聖女、邂逅
第8話 聖女(フリューエル)
お風呂に入った後、私たちは、車で雷鳴君とミシェル君の行こうとしていた山のふもとに到着。「
雷名君は少なくとも目が覚めるまで安全、と保障したトンネルに歩いていきます。
「車で休んだ方が良さげに見えるけど、多分ここで休むっていうのが重要なんだ」
と言っているので『超能力・精神感応』で見た彼の思うところのない相手への誠実さ(特に女性に対して)を買って、彼の言う通りにしてみることにしました
トンネルで、山に近い方に陣取り、それぞれ体を壁に預けて眠りにつきます。
睡魔は、すぐにやってきました―—―。
おそらく、四~五時間たったでしょうか
ふわり。何か暖かい物が体を覆います。それはとても優しく、いい匂いで―—―。私はいい気分で睡魔を受け入れます、ですがその五分ぐらい後―――。
「リリ姉っ!」
という雷鳴君の叫びで目を覚ますことになるのでした。
「何です、緊急事態ですか⁉」
私はとび起きます。それと同時に暖かいものが、女性ものの、淡いピンクのショールだったことに気付きます。
?となった私は雷鳴君の方を見ます。
他の二名も、眠そうに起きだしてきます。
ミシェルくんは、女性もののカーディガンを。
ヴェルは私と同じく―—―近くで寝ていたからでしょうか―—―ショールをそれぞれかけられていたようです。
確かに六月の朝は冷えますので、有難かったです。
雷鳴君は
「みんな、紹介するよ」
といって、一人の少女を手で指し示します。
茶色の髪をボブにして、ストレートの前髪。優しそうな瞳も暖かい茶色で―—―皮膚は黄色人種のものでしょうか。この国―――ヤポン―――にはよくある容姿でしょう。でも、ガイア基準では相当な美少女でしょう。
要は、天界魔界ではかわいいね、という程度の容姿だという事。
でも、彼女から目が離せません。彼女の何が素晴らしいか、それは魂です!
聖女に匹敵する美しい魂は、一瞬で私を虜にしました。
雷名君が彼女を紹介してくれるようです
「彼女はリリジェンっていう名前。彼女が、ショールとかカーディガンをかけてくれたんだよ」
リリジェン、「信仰」という意味の名前です。ますます素晴らしい。
「姉ちゃんのところで働いてる看護師兼患者。働くのに支障はないけどまだ心に
彼女はすこしもじもじした後、
「私が自分で自己紹介するわ、雷ちゃん。私は今、この上に合宿所のある天界系列のミッション学校でリハビリしております。一八歳を名乗るのは恥ずかしかったのですが………院長先生から申し付けられたリハビリですから。」
少し恥ずかしそうにしてから
「それと、雷ちゃんが私をリリ姉と呼ぶのは、私より年下だからです。私はレイズエル様の支配下にある異次元の『病院』その『天使棟』で働いていました。その時に雷ちゃんがよく遊びに来ていました。『天使棟』だけでなく、他の棟の人たちも雷ちゃんを可愛がっていましたよ」
みんないい人ばかりでした、と彼女は言った。
「それで、今この様なところにいるのは、昨夜、じゃんけんに負けてしまった子の、ペナルティを肩代わりしたからでして。
「ちょーっと待った。その死体ってのは何?」
と、雷鳴君。私も気になります
「羽小江山は自殺の名所ですよ。知りませんでした?ああでも死体は、なかったですよ?あれば供養しようと思っていましたが。寒いだけでしたね」
静かな微笑みで、六月でもまだ冷えるかもしれないと思って、ショールを2枚持ってきて良かった、と笑う。
それでは自分が冷えるでしょうに。ミシェルにはカーディガンまで―—―。
そう思っていると、同じことを考えたのか、ぼんやりしていたミシェルが跳ね起きて、畳んだカーディガンをリリジェンさんのに押し付けます。
「あの、あのっありがとうございます。でも俺もう大丈夫ですから!」
彼女はきょとんとした顔をしてから、花のように微笑み
「ありがとうございます。少しはお役に立てましたでしょうか?」
「はいっ、すごくいい匂いで………あっ何でもないですっ」
彼女は、カーディガンを着こみます。
流石にミシェルも、彼女の魂に気付いているようですね。緊張しています。
わたしも、丁寧にショールを畳んで、彼女に返します
