第5話 モシュ録

 ミリクはモシュの言葉を教訓として、まだ柔らかなままのういろうに刻みつけた。


 モシュ録①:【忘れていることさえ覚えていない】

 モシュ録②:【記憶の欠片を安易に手放すな】

 モシュ録③:【どうでもいいことほど忘れないでいろ】

 モシュ録④:【どうしようもないことほど覚えておけ】

 モシュ録⑤:【重要な記憶かどうかは問題ではない】


 ミリクがういろうに指で文字を刻んでいると、モシュがなんとも言えない表情で文面を覗き込んできた。猫という生き物は気分がころころ変わる。さっきまであんなに悲しそうにしていたのに、今はすっかり仏頂面だ。


「なにを書いている?」

「忘れないうちにモシュの言葉を覚えておこうかなって」

「ふん。ヘタクソな字だな」

「大きなお世話」


 空腹で目眩がしたが、ミリクは精いっぱい強がってみせた。


「こんなものを書いたところで持ち帰れないぞ」


 モシュの髭がひくひく動いている。これはちょっと嬉しいことがあったときの仕草。


「モシュ、ちょっとウイロードの密閉を解いてくれないかな」


「なぜだ?」


「賞味期限近くになったら、ういろうは石板みたいに硬くなるでしょう。まだ柔らかいうちに文字を刻んで、それを硬くしたら記憶板みたいになるんじゃないかなって」


「石碑ならぬ、外郎碑か」


 モシュが小馬鹿にしたように笑った。


「なんだよ。笑うなよ」

「まあ、出来ないこともないな」


 モシュはオジュマコジュマの離散・集合を指示し、〈開封〉状態と〈密閉〉状態を意図的に作りだすことが出来る。即ち、ういろうの硬度を自在に操ることが出来ることと同意だ。


