生者と罪

第11話 対抗手段(フリューエル)

 寝たのが夜中の三時。見張りを引けば八時間づつ。

 一人八時間寝たので、合計十二時間ですが体力はだいぶ回復しています。

 起きたのは午後三時と言う、少々不摂生な時間です。 

 やってきたはぐれやうちもらしは、見張りによって沈黙。

 おかげで、周囲に死体が転がっているので、爽やかな朝はとは言えませんね。

 雷名君はヴァンパイアの常として、夜以外の寝起きが悪い(普通のヴァンパイアなら爆弾が耳元で爆発でもしない限り起きない)のですが、特異体質らしくて起きてきてくれました。

 でも、起こしたミシェルに(多分わざとではない)蹴りを入れていました。

 そんなことをやっていたので、起きたのは、雷鳴君が最後です。

 ミシェルが脛を押さえながら

「雷鳴ぁ~。靴に鉄板仕込んでるだろ!」

「悪い悪い………って、お前、俺起こすの慣れてるじゃないか」

「外では初めてだろうが!」

 という漫才はともかく

「さて、今回向かう場所を、昨日雷鳴君と協議したので私が説明します」

 コホン、と咳払いをしてから説明を話しだします。

「えーと、向かうのは総合ショッピングセンターの屋上です。そこに生き残っている人が集っているみたいです。細かいことまでは分からないんですが、食料の確保が大分難航しているようですね。あとリーダー格は女性の避難民に性的な事を強要している可能性が高いです。ですから、女性陣にはターゲットにされないような細工を施します。食事情についてですが、ある程度の食料を持参すれば、受け入れてもらいやすいでしょう。あまりたくさん持っていると、変な疑いをかけられるかもしれませんから、ほどほどに………っといったところです」

 突然、つつじちゃんが挙手します

「それ、何のために行くん?あたしらが危険な目にあう可能性高くね?」

 と言われて、私ははつつじちゃんも、要救助者の一人なのだと思い出します。

 妙になじんでしまったから、忘れていました。痛恨のミスです。

 うかつでした。昨日、異空間へ避難しておいてもらうべきでした、と。

 つつじちゃんにそれを提案してみます。聞かなくても分かりますけど。

「ぜーったい嫌!あたし、役に立たないかもしれないけど。みんなのこと好きになったよ!できることなら手伝うよ。荷物運びとか、えーと、思いつかないけどいろいろ任せてくれて構わないから!いくーかんとか行かない!」

 全員が顔を見合わせます、口火を切ったのは私でした。。

「どうしても来るのですか?私たちは冗談ではなく、世界を救うつもりで旅してるんです。危険な所にもたくさん行きます。可能性があればどんな危険も冒します」

 一息入れて

「化け物じみていた………ゾンビが融合していた今回の病院と合宿所。大変だったけど、あれも変化です。そういうものを求めて私たちは旅をしています。雷鳴君のチームは生存者を探して移動してますがね。今回の行先が被ったのは興味が一致したからでしょう。自力で災禍から逃れている存在への興味がね。ですからそこに私たちは行きます。この星を救うキーはどこにあるか分かりませんからね。あなたは耐えれますか?」

 う~、とつつじちゃんはひるんでいます。

「それでも………一緒に行くもん」

 それに対して雷鳴君が真剣な顔で

「俺が………銃の使い方を教えるよ。連れてってやろう。でも限界が来たら言うんだぞ。出来るだけ守るけど」

「ほんと!?超ありがとぉー!!」

 わたしは「ふぅ」とため息をつきました。

 誰にせよ、庇う者が出るだろうと思っていましたから。

「言ったからには担当してくださいね。もちろん私たちも守りますが」

「分かってるって」

 そう言って、雷鳴君はミシェルに

「お前も守ってやってくれよ」

 と、声をかけます。

「うん、もちろん」

 と、笑顔で返したミシェルに、あなたもですか、と言いたくなる。

「私も守るわ。というか一緒に行動します」

 こうなった場合のリリジェンの行動は、そうでしょうね。

「友達だもの」

「リリちゃん~あんがと~v」

 フリューエルさんは

「まぁ、そのお二人はまとまっていてくれた方が、都合がいいです」

 何故だ?とヴェルが聞いてきます

「二人を病人に仕立て上げるからですよ。軍基地に戻って、他の人の分も色々仕入れます。メイクは雷鳴君、お願いできますか」

「あー、昨日の変装ね。あんまり凝ったことは出来ないけど、病人メイクぐらいならできるよ。でもさ、毎回思うんだけど、フリューエルさんっていっつも冷静だよね、なんで?」

「確かに私は常に冷静でいることを自らに課しています。視界の隅々まで分析して、誰かの不幸につながることが、起こらなくなるようにしたいのですよ。天使は皆、それぞれ信念を抱いて仕事しているのです」

 それを聞いてミシェルが思案顔になっていました。

 彼が一人前になって仕事に臨むとき、彼なりの信念を持ってくれるでしょうか。

 そんな思いを振り切って、私は皆を急かしました。

「さあ、もう三時をまわりましたよ、車のところまで戻りましょう」


 車に全員乗ったのを確かめて、私はゆっくりと車を走らせます。

 何故、ゆっくりか?