小声で(ヴェル、彼女にショールを返しなさい)というと、ヴェルは私にショールを押し付けてきました(お前が返せ礼は言わん)とのこと。
魂の輝きなら天使である私の方が強いと思うのですが………人間の輝きはまた別種のものなので、それで気を悪くしているのかもしれません。
ヴェルのものも畳んでお返しすると、微笑んで二枚のショールをたたみ、学校カバンに入れます。
彼女はカーディガンを着ました。それと同時に、彼女の胸元が、輝き始めました。
彼女は首元から服の内側に入っているネックレスを引き出します。
おわん型の、銅板でできたネックレス。その膨らんだ方に精緻な細工がしてあります。あれは、我が「太陽教」の、太陽の刻印がされているネックレス。その太陽の球の部分には、翡翠がはめ込まれています。光を放つのはその部分でした。
彼女は聖印を握りしめ、しばし瞑目した。
「………なるほど貴女様(私)と、貴方様(ミシェル)は天使様なのですね。そして残る二人は悪魔だと………。聖印が、教えてくれます。」
静かに微笑んで、聖印に口付ける。
「天使様はもちろん、悪魔の方にも偏見はございません………。天使の看護師長と悪魔の看護師長の口喧嘩は賭けの対象になっていたぐらいで………それを仲裁してたのは人間棟の看護師長さんです。もしくは仲裁なしでした、うふふ」
雷鳴が付け加える
「ほとんどが女性だったんだけど、二歳の時から遊びに行くようになって。リリ姉も、あちこちの棟の人たちも凄く可愛がってくれたんだよねー」
「わたしの年齢は先代の天魔帝の後期ぐらいですから………当代天魔帝初期に生まれた雷ちゃんより年上なんですよ」
今代は、まだ始まって千億年というところですから、彼女の年齢は一兆千億歳といったところでしょうか。
私の歳は一京年と百億歳を数えていますから、全く気になりませんね。
というか、その年齢は明らかに科学王国ルベリアと魔法王国フィーウの銀河大戦争と同じ時期。トラウマとやらの原因はそこでしょうか。
掘り返したくないので聞きませんが……。
「遊びに来た雷ちゃんが可愛くて可愛くて………ほかの人より余計に構っていました」
そう言ってまた、微笑む
「ところでさ、リリ姉」
「なぁに、雷ちゃん」
「学校で変わったこと、なかった?誰かが誰かに噛みついたとか、あからさまに様子のおかしい人がいたとか」
雷鳴君が問いかけたことで、場の雰囲気が一気に引き締まりました。
「噛む………そういえば、隣のクラスの―—―名前は知らないの―—―子がビックリなことに、先生に噛みついたって。酷いケガだったらしくて、近所にある病院に1日入院されてるわ。」
「え、マジ?病院もあるんだここ」
雷鳴君の顔が引きつります。
もちろん他の面子も顔が険しくなります。
「持っているのだから、タブレットで情報を得ておくべきでしたね」
「俺らもスマホで確認しとけば良かった。ノーパソもあるのに」
雷鳴君とミシェルが頷きあっています。
「リリ姉、それいつの事?それと噛んだ方はどうなってる⁉」
「え、ええと昨日のお昼よ。噛んだ子は個室で謹慎だけ。その先生―――なんていうかあまり良い先生ではなかったらしいから。らしいでものをいうのは嫌なんだけど。というか、それより何でそんなことを聞くの?何か起こってるの?」
ガイアの外に出れば、それなりの能力者なのでしょう。気が付くのが早いです。
「あなたに『超能力・精神感応』で情報を送らせていただけますか?任務の情報以外に、私とヴェル、雷鳴君とミシェルの情報も含まれるので、ちょっと頭が痛くなるかもしれませんが」
(いつの間にこっちの情報を得たんだよ。あ、あの真眼のときか!)
と雷鳴君が呟いています。ご明察。
(情報共有の誓いを交わしたでしょう?はい、こちらの情報です)
と、囁き、雷鳴君の首を触って私とヴェルの成り行きを送っておきます。
そんなことをしていると、彼女が
「わたしは、構いません。情報をください。それと、名前はリリジェンと呼び捨てにしてくださって結構ですよ」
「ではリリジェン。私の手を握ってください」
リリジェンは素直に両手で私の右手を握ります。
私は、彼女の情報を読むのはやめておきました。プライバシー侵害ですからね。
えっ、雷鳴くんたちのはいいのかって?
