第12話 小さき悪徳の都(ヴェルミリオン)

 快調に車は動いていた。たまにゾンビが出てきたが、後部座席の連中が何とかする。軍基地でたんまり弾薬を補給したおかげで、玉切れの心配もないときた。

 ちなみに、フリューエルから俺に運転手は変わっている。

 これで、あのアクロバティックな運転はされずに済む。

 弾薬は各自が手もとに置いてる奴以外は、雷名がコートの中に収納している。………どうやったのかは知らんが、フリウがそういうのなら、そうなんだろう。

「土産」は弾数は一ケースづつで、四丁。

 その屋上にいる連中に扱えるかは疑問だが。

 なお、車は軍の装甲車に変えていた。

 ガソリンの補給もしている。給油所でで、またゾンビを駆逐―――もとい浄化―――して、ガソリン缶(灯油缶か?)もトランクに積んでいる。

 それで、目当ての場所の、屋上上の駐車場に止めようとしたんだが―――問題が出た。このショッピングモールはそんなに繁盛していたのあろうか。

 大量のゾンビが居たのである。これをくち―――「浄化」するのは骨が折れそうだ。俺は今回、リーダーの役割を振られたため、険しい顔になる。

「仕方ない、下りて進むぞ。ひき潰して行ったら、少々派手すぎる。車は見えない場所に隠そう。拠点は屋上だったな、呼びかけてみよう。フリウ、おまえがやれ」

「了解」

「俺たちはせいぜい派手に暴れて露払いするよ」

「了解しました」

 では、と息を吸い込み、フリューエルさんは

「きゃあ~、皆が殺される~助けてぇ~!!」

 と、見事な肺活量で叫んだ。

 はたして動きは………あった。

 ひょこり、と屋上のふちに出てきた男の顔が

 ひょこり、とひっこと、俺たちとは反対方向の屋上のへりに老若男女がたち

「あー!」「うおー」「キャアア」と叫び始めた。

 何と、俺らのすぐ近くのゾンビ以外はそちらに向かっていった。

 もちろん屋上は高すぎるので、ゾンビは壁に指をかけてひっかく程度だ。

 俺は、雷鳴と手分けして、残った周囲の全部をくち―――「浄化」する。


 そこで、手薄になった壁面に梯子がかけられた、上って来いという事なのだろう。

 非戦闘員―――女性陣。まぁ、フリウとリリジェンは「ふり」だが―――を先に上がらせ、俺がしんがりを務める。

リリジェン、つつじ、フリウ、ミシェル、雷鳴、俺の順番だ。

 上がったところは、まだ中階、と言ったところだった。

 さらに上には男が一人、顔をのぞかせている。

「一応ゾンビじゃないって確証が欲しいから、それぞれここまでの経緯をを話してくれる?ゾンビってさぁ、まともに話せないだろう?だから皆に話して貰う事にしてるんだ」

「なるほど、いい考えだ」

俺から言えと言われる。 

「俺は、故郷はアマリカ―――」

 などと適当な嘘を並べた。最終的には俺は軍では大尉で、実践訓練中に襲われた、ということにしておいた。

 他の奴らもめいめいでっち上げを口にする。

 そして、意外といえば意外なことに、屋上にはテントが五つぐらいあった。

 吹きさらしだと思っていたが、階下のアウトドア店(たぶん)でテントを調達する根性が、ここのリーダー層にはあるということだ。

 俺たちはまず、ここの「管理者」だという連中のところで、挨拶をするらしい。

 一際大きなテントに案内され、外でしばし待たされた。

 テントに入ったら、案内役の男を含めて、皆が威圧されたようだった。

 それは当たり前だ、兵装をしているうえに、俺の背丈は二メートルを少しこす。

 だがやつらは雷鳴を見ても、はてはミシェルを見ても引いていた。

 武装のせいか?しかし情けない。

「こ、ここへようこそ。」

 一番偉そうなやつが言った。他より多少は鍛えているようだが………雑魚だな。

 全員がテントに入った。男が前の列、女は後列だ。

 そうな奴の横に座ってた、普通体型の奴がいう

「彼―――今挨拶したやつだよ―――は長谷川。僕は笹島。案内してきたのが山辺だよ。君達のプロフィール―――兵士の人たちだけど、とても強そうだよね。わざわざここに来た意味があるのかい」