「飛び出し注意」です。小学生ではなくゾンビの!

 狙撃班が後ろの座席―――真ん中の席に雷鳴とミシェル―――後部座席リリジェンと無力なつつじちゃん―—―に座り、出てきたゾンビを「浄化」していきます。

 ちなみにヴェルは出てきたゾンビを見つけて、後方にふる役です。

 そういうことは出来ないのかと思っていましたが、ちゃんとできるんですね。

 意外と様になっていて、なんというか………

「ヴェル、何かの教官みたいで、格好いいですよ」

 と思わず言ってしまいました。

「お前は何を………まあいい」

 おや、満更でもなさそうですね。これなら真面目にやってくれるでしょう。

 しばらく私の耳にはヴェルの声と射撃音だけが響くのでした。

 うん、悪くないですね。

 ああ、ただゾンビがボンネットに乗り上げた時は、対応に迷いました。

 車を思い切り振るような動きを駆使して走り、落とすことには成功したのですが、後部座席が何故か非難囂囂でしたので、同じことがあった場合対応を考えなければいけませんね。何故かヴェルからもジト目をいただいてしまいましし。

 結局、もう一回あったので、雷鳴君が空を舞って撃沈してくれましたので良かったです。死体をボンネットから蹴り落としたのには苦言を呈しましたが。


 基地に到着しました。

「まず、着替えを調達しましょう。ヴェルと雷鳴君が生き残りの兵士役です。ミシェルは訓練生。リリジェンとつつじちゃんは生き残りの入院患者。入院患者は結核と偽るつもりです。各自好きな服や装備を調達に行って来て下さい。散会」

 散る皆の中から私は雷名君に

「雷鳴君、メイクよろしく」

「おっけい。てゆーか完全に演技でいくんだな」

「危険な場所に、そのまま突っ込んだりしませんよ。まぁ、主にリリジェンとつつじちゃんのためなんですけどね。」

「フリューエルさん自身は何でいくんだ?」

「私?私は女医さんにしようと思っています」

 にこりと笑い

「裁縫は得意なので丈は短くして、体にぴったりに作り変えます」

「ちょ、ま。それって………」

「全力で誘惑おとしにいく所存ですよ。ああ、悪魔堕ちはしない、させないようにしますが。深く繋がれば深層意識まで見れると思うので。一晩で丸裸にさせていただきます。それに一般の人にも、健康診断を理由に触れられるので、色々便利なチョイスでしょう?」

「天使がハニートラップって、ヒドくない?」

「集めた情報が本当なら、これくらいはやります。もしもっとモラルのある人たちだったら、私も貞淑に振舞いますとも。それと、スカートを弄るのは、動きやすくする目的もあります」

「それで戦うってコト⁉うっわ、目に毒すぎ」

「それはおいといて。雷鳴君。貴方のケープ、特別仕様でしょう?」

「へ?ん~~まぁいいや。これ、「千億ドラゴン」から、姉ちゃんが作った特別製のコート。ケープにしてるのは今回の任務仕様で、上着っていう括りなら大抵のものに変化する。で、この内部は異空間になってて。そこまで大きくはないけど、サバイバル用品を入れておけるようになってるんだ」

「千億ドラゴンですか………一代天魔帝の御世に、全てが滅んだという、あの」

「そうだよー。姉ちゃんが、俺と自分の分だけ、過去に戻って捕ってきたんだ。このコートは外皮を十億年なめしたもの」

「………さすがレイズエル様。スケールが違いますね。………まぁいいです。お聞きしたいことがあります。コートの内容物にどれだけ空きがありますか?具体的に言うと銃はどれだけ入りますか?ハンドガンの弾薬で、です」

「えーと………まぁ四箱ぐらいなら。自分の分を外してね」

「全員の分いけますね」

「サバイバル用品で埋まってるからなぁ、本来はもっと大きいんだけど」

「私は、自分の武器は『超能力・念動力・縮小』を使って、自分の装備とヴェルの装備ぐらいは、バックパックに入れて持って行けるのですが。それ以外のひとの装備がね………精神力には限界があるので………」

 申し訳ないけど、持っていてあげて欲しいです。

「リリ姉のは自前だし、あとはここで調達するつつじちゃんの分か。あとは俺の散弾銃だけだね」

「ええ、ヴェルとあなたには、ここで調達する銃器を隠さずに持って行ってほしいので。生き残りっていう事に信ぴょう性を持たせるには、必要ですし。ミシェルも訓練生設定ですからリボルバーとナイフぐらい構わないでしょう」

