第3話 3人目(雷鳴)

 姉ちゃんに送り出されて、少しブラックアウトしてたが、視界が戻ってきた。

 俺は雷鳴。任務でガイアに来た。よし、頭は正常だ。

 だが次の瞬間、どうかしてた方が楽だったんじゃないかと思った。

 俺がいるのはデカい道路の真ん中だ。

 いや、車はいない………いや待て?!待って!!

 ………フルスピードのダンプトラックは待ってくれなかった。

 俺は高速道路の下にあった金網に向かって、後頭部からぶっ飛んだ。

「超痛って~ぇ!」

 それで済ますなって?俺はそれで済むの!

 まず縁石に腰がやられた。確実にポッキリだ。

 後は、吹っ飛んでく途中に強打した頭、後頭部。

 後頭部の骨がやられてる。中身出てないだろうなこれ?後ろは見えないから分かんねぇ。腕を動かして後頭部に触ろうとすると、腕がきしむが―――これも骨がイカれてそうだ―――それでも後頭部に触る。

 ううぇ~い。血ぃドパドパで、中身もちょっと………。

 意識がもうろうとしてるのはそのせいか。

 でも、ヴァンパイアの治癒力を舐めちゃあいけない。あちこちにあった骨折の骨はもうつながりつつある。

 後頭部はすごい勢いで修復を開始してる。もう数分あれば元通り、だ。

 しかし姉ちゃん、これ計算した場所なの?いくらなんでも酷くね?どういう意味があるんだよ―――と思った時。

 やっと焦点のあった俺の目が道路の反対側の映像をとらえる。

 あれ?………あれ、天使じゃね?

 比喩抜きで天使じゃね?コスプレにしては露出度が高すぎる。最下位の天使エンジェルの装備まんまである。

 すなわち、白い一枚の布を腰と胸に通しただけの露出度激高ルックである。

 翼がないが―――あぁ、この星には羽根つきの人間はいないから、星の意思スターマインドに消されてるのかな………けど、最下級ウォッチャー(主にエンジェル階級がなるらしい)って基本霊体のままパトロールしてるのが普通じゃなかったっけ?

 霊体パトロールは星の意思スターマインドに左右されない方法で行ってる(方法は極秘らしい)って聞いてるし。

 霊体でないとあんなに、天使でございますって格好でうろうろするわけないし?

 なのに何で物質化してるんだこいつ―――。

 あ………もしかしてガイアの異変で能力が封じられてるのかこいつ?

 魂で判断しようとしたが、魂が見えないのも、ガイアのせいか。うっすら光ってる気はするな………厄介な制限だ。

 と、じっと見てたのがまずかったか。

 向こう側にいた天使(もう断定でいいよね)が、こっちに気づいた。

 気づくのが遅すぎるぞ。なかなかの光景(事故)だったはずなんだが。

 大慌てで顔を青くしてこっちに向かってくるのは、今気づきましたって反応だ。

 あれ?………もしかしてこいつ、俺のパートナー?

 姉ちゃんが色々封じたうえでここに放り出したのか?