「始終ゾンビがくるから、まともに寝れてない。このままじゃ、持たん」

 そう言った俺に向かって

「ここで休ませてほしい、というんだね」

と笹島がうんうんと頷く。

「それなら、土産はあるんだろうなぁ」

 と、ボス格の青年―――長谷川が言う

 かれはぎらぎらした目で、俺の背負うアサルトライフルを見ている

「これか?これを扱うには、訓練が要るぞ。せめて3か月(適当)だな」

 なら!と長谷川はギラギラした目で他の奴の装備を見る。

「大丈夫だ、ちゃんと手土産は用意してある」

 俺が雷鳴の方を見ると、雷鳴は後ろに背負っていたバックパックからガラガラ、と銃と弾丸―――大口径リボルバー数種類だ―――を取り出した。

 長谷川が

「これだこれ、リーダーの俺様にふさわしい」

 と、一番ゴツイリボルバーを取る。

 それは反動もすごいんだが、扱える………わけないな。

 他の二人も銃と弾薬を選んでいる。

「これと、軍の携行食を合わせて、滞在を願い出たい」

 ここの集落の避難場所なら3日分ぐらいだろうか

 ごくんと、だれともなく喉をならす。

 長谷川が、

「あとは、女も提供してもらうぞ」

 と言った時、フリウが動いた。俺と雷鳴の間からするり、と動作も艶めかしく這い出てきたのだ。

「パジャマ服の二人はいけませんわぁ、お三方」

 そう言ってぺたん、と座る。色々と見えそうだ。思わず見つめてしまう。

「伝染病にかかっているのです………一応マスクをしていますが、あまり効果はありません。吐息のかかる範囲まで近づかなければ安全。私たちは皆予防注射を受けています。病院で私が打ちました。快方に向かうまでは、お相手を務めるのは危険かと」

 そして嫣然と微笑み、気配なく前に進む。長谷川の首に腕を回し、軽くのけぞって自分の顔が見えやすいようにする。

「わたくしでは、だめぇ?たとえ三人でも、お相手できる自信がありましてよ」

 その言葉で、笹島と山辺が喜色を浮かべる。

 長谷川の顔はもうデレデレだ。当たり前だ、この美貌なのだから。

 俺は何故か、イライラし始めた。何が原因だ、クソッ

「よ、よし、なら夜になったらこのテントの裏に来い」

 土産として受け取ってやる―――と言った。

 ………イライラする。


一日目 

俺たちは、空きテント―――なんでそんなもんがあるんだ―――に案内され、それで暮らす様に言われた。

 正直六人では狭い。

 雷名が

「床がコンクリに薄い膜かぁ。極薄の奴だけど、寝袋持ってきてよかったぁ」

 とはぁ、とため息をついた

「呑気な事言ってる場合じゃありませんよ」

 最後に入ってきたフリウが憂鬱そうに言う。

「このテントには負の感情が染みついています。殺される、という恐怖です。しかも複数人。ここに入っていた人はどうなったのでしょうね」

「それも含めて、探って来るんだろう」

 俺がそっけなく言うと

「そうですよ、あくまで情報収集ですからね………ヴェル、えらく不機嫌そうですがどうしましたか?触って診断しましょうか?」

「いらん!」

 我ながら大声が出た。驚いた様子のフリウは、はぁ、と呟いて黙る。

 なんとなく空気が悪いまま夜が来た。

 フリウは出かけて行った。それがまたイライラする………。


 フリウが帰ってきた。性交時独特の匂いを纏ったまま………フリウはテントに入ってどさりと腰をおろす。

「駄目です、アレは」

 ?とういう全員の目を受けて

「現在ガイアでは堕天現象が起きない状態なんでしょうね。彼らは姦淫と暴食の罪で、実質的にはもう、悪魔です」

 実際にはこうです―――とため息をつきながらフリウはいう

「姦淫の罪では、過去に嫌がる女性を自殺に追い込むまで散々嬲っています。それ以降も、懲りることなく続けていますね。中には首を絞められて殺された女性もいます。この集落の女性は、我々を除いては8人いたのがもう二人ですよ。戦々恐々としていますが、容姿の問題で、彼女らが呼ばれるかどうかは………いえ、他に誰も居なくなったら分かりませんね」