同胞と悪魔ですし、誓いを結んでいますから(にっこり)
手加減する対象ではないのですよ。
それより情報を消化するにつれて、どんどん顔色が青く。そしてそれを通り越して土気色になっていきます。
「まさか………じゃあ、三年生のみんなは………病院の人たちは………もう?」
「経過時間を考えて、絶望的だと思われます………」
「夜までは、何の異変もなかったわ」
「多分、二人が隔離されていたからでしょうね。それなら少しは可能性がある。ヴェル、また殲滅戦の様相を呈しますが―—―行きましょうか」
「否やはない、むしろ良い」
やれやれ、こと戦闘に関しては頼もしい限りですね。
「俺たちはそっちには行かないよ。普通の登山ルートで言ってみる。この星の異変を止めるためには、いろいろ行動を変えて、試してみた方が良さそうだから。ついでに、そっちの殲滅戦にはついていけそうもないから」
「私はできるだけたくさんの魂を「浄化」したいだけです。それはそれで、少しでも状況が良くなると思っておりますよ。貴方たちとは、ただ方法が違うだけの事。貴方たちは貴方たちでできることをすればいいと思いますよ」
と返し、ふと思い出しました。思念から読み取った、雷鳴君の気にしていた事を。
「ところで、唐突な話ですみませんが、雷鳴君が噛まれて、痕が残っているというやつですが、おそらく不死者の因子同士が喧嘩してるんだと思います。もしよければ私の『超能力・思念強化』で、あなたの不死者の因子を強化しましょうか?多分消えると思うのですが」
「えっ、マジ?フリューエルさんって医者?」
「天界では医師資格がありますね。人界の一部でも資格がありますよ。対悪魔のための技能として取得した悪魔の医療知識もあります」
「それで不死者の知識なんてあるのか………」
雷鳴君はう~んと唸ってから、
「じゃあお願いするよ。このままじゃ気持ち悪いし」
では、と私は雷鳴君のズボンの裾をめくりあげ痣を見ます。毒々しい赤い痣ですね。これでは気になって当然でしょう。
私は痣の中心に口づけました。
ひゃっ?と何故か雷鳴君ではなく、ミシェルが声をあげています。全く。
雷鳴君は、私が医者だと理解しているので、特に動じた様子はなさそうです。
そもそもガイアに来てから―—―いや、異変が起こってから―—―超能力が劣化しているので、粘膜で触れでもしないと力を強く使えないんです。
果たして痣は、綺麗に無くなりました。
「ご気分は?」
「いいです」
と定番のやり取りをしていたら、思い詰めた顔でリリジェンが言いました。
「フリューエルさん!私を貴方たちと一緒に連れて行ってください!」
ええ?私たちの方にですか⁉
「ほぼ殲滅戦ですよ?生き残りは、もちろん探しますが。攻撃手段のない貴女では私たちについてこれないでしょう。この場で私たちについてこれるのは雷鳴君ぐらいでしょう。」
「大丈夫です。院長先生に封印してもらっていたものを解きます」
そう言ってリリジェンは自分の皮膚―—―両人差し指、両手首、両肘―――をびりびりと引きちぎります。よく見ると本当の皮膚ではないのが分かりました。くっついていた時は、普通の皮膚だと信じて疑わなかったものです。
「これで、戦えると思います」
両腕の、偽の皮膚を取り除いたところには、皮膚に切れ目が入っていました。
いかにも外れそうで、それを裏付けるように、死角には極薄で、肌色の蝶番がありました。
「外すとどうなるのですか?」
私は一応聞いてみます
「超圧縮された空気弾が出ます。充分頭を砕く殺傷能力があります。本当は他の兵装だったのですが、院長先生が、ここでも万が一のことがあったら使えるようにと改造してくださいました。足は魔法金属です。腕と頭蓋骨もです」
「………途中まで、ゾンビの密度が上がるまでならいいでしょう。それでも、こっちが判断した時点で、もうついてきてはダメです。いくらサイボーグとはいえ、貴方の身体能力では足手まといだと思います。銃を持ったミシェルが付いてきてはいけないのと同じです」
実のところ彼女は、足手まといにはならない可能性が高いです。
ですが、私は彼女に殲滅戦の光景を見せるのは酷だと判断しました。
視界の端でミシェルが少し落ち込んだ顔をしています。