「試しにやってみてよ、モシュ」

「気は進まんがな。〈開封カイ〉」


 モシュは勿体ぶりながらも、外郎道を幾重にも塞いだオジュマコジュマの壁に小さく穴を開けた。


 呪文の唱え方、いちいち格好つけすぎじゃないかな、とミリクは思った。モシュのやりたいようにやればいいから、どうでもいいけど。


〈母の木〉を貫通した小穴からひんやりした夜風が流れ込んできた。


 モシュの言葉を刻んだ外郎碑は夜風に晒された途端、あっさり水気を失って、ぴしりと硬くなった。小穴の周囲もひび割れ、見る見るうちに硬化の波が忍び寄ってくる。


「モシュ、早く密閉して。早く!」


「そう慌てるな。〈密閉ミツ〉」


 モシュが命じると、オジュマコジュマの群れが我先にと競い合い、小穴を完璧に塞いだ。


「上出来だよ、モシュ」


 ミリクが考えた通り、しっかりと文字の刻まれた外郎碑はカチンコチンに固まっており、ちょっとやそっとでは壊れそうにない。


「ふん。モシュを誰だと思っている。〈真の大樹魔シン・オジュマ〉だぞ」


「はいはい。モシュオジュマ万歳」


「馬鹿にしてるな。ミリクの分際で」


「モシュオジュマ万歳って言ってるじゃん」


「ふん」


 機嫌を損ねたモシュが外郎碑を投げつけてきた。


「なんだよ、怒るなよ。こっちはお腹が減り過ぎて死にそうなんだぞ」


 角張った外郎碑はちょっとした凶器だ。お腹と背中がくっ付きそうな耐えがたい空腹のせいで避ける気力もなく、外郎碑はまともにミリクの顔面に命中した。


「痛っ、てえーーー」

「ふん。思い知ったか」


 ミリクに反撃する余力は残されていなかったが、やられたままなのは気が済まない。手軽な反撃方法に思いを巡らせたミリクは、柔らかいままのういろうに新たな文字を刻んだ。


 モシュ録⑥:【モシュは悲しい】


「ほら、モシュ。〈開封カイ〉だよ、〈開封カイ〉」


 ミリクが〈開封〉をおねだりしたが、モシュは聞こえないふりをしている。


「モシュ、早く外郎碑を作ってよ」

「モシュはこんなこと言っていない」


 モシュの髭がだらんと下方に垂れた。これはちょっと困ったことがあったときの仕草。


「言ったよ。ぜったい言った」

「……忘れた」


 モシュは不本意そうにそっぽを向いた。ミリクは俄然にやけた。


「あれえ、モシュは忘却と無縁の猫だったんじゃないの」


「言葉の綾だ。それぐらい分かれ」


「はいはい。そのお言葉も頂きます」


 モシュ録⑦:【言葉の綾だ。それぐらい分かれ】


 ミリクがモシュ録に新たな記憶を刻みつけると、モシュが不機嫌を露わにした。


「不愉快だ。そんな言葉をいちいち刻むな」


「どうでもいいことほど覚えておけと仰ったのはどなたでしたっけ」


 ミリクはこれ見よがしにモシュ録の③から⑤を指差した。


 モシュ録③:【どうでもいいことほど忘れないでいろ】

 モシュ録④:【どうしようもないことほど覚えておけ】

 モシュ録⑤:【重要な記憶かどうかは問題ではない】


「ふん。いい気になるなよ、〈開封カイ〉」


 モシュは外郎道に風穴を開け、渋々ながらも新たな外郎碑を作った。ミリクが礼を言おうとするが、モシュは一向に風穴を閉じようとしない。容赦なく硬化の波が忍び寄り、砂礫と化した外郎道の末端部がボロボロと崩れ落ちていく。