 ここで、おれが口を挟む

「おい、おまえは酷い目には合わされなかったんだろうな」

「え?」

「だから………」

「い、いえ、手のひらの上で転がってくれたので、ごくノーマルな行為でしたよ」

「ならいい」

「そ、そうですか?何かあるなら………」

「ない」

「………わかりました。では、話を続けます」

「まず、彼らは死んだ女性の肉を焚火で焼いて、避難民に「肉」として配っています。そして、避難民の中から、気に入らないものを見つけては「焼肉」にしています。これが暴食の罪です」

 あー、と雷鳴

「悪魔としてはフツーのことだけど、人間がやるのはまずいね。快楽のために人を殺すのも、人間の味を覚えていて楽しんで食べてるのも、アウト!だ。なるほどね、だからここの他のテントはこもっちゃって出てこないんだ。俺も外をざっと歩いてみたけど、誰にも会わなかった。けど、焚火の跡は見たよ。なんか馴染みのある匂いがすると思ったら………そういう事だったんだね。」

「そうです、ここの住人は、彼らによって戦う勇気のない者か、戦えないもの―――老人や子供にされてしまいました。彼らは臆病なんですよ。だから私達へどう対処しようか迷ってる。私たちの持ってきた携行食が切れるまでは、リアクションを控えるでしょうから、私が会議の様子を「読んで」きます。今日を含めて携行食が切れるまで約四日間ですね」


 俺は、さらにイライラが募るのを感じた。話も終わったとみて、半ば発作的にテントを抜け出す。

 ガザガザガザガザガザ

 何だ?異音が聞こえる。屋上の縁の方だ。反射的にそっちに走っていく。

 俺が見たのは、融合タイプのゾンビだった。焼けただれた四つの首を持ち残り焼け焦げてはいないが、肉のない骨の体で、蜘蛛のような形を取っている。

 人間の手で登れるはずもないのにどう変化したのか、なぜかこいつは登って来る。

 銃を撃とうと、背中に手を回したら、その蜘蛛型ゾンビは屋上に到達できずに落ちていった。

 以前融合タイプのゾンビと戦ったが、今のはもっと融合数が多かった気がする。

 進化してやがる。

 ………俺はイライラがおさまっていることを感じた。

 テントに帰って、この話をしてやるか


 二日目

 テントに帰った俺の報告で、皆緊張感を増したようだ。

 テントの前に見張りを立てることになった。何が登ってきても対処できるように。

 次の日、日没後、雷鳴と見張りを交代した俺は―――見張り順はじゃんけんだが、雷鳴は必ず夜担当だった―――「焚火あと」まで行ってみることにした。

 雷鳴は特別鼻がいいんだろうな、俺はなんも感じん。

 だが、なんとなく、魔界の気配がしたような気がした。それだけだ。

 フリウはまた夜に出かけて、夜帰ってくる。

 だが、今夜は首に明らかに絞められた跡があった。

「おい………それはどうした」

「山辺くんを興奮させすぎたらこうなりまして………匙加減を間違えました」

 とくちびるを歪める。

 山辺………機会を見つけて必ず殴る。

 何でそういう気になったのかは考えずにそれだけ決める。

「今日の成果ですが、彼らは今まで、ろくな武器を使っていませんでした。長谷川くんが空気銃―――一応殺傷能力のあるやつです―――笹島くんが鉈、山辺君はナイフです。あと、わかったことは、中年の男が二人生きていて、「焼肉」にハマってしまっているため、彼らに服従しているということでしょうか」

 それから、とフリウがつづける

「自分たちがトップを取り続けるためには、ヴェルと雷鳴君が邪魔だと思っているようです。具体的にどうするかはまだ結論が出ていません。ミシェルは自分たちに取り込もう、というのは決定しているようです。病人二人はここから突き落として、始末はゾンビに任せるつもりのようですね。私は、当分彼らのお相手ですが、ダメになったら殺そうという思考がチラついていました」