「あなたも、充分強いのですよミシェル。このガイア指折りの能力者になっているのですから。私とヴェルが反則なだけです。まあ私の方は超能力を使うことで補っていますが、ヴェルはそのままでも強いですからね。ですからリリジェン。途中で抜けて、本格的には学校の事は私たちに任せてくれませんか」
「わかり………ました」
「リリ姉、俺たちも、うち漏らしを防ぐために参加するよ。離脱するときは、こっちのルートに一緒に行こう」
「雷ちゃん………わかったわ、」
「では、行きましょうか。タブレットで確認して、ルートは把握しました。病院の方が下にあるので、先にそっちのゾンビが多く来るでしょう」
そう言って、先頭に私、しんがりにヴェル、中間に雷鳴くん、ミシェル、リリジェンさんの順番で出発します。
五分ほどで先頭を行っていた私はゾンビ?を視認します
「来たには来たのですが………なにやら異形ですよ」
と報告します。
やってきたのは、四つん這いでガサガサうごく看護師(男)の背中に老婆の上半身がくっついたものです。ついで山を下りてきたのは中途半端に融合して扇状になった体に頭は一つ(魂はふたつ)というものでした。それと同時に、女子高生が、手と足だけがくっついて円になり転がってくるものとも遭遇します。
「女子高生二人は、私の友達です!せめて私にやらせてください!」
と言われたので「どうぞ」と道を譲ります。女子高生はこの中では下しやすいでしょうし。他の二人は、私とヴェルで受け持ちます。
「あなたは奥の方を。私はおばあさんを」
というと
「あぁ」
と返事が返ってきて、疾走していきました
が、私がおばあさんと看護師さんの魂を「浄化」し終わって、ヴェルを見ると、とっくに解放されている死体を、かんがんと執拗に蹴っています。
もはや頭部は消し飛んでいます。
「ヴェル!」
叫んで、その場にいくと、羽交い絞めにします。抵抗されました、容赦ない肘鉄つきで。私は即座に対処しました。剣で胴体を思い切り峰打ちしたのです。ついでに頭に拳骨も入れました。
ヴェルの瞳に理性の色が戻ってきました。めちゃくちゃ不満そうです。
「その人たちはもう終わっているでしょう。次に備えなさい」
こっちも機嫌の悪さを隠そうともせずに言い放ちます。
とはいっても、最悪な気分ではありません。
単に―—―何故か―—―私はヴェルに対して、ストレートにものが言えるのです。
向こうがそうだからかもしれませんね。
さて、とリリジェンの方を見てみれば、彼女はそれで、こちらも終わったと知ったのでしょう。祈りを唱え始めました。
主よ、栄光の王よ
解き放ってください
すべての世を去った信徒たちの魂を
そして深い淵から、解き放ってください
彼らを獅子の口から
彼らを陰府が呑み込むことが
ありませんように
彼らが闇の中に陥ることがありませんように
主よ、聖霊よ。どうか光を彼らに
聖なる光の中へとかれらの魂を導いてくれますように
そう、かれらも尊い存在なのですよね、ゾンビと一括りにしているわけではないですが、麻痺しかかっていた心が洗われるようです。
彼女の周りには聖気が淡くきらめき、幻想的な光景となっています。
ミシェルは、「こんな人間が本当にいるなんて……」と感動しています
雷鳴くんは、慣れた感じで邪魔しないように少し離れています。不快感を覚えてはいないようですね。
ヴェルは………さっきの事もあったので、そっぽを向いています、やれやれです。
そうこうしていたら、またゾンビたちが下山してきます。
今度は三つ首の女性、車椅子と融合して猛スピードで走って来る老爺、背中合わせに融合した少女と男性(患者服)です。
リリジェンが、三つ首の女性は同級生だというので、任せることにしました。
ヴェルの発作もなく、リリジェンの鎮魂歌が響き、ヴェルがさらに不機嫌になって、終了。私は山の上の方を見上げて言います。異形のゾンビの大群でした。
「リリジェン、雷鳴くん、ミシェル。ここで一旦お別れです」
「本当に大丈夫なのですか?」
実物を見て心配になったのか、リリジェンが、縋るような目で言ってきます。
「大丈夫です。前よりは手ごわいですが、何とかなります。これで何ともならないようでは、ここに来た意味などありません」
わたしはきっぱりと言います。
そう、これぐらいでお役目を放棄できません。私はソルジャーなのですから。