 酷ぇな。そりゃパニックにもなるわ、うん。

 こっちに向かってくる速度は、確かにこのガイアの最高値の速度だろう。決まりだな………でもこいつまだパニくってそうだな、大丈夫か接触して。

 という思考が終わるか終わらないうちに奴は俺のところまでたどり着いていた。

 そりゃ、大した距離ないんだし当然だよな―――。

「大丈夫ですか⁉」

「あー、大丈夫、五体満足だよ」

「良かったです………」

 今ので納得した⁉

 やっぱこいつまだパニくってやがる。

「ご親切にどちら様ですか?」

 と、問いかけてみた

 すると―――。

「僕ですか⁉ま、迷子ですっ!」

 をいコラ。

「………天使だよな?」

 もう直球で聞いてみることにする。

「はいっ!見習いですが!」

 答えるなよ。

 笑えてきた。

「落ち着いてくれ。名前は?」

「ミシェルです!」

 いちいち大声かつ涙声で答えるのはやめような、ミシェルくん。修繕の終わってない頭に響くわ。

「そうか、おれは雷鳴らいなっていうんだ。とりあえずここ危ないから移動しようか、ミシェルさん」

 そう言って俺は金網フェンスから身を起こす。

「はい!って………ああっ!」

 立ち上がった俺を見てミシェルが叫ぶ。あ、しまった、再生能力じゃ血痕は消せないんだった。凡ミスだ。

 ミシェルが青くなっている。

 そして治癒の呪文を俺に向かって唱えてきたが、ガイアじゃ異変が始まってなくても発動しないんだ、それ。

 流石にそれを(唱えてから)思い出したミシェルは

「救急車を―—―」

 と言い出したが、俺は冷静だった

「身分証持ってるか?それとその恰好はどう説明するんだ?露出狂扱いされるぞ」

 下級天使の恰好ってマジ際どいもんな。局所は一応隠れてるけど………。

「身分証は………ないです!でも雷鳴さんのがあれば………!」

 俺は姉ちゃんに持たされたトランクを開き、身分証が入っていることを確認する。

 ミシェルのもあったりするので、やっぱりこの出会いは仕組まれてたんだろう。

「大丈夫だ、本当に怪我はないから」

「そんなに血が出てるのにそんなわけないですっ!」

「大丈夫だって。触って確認してみろ、血だけだから」

「そんなわけ………」

 なおも言いつのろうとしたミシェルの腕を、強引に修復が終わったばかりの後頭部に当てる。出血は派出だが、探っていくと傷がないことは明白だ。

「なにもない………骨折とかもないんですか?」

「そうだ。ヴァンパイアの『超速再生』できれいさっぱり元通り。血の跡も…………ほら」

 血が風化して、チリになって消えていく。『風化』の『教え(ヴァンパイアの特殊能力)』である。

「信じてくれるだろ?大丈夫だって」

 ミシェルは絶句していたが、理性を総動員したのか

「このガイアっていう星のヴァンパイアさん………ですか?」

 と聞いてきた。まあ最初はそう思うか。

「ハズレ。それと「っていう」は一般人を主張するなら、言っちゃだめだと思うぞ。で、このガイアにヴァンパイアはいないよ。俺は魔界から来た悪魔のヴァンパイアなのさ。制限空間でも能力をふるえる、な。ああ、当然上限があるから、だいぶ弱体化してるけど、これぐらいの怪我なら一応治るんだ」

 そう言ってミシェルの顔をのぞき込む。

「こういうカラクリなんだが………信じてくれるかな?」

 ミシェルは呆然として座り込んでいる。刺激が強かったらしい。

「先輩………教官………どうしたらいいんですか………」

 呟くミシェルに

「どうもこうも。任務中に悪魔と遭遇した時のマニュアルは?それぐらい知ってるんだろう?思い出せ」

 そう言いながら、ミシェルを担ぎ上げて歩道側に連れていく。反射的だろう、暴れられたが、パニック状態の奴を抑えるなんて簡単だ。高い能力値が生かせてない。

 逃がすつもりはない。冷静にして、きっちりパートナーになってもらわないと。

 能力値の高さは本物のようだし―――。

 それはさておき、暴れたことによって、服装がモロダシ寸前である。

 特に下半身は危険だ。

 それに叫び声がヤバい。「離せ悪魔!」とかなんとか叫んでいる。

 俺は人目のない場所―――近くにあった廃車置き場の中で、ドアが開くやつの中―――の運転席側にミシェルを押し込んだ。かび臭いけどしょうがない。

 あのままあそこで―――しかもこの格好で―――叫んだりされ続けると要らない事態が起きそうだった。

 とりあえず、ミシェルの口にハンカチを押し込む。

「グムッ?ムームームー!」

 何やら騒いでいるが、関係ない。

 叫ばせておくとそのうち人が来るだろうから、仕方なくだ。俺は変な趣味はない。

 まぁ、この辺は辺鄙な感じで、畑とアパートしかない感じだから、来るとしてもすぐではないだろう。でなければ、路上にいるうちに人に見つかったはずだ。

 とりあえずガシッとミシェルの頬を掴み(ハンカチを吐き出さないようにである)