 イライラを通りこして殺気になってきたことを自覚する

「さて、男性諸君?」

 唐突にフリウが言った

「体を濡れティッシュで拭きたいので、回れ右」

 ………

 後ろを向いた


 三日目

 朝方、憂さ晴らしになるものがないか探し回ってた俺に、笹島とかいう男が話しかけてきた。いわく、銃器の扱いを教えて欲しいとかなんとか。

「俺は教えるのは苦手だ、よそに行け」

 と言ったのだが、しつこい。

 的に当てるところを見るだけでもいいといってきたが、

「くどい」と一蹴する。当てる自信がないのだから当たり前だ。

 俺の主武器は銃じゃない。

「残念だ」と言いつつ笹島は去っていった

 あとで、夜のうちにテントの前で、雷鳴も誘われていたことを聞いた。

「教えても、俺を後ろから撃つ参考にされそうだったから断ったよ」

 と、笑顔で言っていた

 そして夜が来る

 フリウは開口一番こういった

「あなたたち二人とも、危険に自分から飛び込んで行きましたね」

 と俺と雷鳴を見る

「あ?銃の訓練のことか?」

「そうですよ。雷名君は嫌な予感は?」

「いや、大丈夫」

「そうですか………次にあの人たちが、食料の調達に行くときに盾にしようということが、会議で決まっていましたが、自信、あるんですね?」

「下手くその流れ弾が一番怖いな。頭蓋ごとき素手でも砕ける」

「駄目です、カイザーナックルを渡しておきますので、食料入れにでも忍ばせていってください」

 俺は舌打ちをして「仕方ないな」と言った

「雷鳴君は?」

「俺は銃弾ごときで死なないよ。空も飛べるしゾンビが密集してても大丈夫」

「はぁ………わかりましたよ、まったく、もう。病人二人はあなたたちを始末してから………ということだったので、問題ないでしょう。とにかく、あの三人は食料調達の時に消えてもらいましょう」

「えっ?」

 と、ミシェルが戸惑いの声をあげます

「ミシェル、まだ人の姿をしている者を殺めるのは、抵抗があるのはわかります。でもあの三人は、天界法的には「堕天途中の人間」です。ガイアの法則で止められているだけでね。法的にはなんの問題もありません。むしろ処断しなければいけない、それだけが救いになる人間です。情けは彼らのためになりませんよ。」

「………助けられないんですね。わかりました」

 これ以上ごちゃごちゃ言わないのは感心だ。

 まぁ、先に奴らの悪行を聞いていたからかもしれないな。

「おいフリウ。なら、俺たちもやつらは同族あくま扱いしていいんだな?」

「結構です」

 遠慮はいらないか。気分がだいぶ上向いた。


 四日目

 朝、俺はフリウに付き添っていた。

 フリウが集落の人間の、簡単な健康診断をすると言い出したからだ。

 もちろんあの三人にも交渉済みで、テントの奴らは俺が大声で叩き起こした。

(後で雷鳴に、寝入りばなを叩き起こすなと文句を言われた)

 三人の名前を出すと転がるようにして列に並んでいく。

 中に二人確かに中年の男が混じっていた。フリウの狙いはこいつらだろう。

 脈をとる間に、精神感応が使えるだろうから。

 全員(二十名)診断が終わった。

 異常のあるやつもいたが、軽いものだ。全員を帰らせて―――

 フリウは、テントに帰ろう、と言った。

 テントに入るなり

「二人の中年男性はアウトの可能性がとても高いです」

 と言って、雷鳴の方を向き(叩き起こされた後、まだ起きてた)

「そちらの異空間の迷惑にならないでしょうか」

「まぁ黒よりの灰色じゃぁ裁けないもんね。悪魔棟の看護師長、アッシュに言っとくよ」

 そう言って雷鳴はドアのミニチュアを取り出すと小さな声で何かささやきかけていた。魔界語だったようだった。

「後の人は、異空間へ連れて行っても大丈夫でしょう。心的外傷トラウマになっている人もいると思いますので、よろしくお願いします」

「わかった。そういう事情だからって、言っとくよ」

 今度は天界語だ。多芸なやつ。おれは片言しかしゃべれん。

 そして夜

 フリウが帰ってきた。

「食料調達は明日の午後に、ヴェルと雷鳴に食料調達についてくるよう要請―――事実上の命令ですね。が出ました。伝えろと言われましてね。残りは留守番です」

「フリューエルさん、それなんだけど」

「はい?」

「居残り組の方に嫌な予感がする。フリューエルさんは、俺らが出発した後持ってきた装備に着替えておいて。リリ姉も、偽装を解いといて。つつじちゃんは、いつでも反応できるように身構えておいてね。まだ銃の講習してないし」

「わかりました、これは読み取った情報ですが、貴方たち、ああ、あの人たちもちゃんと一緒です。行くのは一階の食料品売り場ですので、外に出たらゾンビの群れです。室内で頑張ってください」

「りょーかい、そんじゃ、行きますかぁ!」

 同意だ。

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