リリジェン、雷鳴くん、ミシェルは、いったん麓に下りて、登山道を行ってみるそうです。道行きに幸多からんことを。
さて、私とヴェルの二人は「浄化」開始です。
今回は、考えながら倒す必要があり、手こずりました、多少苦戦しましたが、全てを「浄化」してゆきます。ただ、歯がゆいことに生存者どころかなりかけもいません。すでに不死者の因子が回りつくしてしまったのでしょうか。
変化があったのは合宿所のボイラー室(扉は鉄です)にたどり着いた時です。
くすんくすんと、すすり泣く声がボイラー室から聞こえるのです。
「だれか生き残っていますか?」
と、私は扉に問いかけます。
すすり泣きが止まりました。
「怪しい者ではありません。アマリカ軍基地の者です。基地は壊滅してしまいましたが、生き残りでゾンビを浄化しています」
「………助けて、くれる?」
女の子の声です
「はい、もちろん。ようやく生存者に会えて良かったです」
(………おい、フリウ。一般人を連れていくのか?足手まといだ)
(ここに置いといたら、遅かれ早かれ死んでしまいますよ『人間を殺さない』
そうですよね?間接的に違反になりますよ)
「………チッ」
嫌そ~に舌打ちすると、そっぽを向いてしまいます。気に入らないときは顔を背けるのが癖なようですね。
「お嬢さん、化け物が出てきても私たち二人と一緒にいれば大丈夫です。だから鍵を開けてください。ついでに言うと、この建物は「浄化」済みです」
「じょうかって何すること?」
「みんなやっつけた、ということです」
「そっか………わかった」
ガチャリと鍵の開く音。私はそっと扉を引いて開けます。
そこには、着崩した制服の女学生が立っています。
紫がかった黒髪は、優しいカーブを描き、やはり紫がかった黒い瞳をしています。
落ち着いた感じの、比較的整った容貌ですが、性格は違うようです。
「うわぁ、お姉さんもお兄さんも何、その格好。でもすごい美形カップル!」
「バトルスーツの事ですか?戦闘服ですよ、最新式のね」
「いやそっちなくて、血まみれじゃん。修羅場くぐってきたみたいな?」
「ええ、確かに修羅場をくぐってきました。あとで、川で洗いますよ」
「ここ浴場あるからさ、入ったら?」
「浴場は………色々居て、汚してしまったので」
と辞退します。彼女ははっとまじめな顔になり。
「ていうか桐島くん!無事じゃなかった⁉他にも無事な人、いたでしょ、ね⁉」
私は沈痛な表情で首を横にふります。
「ここが最後の確認場所なんです……貴女が最初で最後の生き残りです」
彼女はぺたん、と座ってしまいました
「ここで桐島くんと夜の待ち合わせしてたの。夜のデート。でも、桐島くん、来なくて、少し扉開けて外、見てたら………なんか皆化け物になってて。ここの扉叩くから、きっちり閉めて鍵かけて、ちゃんと話ができる人だけ入れる~って言ってたの。でも、そんな人全然来なくて、ていうか、助けてー入れてって人が一応いたんだけど、隙間あけて見たらもう化け物になっててさ………なのに桐島くんは、全然こなくて」
どうしたらいいの桐島くん桐島くんと泣き叫び始めてしまいました。
わたしは彼女を宥めながら手を取って『超能力・精神感応・示唆』を使いました。
『示唆』で彼女に穏やかな感情を「示唆」します。
これで、もうすぐ泣き止んでくれるでしょう。
ついでに彼女の表層思考をさらっておきます。
彼女は「宮島つつじ」さん。
成程、つつじさんと彼は、ボイラー室でセックスするつもりだったようですね。
「彼は、何かの事情で遅れたのでしょうね。それで災禍にあった」
わたしは泣き止んできた彼女を覗き込んで、
「彼の部屋を調べますか?ショッキングなものを目撃するかもしれませんが」
と聞いてみた
「ううん、いい。見たくないから」
薄情なのかもしれませんが、精神衛生上はその方がいいのかもしれません。
「では、近くの川まで行きましょう」
わたしはつつじちゃんを立たせると
「お姫様抱っこで、運んであげたいのですが、あいにく汚れていますので、自分の足でついてきてもらうことになります。大丈夫ですか?」
つつじちゃんはちょっと残念そうな顔をしていましたが、大丈夫そうです。
そして私たちは、下山の道を辿ったのです。
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