第119話「運命の日」

 卒業式から一週間くらい経った。

 今日は国公立大学の合格発表の日だ。僕は大学へ行くことにしていた。昨日絵菜とRINEで話していると、『私もついて行っていいか……?』と言っていたので、一緒に行くことにした。リビングでのんびりしながら絵菜を待っている。


「お兄ちゃん、緊張してる?」


 みるくの頭をなでていると、日向が訊いてきた。


「ああ、ちょっと緊張してるかな……まぁ仕方ないよね」

「そうだよね、でも大丈夫だよ、お兄ちゃんは絶対合格してる!」

「ありがとう、日向は部活はないのか?」

「あるよー、私ももうすぐ学校行くよ」

「そっか、長谷川くんと一緒に頑張ってな」


 日向と話しているとインターホンが鳴った。出ると絵菜が来ていた。


「お、おはよ」

「絵菜さん、おはようございます!」

「おはよう、それじゃあ行こうか」


 日向に「行ってらっしゃーい」と見送られ、僕と絵菜は駅前へ向かう。いつも通り絵菜は僕の手を握っていた。


「団吉、緊張してる?」

「ああ、日向にも同じ質問されたよ。さすがにちょっと緊張してるかな……」

「そっか、団吉は誰よりも頑張ってきたんだ、絶対大丈夫だから」

「ありがとう、あとは合格してると信じることにするよ」


 駅前から電車に乗り、しばらく揺られて大学の最寄り駅に着き、大学まで歩いて行く。高校生らしき人たちが同じように歩いている。たぶん受験生だろう。みんなどこか緊張した表情をしていた。

 大学に着き、入口近くの広場に行く。けっこう高校生がいるみたいだ。時計を見るとあと十五分くらいで合格発表がある時間になるみたいだ。


「や、やっぱり大学は広くて大きいな」

「うん、僕も同じこと思ったよ。春からここで学べるといいなぁ」

「――あれ? 団吉くんと絵菜さん?」


 ふと声をかけられたので見ると、なんと慶太先輩がいた。隣には川倉先輩もいる。


「あ、あれ!? 慶太先輩と川倉先輩、お、お久しぶりです」

「久しぶりだね! そうか、団吉くんはやっぱりうちの大学を受けていたのだね!」

「おはようー、お久しぶり! そっか、団吉くんもうちの大学受けたのかぁー、今ドキドキでしょ?」

「あ、は、はい、心の中ではずっとドキドキしていて……」

「あはは、うんうん、その気持ち分かるよー、私もすっごいドキドキしてさー、自分の番号見つけた時は嬉しかったなぁ」

「亜香里先輩、団吉くんが合格してても投げ飛ばす真似だけはやめてね」

「うっさい! あんたはほんとに可愛くないよね、そんなことするわけないじゃない」


 や、やっぱり慶太先輩にここまでツッコミを入れられる人が新鮮で、僕は違う意味でドキドキしていた。


「亜香里先輩ならやりかねないんだよなぁ。あ、団吉くんはうちの大学を受けたけど、絵菜さんはどうだったんだい?」

「あ、わ、私は専門学校を受けて、合格しました……」

「そうかそうか! それはおめでとう! まぁ絵菜さんのような素晴らしい女性を落とす学校があったら、ボクが黙っていな――」

「慶太、あんたほんとに気持ち悪いよ、私がぶん殴らないと分からないようだね」

「ええ!? いやはや、亜香里先輩はほんとに厳しいね」


 二人の漫才かと思うようなやりとり……はいいとして、絵菜は僕の手をきゅっと握って恥ずかしそうに俯いた。


「あはは、相変わらず二人は仲が良さそうだねー、よきかなよきかな。あ、そろそろ発表かな」


 川倉先輩が見ていた方向を見ると、大学の方が大きな掲示板を持って来ている。あれに合格者の番号が書かれてあるのだろう。広場に立てかけられた。僕はその番号と受験票の番号を照らし合わせる。頼む、あってくれと思いながら――


「……あ、あった、ありました! 僕の番号が!」


 つい声が大きくなった。何度も見たが、間違いない。僕の番号がしっかりと書いてあった。よかった、合格したようだ。


「だ、団吉、おめでとう! よかった……ほんとによかった」

「ありがとう、絵菜が応援してくれたおかげだよ」

「おお、団吉くんおめでとう! ようこそ我が大学へ! またボクが色々教えてあげようではな――」

「慶太は黙ってな! 団吉くん、おめでとう! よかったね、これでかなりホッとしたんじゃない?」

「は、はい、川倉先輩や慶太先輩のように、僕もこの大学に行きたいと思っていたので、ホッとしました……」


 川倉先輩と慶太先輩と握手を交わす。そして絵菜が僕の左腕にきゅっと抱きついてきた。み、みんな見てる……けど、まぁいいか。


「うんうん、二人が仲良さそうなのを見ると、私も彼氏がほしいなーなんて思っちゃうな」

「ふふふ、亜香里先輩、ここにカッコいい人がいるじゃないか!」

「カッコいい人……? はて、団吉くんは可愛いけど、他にそんな人は見当たらないのだが……」

「ええ!? 亜香里先輩の目は大丈夫なのだろうかと心配になってしまうよ」


 慶太先輩は川倉先輩にバシッと叩かれていた。ま、まぁいいか。

 二人に挨拶をして、僕と絵菜は帰ることにした。


「そうだ、みんなはどうだったかな、そっちが気になってきたよ」

「そうだな、RINEで訊いてみてもいいんじゃないか?」


 絵菜の提案通り、僕はRINEでみんなの結果を訊くことにした。大学組は火野、九十九さん、大島さんは第一志望の大学に合格したそうだが、高梨さん、木下くんは第一志望は落ちてしまったとのこと、でも第二志望の大学に合格しているので、そちらに行くと言っていた。

 専門学校組は、中川くんと富岡さんが合格したそうだ。これでとりあえず浪人生はいないのかな、みんなよかったねと絵菜と一緒にRINEを見ながら話していた。

 僕も合格したと伝えると、みんな『おめでとう!』と言ってくれた。


「団吉、ほんとによかったな」

「うん、ホッとして力が抜けたような感じだよ。よかった……」


 絵菜がまたそっと手を握ってきた。絵菜やみんなのおかげでここまで来れたのだ。僕は嬉しい気持ちでいっぱいだった。

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