「いいか、とにかく冷静になれ。少なくとも叫ぶのをやめろ。『俺はお前を害さない』と『誓って』やるからとにかく冷静になれ、いいか?」

『誓い』の一言は劇的だった。

 ミシェルは暴れるのをやめ、ポカンとした顔になっている。

『誓い』とは悪魔や天使が口にすると凄い強制力がある。ぶっちゃけると誓いを破ると死ぬ。だからここまでの効果があるのである。

「冷静になったか?」

 コクコクとうなずくミシェル。

 俺はうなずいて、頬から手を放し、ハンカチを出してやる。

「俺に対して本当に害意はないのか………?」

 本来の一人称は「俺」らしい。それが、「僕」になってたんだからパニック状態も相当なものだったんだろう。そう思うと少し可哀そうな目に合わせたか………?

 それを口にすると

「忘れてくれ!」と叫ばれた。だから叫ぶなっちゅーの!

「お前の格好はガイアでは刺激的すぎるんだよ!しかも暴れるから崩れてるしさぁ!俺の懸念を考えろ!コスプレを超えてるんだよそれは!」

 思わず俺まで叫んでしまった、うあーダメじゃん!

 そう叫ばれたミシェルは自分の格好を改めて見た。

「忘れてた………これ、天使エンジェルの制服みたいなもんだから………今訓練の内容思い出した………俺、外勤につく前の訓練生だからさ。」

 恥ずかしいとは理性だけで認識しているのだろうが、感情の方が伴ってないあたりまだまだ訓練不足アウトである。

「はぁ、なるほど、訓練で巡回してたのか?」

「そうなんだ。なのに突然皆からはぐれて、知らない場所に出たと思ったら、強制的に受肉(物質化)してしまって………そのせいでこの星のルール(制限空間)に縛られてしまって、頼りは一緒に物質化した連絡用携帯だけだったんだけど………仲間にも上司にも天界にも繋がらなくて………!」

 涙目である

「そりゃあ災難だな………(姉ちゃんの仕業だなそれは………)」

「もうどうしたらいいか………」

「分かりきってるだろそんなこと」

「えっ?」

「さっさと悪魔との付き合い方マニュアル、~敵対的関係にない場合~を思い出せ。俺もサポートしてやるから。まずはどうするんだった?」

 そう言われて、必死で頭を働かせ始めたミシェルを、俺はやっとか、という思いで見つめる。

 そしてミシェルが口にしたのは

「敵対的か、中立か、友好的かに分類する………」

 というものだ。

「俺は友好的なつもりだけど?正体を自分から明かしたし、多少乱暴だったけどお前を正気に戻したし」

「そう………だな、友好的なんだよな。というかお前本当に悪魔か?」

「失礼なこと言うな、後で言うけど友好的なのにはちゃんと理由があるんだよ」

「うぅ………それでも今はお前に助けてほしい………」

「………っ!」

 カインの一族のヴァンパイア・癒しの氏族の戒律に曰く―――「助けを求めてくる者を見捨ててはならない」―――んだよな………。

 しかも相手にそれを言わせやすくする能力とセットだ。俺のはまだ強制力が弱いけど、姉ちゃんなんて大変だ。どう対処してるのやら。

 いや、現実逃避してても仕方ない。俺は確かに助けを求められたのだ。どこまでやるかはともかく、この場はミシェルを助けてやらないと。

「わかった、助けてやるよ」

「えっ?」

「まず、これを受け取れ」

 と、情報球と記憶球を組み合わせた複合球を渡す。

「今自分の置かれてる状況が分かるぞ」

 促すと、ためらいつつもミシェルはそれを頭に吸い込ませた。素直な奴。『害さない』という誓いの効果もあるのだろうが。

 吸い込むと同時に、頭を抱え込む。頭が痛いのだろう。

 大容量の情報の受け取りには慣れていないようだ。

 複合球には、魔界での記憶の抜粋と、ミシェルが知っておくといい情報を入れた。吸収整理には………一時間は見た方がいい。天界魔界かかわらず、新人はそんなスピードじゃないかな?俺がガキの頃とでも思ったらいい。