「ちょっと。モシュ、早く閉めて!」

「モシュに逆らった罰だ。このまま砂と化せ」

「分かった。ごめんって。ほら、謝ったでしょう」

「心からの謝罪ではない。モシュは怒っている」

「分かった。ごめんなさい。もう逆らいません」


 ミリクは平謝りすると、モシュ録に新しい文字を刻んだ。


 モシュ録⑧:【モシュは怒っている】


「ふん。〈密閉ミツ〉」


 モシュはミリクの頬を軽く蹴っ飛ばしてから、外郎道に穿たれた穴を塞いだ。


「モシュって、ほんとうに面倒くさい性格だよね」

「〈妖術師ソーサラー〉というのは面倒くさい性格だと相場が決まっている」

「モシュは〈妖術師〉なの?」

「ある意味ではな」


 モシュは八枚の外郎碑をあっさり投げ捨てた。その上にオジュマコジュマで蓋をした。


 大量のオジュマコジュマが一斉に覆い被さったものだから、外郎碑は影も形もなく埋もれてしまった。都合の悪い記憶を破棄するような真似だ。ミリクが憤りの声をあげる。


「あー、捨てた。記憶の欠片を安易に手放すなって言ったのは誰だよ」

「手放してはいない。埋めたのだ」

「モシュ、屁理屈」

「後々、掘り返す楽しみがあっていいだろう」


 モシュはまったく悪びれもせず、それどころか〈密閉ミツ〉とまで唱えた。念には念を入れて、外郎道の奥底に沈め固めた。これではミリクには手出ししようもない。


 そこまでする必要があるのかと思うぐらい、あまりにも厳重な守りだ。きっとモシュの照れ隠しだろう。


「せっかくモシュの言葉を覚えておこうとしたのに」


 モシュの髭を盗み見ると、ひくひく動いている。モシュ自身は気が付いてないようだが、これはちょっと嬉しいことがあったときの仕草に違いない。


 不機嫌面して外郎碑を埋めてしまったが、ミリクがういろうに記憶を刻んだことは嬉しい出来事であったようだ。


「モシュ、嬉しいときは嬉しそうにしなよ」


 ミリクは外郎道の壁からういろうを摘まみ、新たに記憶を刻み込んだ。ついでにひくひく動くモシュの髭の絵も描き込む。


 あいにくミリクには絵心がないから、見た目にはただの線の集合でしかないけれど、描いたミリク本人には分かっているからそれでいい。


 モシュ録⑨:【モシュは嬉しい】


「モシュはこんなこと言っていない。嘘を書くな」


 モシュは表情こそ不満たらたらだったが、髭のひくひくがよけいに目立っている。それを見たミリクがくすりと笑った。


 可愛げのない可愛げに思わず微笑ましい気分になった。


「モシュも覚えておくといいよ。時には言葉よりも雄弁なものがあるって」


「なんのことだ?」


 モシュがきょとんとしている。


「あ、今のなんだか名言チックだったね。これも覚えておこう」


 ミリクは手慣れた手つきで新たな外郎碑を制作した。


 モシュ録⑩:【時には言葉よりも雄弁なものがある】


「モシュはこんなこと言っていない。モシュを侮辱するな」


 態度こそ怒り心頭のモシュだったけれど、髭のひくひくがいっそう激しくなっていた。


「重要な記憶かどうかが問題でないなら、発言者がモシュかどうかも問題じゃなくない?」


「ふん。屁理屈だ」


 モシュはぐぬぬ、と口惜しそうにしている。


「モシュに屁理屈で勝てたなら、僕にも〈妖術師〉の才能があるのかな」


「モシュがいつ負けた? モシュを甘く見るなよ」


 日頃より連戦連勝だったミリクとの屁理屈勝負で一本取られたのが心底口惜しいのか、尻尾を振り乱して、ばしばし地面を叩いている。


 あまりの剣幕に周りのオジュマコジュマが恐れおののき、蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。


「モシュって死ぬほど負けず嫌いだよね」

「モシュは負けてなどいない。断固として負けてなどいない」


 無数のオジュマコジュマを従えて、偉そうにふんぞり返っていた〈真の大樹魔〉の威厳はどこへやら、モシュは子供じみた怒りを爆発させ、きいきい唸っている。


 これ以上モシュを刺激したら、せっかく築いた〈真の大樹魔〉の地位までも失ってしまうだろう。


「あんまり怒ると、オジュマコジュマに見放されるよ」

「ふん。それがどうした」


 怒りに駆られたモシュには事の重大さが理解できていないらしい。幼い子供に言って聞かせるように、ミリクが包み込むような口調で言った。


「オジュマコジュマの協力がなければウイロードは賞味期限切れになって崩壊しちゃうんでしょう。モシュはウイロードの先に何があるのか見てみたくないの?」


 屁理屈勝負はいったん脇に置き、モシュの好奇心に訴えかけることにした。


 濃緑色の光が点々と続く迷宮の果てに何があるのか、興味があるのはミリクだけではないだろう。


「……見たい」


 モシュが静かに答えた。だらんと尻尾を垂らし、ようやく落ち着きを取り戻した。


「じゃあ、オジュマコジュマに謝ろう」

「なにを謝ることがある?」

「気が付いているでしょう。今、モシュの周りには誰もいない」

「貴様がいるではないか、ミリク」


 モシュは上辺だけは強がってみせるが、オジュマコジュマの群れはすっかり鳴りを潜めている。


 荒ぶる〈真の大樹魔〉から距離をとっているのは明白だ。最初に手懐けた二匹さえ、姿が見えない。


 肝心要のオジュマコジュマに避けられては、どんなにモシュが気張って命令を下そうとも笛吹けど踊らずだろう。


「どんなにモシュが偉大でも、怒ってばかりのリーダーには付いていきたくないよ」

「絶対に謝らんぞ。〈真の大樹魔〉の優位性が揺らぐではないか」


 強情なモシュは簡単に頭を下げようとしない。オジュマコジュマよりも優位に立たねば〈真の大樹魔〉としての権威が揺らぐため、謝るなどもっての外だということは理解できる。


