第15話 猫の目

 ……静かだ。


 何も見えず、何も聞こえない。

 音らしい音が死んだ世界は、漆黒の闇に覆われていた。

 ぼんやりと意識だけがあるが、自分の身体の形さえはっきりと知覚できない。

 上半身と下半身が繋がっているのか、それすらも分からない。

 感覚らしい感覚がない。いったいここはどこだ。

 恐ろしさに叫び出しそうになるが、声は言葉にならない。

 黒一色の無音の世界に、なぜか奇妙なほどの安心を覚えた。

 無限の闇を照らすように、ちっぽけな月明かりが二つ。

 おかしい。

 どうして月が二つある。

 二つの月は、まん丸になったり、細長くなったり。

 くるくると表情を変える。

 まるで、そう、猫の目のように。

 猫の目。


 ……モシュ!

 ああ、モシュだ!

 二つの月はモシュの目だ、とようやく気が付いた。

 音もなく、光もない世界を照らしてくれたのはモシュだった。

 目もろくに見えない幼い日のミリクを庇護するモシュがいた。

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