 大体1時間は経過したか、ゆっくりとミシェルが顔を上げる。泣きそうな顔だ。

「俺は天帝陛下のご意思でここにいるんだな………?」

 その言葉に

「まとめるとそうなるな」

 と返すと

「何で任務に赴くって形じゃないんだぁぁ………」

「ああ、それは気になるよな、でもな、どうしようもないんだ。俺だってダンプのアタックなんて受けたくなかったさ」

「と、いうと………?」

「お前が実戦に強いとみて、姉ちゃんがそういう形にするよう掛け合ったんだろう。で、それが通っちまったんだろうな。予想だけど」

「強いとは思えないんだが………」

「いや?立ち直りは早いと思うぞ?ガキの頃の俺よりずいぶんマシだし」

「雷鳴の歳は一体いくつなんだ………」

「天魔の今代の御世、最初の方生まれだよ。お前とそう変わらないんじゃないのか?けど、それだけじゃないのは、複合球に入れておいただろ?」

 俺は時止めの部屋や、時間のねじれたい空間から異世界までを、現実換算したら何時間ってぐらいに縮められ圧縮されて経験してるからな。

「そうだな………まぁ、これ以上悩んでてもしょうがないよな」

 よし、受け入れてくれたらしい。ならやることは一つだ。

「よし、複合球に入れておいた情報は読み込んだんだな?お前が元々習ってた情報も使っていいから契約を始めよう。お前がリードしろよ?」

 せっかく教えたんだから、活用してほしいのだ。

 ミシェルはうなずいて誓いの言葉を述べ始めた。

「ええと………まず、『お互いに危害を加えない』双方誓うか?」

 うなずきあって同時に『誓う』と言う。

 そのあとは早かった。

『任務に協力し合う』『人間を殺さない』に『誓う』だけ。

 天使側に有利な条件だから、断ったり条件を設けたりすることもできるが、現在俺はミシェルを「助けないといけない」ので、このままの条件を吞む。

 ミシェルが意外そうな顔をするので

「助けて欲しいんだろ?」

 と、問うと赤くなった。

「あ………もういいよ、充分なことをしてもらった」

 ほっとする。

 はっきり言ってもらえれば戒律は終わったとみなせる。ひとまずだが。

「だから条件とか、つけてもいいんだぞ、考えるから」

 と言われて、無いと言おうかと迷ったが、ひとつ条件をつけることにした。

「じゃあ、この任務が終わって、お前の訓練期間も終わって一人前になったら、俺のところに来い。見定めてやるから。呼び出してくれていいぞ、手段は任せる」

 ミシェルは緊張した顔で

「分かった、必ず会うようにするから」

 と言う。固い奴だ、と俺は笑う。

「じゃあ、ここに契約は成立した!今からはパートナーだな!」

 そう言って俺は俺とミシェルの中間にトランクを広げた。

 まず、間違いなくミシェルのために入っているのだろう、ジーンズとTシャツを押しつけて、「着替えろ」と一言。おとなしく着替え始めるミシェル。

「最初から分かってたんなら、最初から普通の格好で物質化させてほしかった………」

 とかミシェルは呟いていたが、俺も同感だ。あの装束でなくなって、ほっとする。パートナーが変態扱いされる心配がなくなった。

 ただ、色気のない、野郎の生着替えはいらない、と思った。

「で、これ身分証一式。身分証以外に、住居契約と住所まである………しかもここの近くだぞ」

「どこまで手回しいいんですか………」

 怒りや困惑を通り越して、呆れた口調になったミシェルが呟く。

「姉ちゃんだからなぁ」

 俺も似たような気分だ。ダンプの事も恨みに思ったりしていない。

「これ、住所だ。あそこのあたりだな。えーと「グレースシャトー・塩雅しおが」ああ、この辺塩雅しおが市っていうのか………」

 入っていた地図帳を見ながら言う俺。