 しかし、オジュマコジュマに恐れられ、避けられてしまっている以上、怒りをぶちまけてしまったことをごくごく素直に謝罪すべきではないのだろうか。


「素直に謝ろうよ。怒って悪かったって言うだけじゃん」


「馬鹿を言うな。これはマウント勝負だ。オジュマコジュマ相手に下手したてに出てどうする」


 モシュは何がなんでも謝るつもりは毛頭ないようだ。ここまで強情だと、いっそ清々しい。


「じゃあ、どうするの?」

「頭を使え、ミリク。謝って済むなら妖術師はいらない」


 妙案でもあるのか、モシュがにたりと笑った。


「聞け、オジュマコジュマども。モシュはちっとも怒っていない。モシュ録⑧:【モシュは怒っていない】と記した外郎碑を密閉したのが何よりの証拠だ」


 モシュが高らかに宣言した。


「そんな屁理屈、通じるわけ……」


 ミリクが呆れ果てていると、どこからともなくオジュマコジュマの群れが姿を現した。


「モシュオジュマ!」

「モシュオジュマ!!」

「モシュオジュマ!!!」

「モシュオジュマ!!!!」

「モシュオジュマ!!!!!」


 オジュマコジュマは競い合うようにしてモシュを担ぎ上げた。一気にてっぺんまで上り詰めたモシュは得意満面の笑みを浮かべて勝ち誇っている。


「さて、ミリク。モシュはいつ屁理屈勝負に負けたのだったかな」

「はいはい。モシュオジュマ万歳」

「心の底からの称賛には聞こえんが、まあよかろう。モシュは海よりも心が広いからな」


 ミリクは内心うんざりしながら、新たな外郎碑を制作した。


 モシュ録⑪:【モシュは海よりも心が広い】


「海よりも心が広いモシュオジュマ。ミリクめは腹が減って死にそうです。ういろう以外の食べ物を恵んでください」


「はて、ういろう以外の食べ物などあるかな。だが後生の頼みなら聞いてやらんでもない」


 モシュはミリクに向かって、ちょいちょいと手招きした。オジュマコジュマ一座の上席までのし上がって来い、ということらしい。


 ミリクは心底げんなりした。


 お腹が減り過ぎて、もはや一歩たりとも歩きたくないのに、あまつさえ飛び上がれ、だと。


「全力で飛ぶなよ。モシュを飛び越えることのない高さギリギリで飛び、オジュマコジュマの上に乗れ。そうすれば食糧の在り処まで運んでやろう」


「はいはい、モシュは注文が多いんだよ」


 ミリクはぶつくさ言いながら両足を踏ん張った。


 モシュ録⑪はオジュマコジュマ一座の先頭に放り捨てた。


 密封されていない外郎碑はぶよぶよした柔らかさを保っているが、進軍するオジュマコジュマたちに踏みつけられれば自然に外郎道にめり込むだろう。


「モシュの頭を踏みつけて飛び乗ったら、もしかして僕が〈真の大樹魔〉かな」


「馬鹿を言うな。絶対にモシュを飛び越えるよ。モシュを飛び越えることのないギリギリに抑えて飛べ。いいか、飛び過ぎるなよ」


 モシュはやけにハラハラしながら、ミリクの跳躍を固唾を飲んで見守っている。


 万が一、ミリクが飛び上がり過ぎてしまった場合に備えて背中の羽根を目いっぱい広げてもいる。


 なにがなんでもミリクに頭上を越されないよう万全を期しているつもりらしいが、それが却ってモシュの器の小ささを浮き彫りにしている。


「モシュは器が小さいな」

「あ? なにか言ったか、ミリク」

「いいや、ただの独り言」


 モシュ録⑫に【モシュは器が小さい】と書き込もうかと思ったけれど、その感想はミリクの内心に留めておくことにした。


〈母の木〉に迷い込んでくるミリクたちとは別の冒険者がいたとして、何かのはずみでモシュ録が掘り起こされたとしよう。


 海よりも心が広いくせに、器が小さいモシュなる存在とはいったい何なのだ、と混乱を呼ぶことは必定だ。


「はは、それはそれで楽しいかも」


「あん? なにをぶつぶつ言っている、ミリク」


「ただの独り言です、モシュオジュマ」


「ふん。さっさと飛んで来い。いいか、絶対にモシュを飛び越えるなよ。モシュを飛び越えることのないギリギリを狙って飛べ。もしモシュを飛び越えるつもりなら、容赦なく撃ち落とすからな。覚悟しておけ」