「おれは構わないよ。散弾銃は収納するのちょっときついなぁ―――あとは皆の弾薬か………散弾銃はここに置いて行って、全員の弾薬を収納するっていう事にするならなんとかなるよ」

「それは重畳。装備を献上させられたりしたら嫌ですし。見える形で持っていくのは、装備とは別の拳銃にしましょう。エサですね」

「………フリューエルさんて、マジで天使?」

「失礼な。まごう事なき高位天使ですよ。セントクレストなんかには私なんか目じゃないのも複数居ますとも」

「セントクレストって内務監査だっけ。そんなに濃いの?」

「これ以上私の口からは言えません。報告の時に怒られます」

「ふぇーい。俺が着れそうな軍服、探しに行ってくるよ」

「私も衣装を探しに行きます」

 リリジェンとつつじちゃんは、二人で入院服を探しているようですね。

 ヴェルは………雷鳴君を置いて、先に兵舎や武器庫に行ったようです。

 それぞれ自衛出来るでしょうから、はぐれゾンビがフェンスを越えて、迷い込んできていても大丈夫でしょう。

 携帯電話を利用して、皆を軍用機のあるスペースに集合させました。

 ここが一番死体が少ないからです。

 リリジェンとつつじちゃんは、可愛いパジャマに身を包んでいます。

 サイズは同じようなものなので、同一人物のものでしょうね。

 私は二人にはい、と病院の備品から持ってきたマスクを差し出します。

「これから行くところでは、ずっとこれをつけていてくださいね」

「う~わ~すげぇ息苦しそうなんですけど」

「自衛のためだもの、仕方ないわ」

「ていうかフリウさん、えらくセクシーになってない?」

 私は胸元の際どいぴったりしたシャツと、黒いミニスカートに伊達メガネです。

 わたしは雷名君にした説明を繰り返します。

「どんな相手か分からないので、貴方たちは圏外にいてください」

「………ぐらいならあたしでもできるよ?」

「そういう問題じゃありません。目的は超能力による情報収集です。貴女にはできません。相手が危険かもしれないんですから、貴女を守りたいという思い、どうかわかってはもらえませんか?」

「そういうの、ズルい………フリウさんだって危険かもしれない相手を誘惑するんでしょう?」

「わたしは身体強化をかけていきますから、その連中が多少危険でも大丈夫です」

 はっきり大丈夫と言えないのが辛いところですが、こんな役目をつつじちゃんには振れません。天使は人間を守る者なのですから。

 頭を軽く振って考えを振り払った私は、

「雷鳴君、彼女らのメイクをお願いします。その後で、私のメイクもお願いします」

「はいはーい………ってフリューエルさんのメイクも俺?」

「今回は、男性目線でメイクしてもらった方がいいでしょう?」

「ふえーい」

 雷名君は、二人の顔に病人メイクを施します。

「ああ、これは健康そうには見えないわねぇ」

「うわっ、リリちゃん薄幸の美少女って感じ」

「うふふ。あなたもですよ」

 と、二人の感想。

「フリューエルさん始めまーす」

「どうぞ」

「妖艶な大人の美女って感じでいいの?」

「えぇ」

 しばし待って………

「うわ、ヤバい。俺が惚れそうなほど綺麗だよ。完全にこの星の制約無視してるんだけどどうして………あー、この化粧道具がケープに一体化されてるからだ」

「余計な虫は要らないんですけど………」

「大丈夫だよ、見惚れて動けないと思うから」

「ヴェル、どう思います?」

「………それが「外」でのお前の顔か」

「鏡を見る限り、メイクの分は抜いてください」

「気に入らん。人間にくれてやることもないだろう」

「今の私はサキュバスと同じですよ。お気遣いなく」

「気遣ったわけでは………ああ、もういい」

「あなたの格好は様になってますね。本当に軍人だと納得されるでしょう」

 そう、ヴェルは、きっちり歩兵の制服を着こみ背中にアサルトライフルをさしています。弾丸は腰に、弾丸入れがついています。

 さらに、土で幾分顔や服を汚し、血糊までつけています。

 正直、ここまでキッチリできるとは、意外でした。

 雷鳴君は、将校を装ったらしく、スタンダードな軍服の上に同色のコートを着ていますが、泥はついていません。血糊は散らしてありますが。

 訓練生は、やはり、土で汚した訓練生の制服に

 「大体役割は想定通りで行けそうですヴェルと雷鳴君が皆を守って連れてきて、ミシェルはその補佐、助けられたのは患者二人(リリジェンとつつじちゃん)と女医わたし一人。それで行きましょう」

 あとは、軍用保存食を車に積んでっと

 では、目的地に行きますよ。

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