「とりあえず、この車の中でやる事じゃないんじゃないか、これ」

 と、冷静な意見ありがとうミシェル。俺もそう思う。

「よし、じゃああとは、この住民票の家まで行ってから考えよう」

「賛成」

 ミシェルもうなずいたので、俺たちはやっとかび臭い車から解放されるのであった。


「グレースシャトー・塩雅」にたどり着いた。

 一〇三号室(一階の奥から三番目。ちなみに一階は全部で四部屋で一番手前―――左隣―――が大家さん)の鍵がトランクに入っていたので、その部屋に入る。何より先に思ったのが、これはまたボロい………である。

 壁とか、ペラッペラじゃないだろうかこれ。

 ちなみに手前の部屋(キッチン)と、後ろの部屋を仕切っているのはアコーディオンカーテンである。まぁ、視線を遮る効果だけはあるか………。

 床はケバケバの畳、天井には喫煙者がいたと思しき痕跡(天井と壁が黄色い………)

 と、働かなくてもトランクの中の金で(百万ぐらい)しばらく生活できそうな所を選んだ感じの内装である。

 そう思って調べたら家賃は三・五万でした。やっぱりね。

 キッチンにはガスが通っておらず電気式。

 電気が通っている関係上、冷暖房があるのが救いだろうか。ま、今は(トランクにあった電波時計によると)三月末なので必要ないのであるが。

 キッチンにも後ろの部屋にも収納(押入れ)があるのは良心的なのだろうか。少なくとも、隣に音を響きにくくする効果はありそうだ。

 さっそくキッチン側の押し入れの中をチェック。

 なんだかワクワクする。聞いてみたらミシェルもワクワクしていた。

 こいつの場合、全てが新鮮なんだろうな。

 まあとにかく、ふすまを引き開けてみたら、上下二段になっており、上段はクローゼットになっていた。実はミシェルの方が体格がいいので―――力は俺の方が強いのにな。別に筋肉は欲しくないけど―――どっちがどっちの服なのかはすぐ判明した。

 白系がミシェルので、黒系が俺のだから、そういう意味でもすぐ分かった。基本的にジーンズにシャツ(俺のに多い)やトレーナー(ミシェルに多い)である。

 好みにまで配慮してくれているようで、二人で呆れた。

 下段は掃除機がチョコンと置いてあった。所帯じみている。

 奥の部屋の押し入れの中はちょっと変わっていた………というか、これは違法では?

 布団はともかく、一番奥にあったアーチェリーか何かのバッグ?というやつの中身が、銃器だったのだ。長いバッグなのは、中に散弾銃―――有効射程は約 四十五m。猟銃として使われる―—―その他が入っていたからだ。

 銃器にはある程度は詳しいのでそれぐらいはわかるのだが、ガイアの銃器メーカーなんてさすがに知らない。

 そしてその他はいわゆる拳銃ハンドガンだった。三丁あり、二丁はリボルバー――― 弾倉が回転式になった連発拳銃。命中精度に優れる―――の超大口径。

 一丁はオートマチック―――自動拳銃などとも呼ばれているが、引金を引いたのちの発射→排莢→送弾のサイクルが自動化されているだけで,全自動式というわけではない―――で、女性でも扱えそうだった。

 ちなみに全部の銃弾も予備まであった。

「これ………何でこんなに」

「………いずれ必要になるんだろう。異変が起こるっていっても、いつになるか分からないから、早めに使い方を教えるよ」

 言葉に詰るミシェルを見て、短く答える俺。それしか答えようがない。

 とりあえず、バッグにしまって、ミシェルには明日改めて使い方を教える事にした。

 今日はもう深夜なのである、俺はヴァンパイアだし、悪魔だって今からが活動時間だが、ミシェルは逆だ。というか人間と一緒のミシェルが普通だ。休ませないと。

 というわけで、全ては明日―――。


 ピンポーン!