「しつこいよ、モシュ。それじゃ飛びまーす」


 ミリクが弾かれたように跳躍した。どだいミリクが高く飛び上がろうと、天井の高さまでが限界だ。


 そんなにミリクに頭を越されたくないのなら、モシュだって天井に頭がつく高さまで浮き上がっていればいい。


 でもモシュはそんなことはしない。面倒くさがりだから。


 バネ足が軋む。


 天井近くに法螺貝の死霊――ホーラ・ガイストが漂っているのがミリクの目に飛び込んできた。


 モシュの頭上に位置しているが、オジュマコジュマ一座には接していないので、馬乗りの頂点とは見なされないらしい。


 法螺貝に気を取られていて、モシュを飛び越えないギリギリに調整するつもりが、ミリクは少しばかり高く飛び過ぎてしまった。


 モシュが血相を変え、慌てて羽根をバタつかせた。


「馬鹿者。あれほどモシュを飛び越えるなと言ったではないか!」


「ごめん、わざとじゃない」


「問答無用! 偉大なるモシュオジュマを軽々しく超えられると思うな!」


 天井ギリギリの最大高度まで飛翔したモシュは、ミリクの頭上目がけて急降下した。


「ぐえっ……」


 容赦なく頭を踏みつけにされたミリクは、カエルが潰れたような断末魔の叫びをあげた。


 これにて〈登頂自慢マウント〉勝負の頂点が決した。


 最下層にオジュマコジュマ、その上にミリク、揺るぎない最上位には大人げないモシュが君臨した。


 序列で言えば、上から順にモシュミリクオジュマコジュマ。


「ぐげげげげげ。勝者ぁ、モーーーシューーーーオーーーージューーーマァーーー!!!」


 天井近くに浮遊して馬乗り勝負の成り行きを見守っていた法螺貝がカンカンカンと決着の銅鑼ゴングを鳴らした。


 法螺貝なら法螺貝らしく、銅鑼を叩くんじゃなくて法螺貝を吹けよ、とミリクは苦々しく思った。


「モシュオジュマ!」

「モシュオジュマ!!」

「モシュオジュマ!!!」


 オジュマコジュマ一座はやんやの大喝采で〈真の大樹魔〉たるモシュをたたえている。


 モシュはミリクの頭上に乗っかったまま偉そうにふんぞり返っている。


 序列争いの茶番に付き合わされたミリクはもうまともに立ち上がれないぐらいの疲労を覚えた。


 オジュマコジュマ一座は疲弊し切ったミリクを乗せ、モシュ録⑪を踏みつけにして進軍した。


 耐えがたい空腹がミリクを蝕む。【モシュは海よりも心が広い】と記された外郎碑が滅茶苦茶に踏みつけられるのを横目で眺め、ミリクはほんの少しだけ溜飲を下げた。


「これで食べ物がなかったら一生恨むからな、モシュ」


 ミリクは恨みがましい声で言った。


 あまりにも腹が減り過ぎて睡魔に抗し切れない。


 オジュマコジュマ一座は曲がりくねった外郎道を物ともせず、打ち寄せる大波のようにうねり、一塊となって流れていく。足並みの揃った律動的な足音は子守歌に聞こえる。


 棺桶に入れられた死者のごとく、無抵抗のミリクは流されるままに運ばれていった。


 目が覚めたら、ご馳走があるといいな。


 ほんのささやかな願いを呟いて、ミリクは眠りの世界に落ちていった。

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