懸想して、セフォンを殺す。そのせいで若いうちに死ぬ人生を、転生の度に繰り返してきた。最初の「セフォン」も私が助けようとしていたとしても、神の《その》せいで死んだでしょう。でも、それもこれで終わり。彼女には奇跡を起こして「聖女」になってもらう。そして、天使になってもらう。それが唯一の、生き残る道」

 彼女の言う通りになるだろう。

 彼女は超越者オーバーロード。人知を超える存在なのだから。


「雷鳴は、順調に彼女の護衛に動いているわね。フリューエルさんとミシェルの影響で、生者を集めるなんてこともしているようだけど」

「無駄なのか?」

「はっきり言って焼け石に水。だから、雷鳴が無駄な時間をとらないように、異空間への扉を渡したのだけど。本人は、生者に思うところがあるんでしょう。生みの母親が、彼のために命ををかけたような、そういうつながりを求めて」

「お前は、最終的に何がしたいのだ?」

「さっきも言ったでしょう「奇跡」を起こしてもらうのよ」


「ヴェルミリオンは、意外な感じね。フリューエルさんの良きパートナーになっている。でも、目的には叶っているわ」

 第二王子が答える

「ほぅ?あいつが何か役に立ったかよ」

「ええ、強者を求めていけば、いずれ私の―――そして侵略者の―――目標とするものに相対する。そこにリリジェンが居れば完璧ね」

 ふうん、と首をかしげる第二王子に

「天には思想がある。今回の侵略者に、断固抵抗するべき思想がね。そして彼女は当然それを持っている。許されざる者を見た時の彼女の反応を、私は「啓示」で知っているわ」

 大丈夫、すべてはうまくいっている

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る