 けたたましいチャイム音で目が覚めた。夜は考え事をしていて、明け方に寝たばっかり(?)なので叩き起こされた感じだ。ちなみに昼間でも低刺激で起きるのは俺の特技であり、普通の同族は爆弾でも耳元で鳴らさないと起きない。

 ピンポーン!

 固まっていたミシェルが慌てて動く。インターホンなどないのでドア越しに

「ど、どちらさまでしょうか?」

 と、多分訓練の成果だろう応答をしている。

「一〇一号室(一階の一番奥)の花本美織ですけどぉ」

 女の子の声だ。俺はミシェルの後ろに立ってひょこりと顔をのぞかせる。

「はい、開けます!」

 扉が開いた。

「わぁ、引っ越してきたの、男の子なんだぁ!しかも二人ともめっちゃイケメンじゃん!なにこれ、激嬉しい~!」

 俺とミシェルが顔を出すと、その女の子―――多分高校生だろう―――はそう叫んだ。ミシェルがちょっとビックリしているので、俺はミシェルを横にどけて

「俺は雷鳴。こっちはミシェル。よろしくね。君のことは何て呼んだらいいかな?」

 ついでにやさしく微笑みかける。

「………あっ、あたしのことは美織って呼んで!でっ、でぇ………お兄さんたち何?モデルか何か?」

 それ、もらっとこう。姉ちゃんが財布に入れてた金額からして―――

「そうなんだよ、良くわかったね。まだ卵なんだけど、アマリカ合衆国から来てて三ヶ月後ぐらいから働くことになってるんだ、よろしくねー」

「そうなんだぁ~。ウチ親が外国で仕事してて一人暮らしなんだけど、ご飯作るのめっちゃ得意だから、時々こっちに持ってくるよ!ってか来させて、オネガイ!」

「申し訳ないですよ。それならこちらから材料費ぐらい出しますよ!」

「そうだよな、美織ちゃん。二万ぐらい渡しとくね」

「えっでも、時々なのにそんなに貰えないよ!」

「大丈夫、美織ちゃんのごはんには、男所帯を癒す力があるから」

 これは本音である。

「一万円なら貰ってくれる?」

「それくらいなら………てゆーか二人ともマジでいい人すぎない?会ったばっかりなのに………」

「君がかわいいからだよ」

 と、俺。もちろん本音。言っとくけど下心はないからな!女の子はみんなお姫様になれるんだよ!あーこういう子もかわいいなぁ。赤くなってるし。

 あ、ミシェルが会話から置いていかれてる。仕方ないな。

「お前もそれでいいだろ、ミシェル」

「えっ………いいんですか美織さん」

「うっ、うん!ウチ、頑張るね!」

 ということで、彼女はチラチラこっちを見ながらアパートの一番奥の部屋に消えていった。

「雷鳴………えらく好意的だったよね、何かあるのか?」

「俺は女の子には、みんなに優しいぞ。姉ちゃんからは呆れられるけど、子供のころは、遊んでくれる人も、勉強を教えてくれる人もみんな女性だったし、しょうがないじゃん。」

「はぁ………」

 ミシェルに呆れられた。

「まあ別にいいだろ?とりあえず目ぇ覚めちまったし、お前に銃の使い方を教えるよ。ほかにも色々レクチャーできそうだし、やる事は多いな」

 トランクの中には、ノートパソコンとスマートフォンと災害用の手回し発電機のついた多機能(ラジオ、懐中電灯、スマートフォンの充電器)ラジオが入っていた。これらはミシェルも使い方を知っているそうだ。これならテレビはいらないな。

 銃の扱い方も、実際に撃ってはいないが、すんなりと習得してくれた。

 あとは、他に力になりそうな技能スキルを教えることで、いつになるか分からない異変の時を過ごそう。

 ………睡眠不足になりそうだな。

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