第118話「卒業式」

 桜が咲くにはまだ早い三月一日、ついにこの日を迎えた。

 今日は青桜高校の卒業式が行われる。主役はもちろん僕たち三年生だ。二年生も在校生として出席する。

 体育館に二年生と、三年生の保護者が集まっているようだ。僕たちは出席番号順に教室の前に並んで、体育館へと行く。体育館に入ると吹奏楽部の演奏と、二年生と保護者からの拍手があった。僕たちはその中を歩いて席に行く。

 全員入って座って、これから卒業証書授与が行われる。各クラスの代表が壇上に上がって受け取る。五組は話し合いの結果、出席番号一番の相原くんが受け取ることになっていた。相原くんは「……ええ!? あ、は、はい……」と、ちょっと恥ずかしそうにしていたが、今日は緊張しながらもしっかりと受け取っていた。

 卒業証書授与が終わって、校長先生による式辞があった。「この青桜高校で学んだことを忘れずに、しっかりと羽ばたいてください」と言っていた。

 その後、在校生代表の送辞を生徒会長の天野くんが行った。天野くんもしっかりと話すことができている。これからもみんなを引っ張っていってほしいなと思った。

 そして、卒業生代表の答辞を九十九さんが行った。九十九さんもみんなの前で話すのは久しぶりだが、しっかりと話すことができていた。さすがだなと思った。

 最後にみんなで校歌を歌う。校歌を歌うのもこれが最後だ。去年も思ったが、いつもより歌声が大きく感じた。

 そして三年生が大きな拍手で見送られ、退場する。僕も胸を張って歩いた。教室に戻り、これから最後のホームルームがある。みんなわいわいと話していた。


 ツンツン。


 背中を突かれたので振り向くと、笑顔の絵菜がいた。


「団吉、ついに最後になったな……」

「うん、これで終わりだね、前にも言ったけど、あっという間だったなぁ」

「うん、早かった……これまでのこと思い出してた」


 絵菜が寂しそうにぽつりとつぶやいた。その言葉を聞いて、僕も今までのことを思い出した。入学してからしばらく昼休みはダッシュで教室から出て行っていたな。まぁそのおかげで絵菜と話すことが出来たのだが。絵菜は最初は怖い人なのかと思っていたが、そんなことはなかった。怖がりで、寂しがりやで、とても可愛くて、僕のそばにいれるのが嬉しそうだ。そんな絵菜に何度も支えてもらった。


「そうだね、僕も思い出したよ。絵菜と初めて話して、勉強を教えたり、デートしたり、本当に楽しかったよ。ありがとう」

「うん、私も楽しかった、ありがと」

「……二人は最後まで本当に仲が良いよね」

「そうね、ほんとムカつくくらい仲が良いわね……自分たちの世界に入るのはそこまでよ、もうすぐ先生が来るわ」


 隣の席で相原くんと大島さんがそう言ったので、僕は顔が熱くなった。


「よーし、みんな座ってくれー、これから最後のホームルームを始めるぞー」


 大西先生が来てみんな座る。久しぶりに五組の全員が集まったなと思った。


「……まぁ、まずはみんな卒業おめでとう。三年間を色々思い出すかもしれないが、その思い出はずっと心の中にしまっておいてくれ。これから先、みんなも壁にぶち当たったり、躓いてしまうことがあるかもしれない。その時は一緒に頑張ったみんなのことを思い出してくれ。みんなで過ごした日々は絶対に無駄にはならない。これからも元気でな……って、あー堅苦しい話はやめにしよう。じゃあ卒業証書を一人ずつ渡していくぞー」


 大西先生から一人ずつ卒業証書を受け取る。中には泣いている女の子もいるな。それを見るとジーンときてしまう。


「日車団吉」

「はい」


 僕が呼ばれて大西先生の元へ行く。


「日車も成長したな。これからも数学を極めて、いい先生になってくれ」

「はい、本当にありがとうございました」


 みんな受け取ったところで、大西先生が最後の挨拶をする。


「これで全員だな、本当におめでとう。みんなのこれからの人生、応援しているからな」

「大西先生!」


 その時、九十九さんが声を上げて大西先生の元へ行く。手にはみんなで書いた寄せ書きを持っている。


「これ、私たちみんなの感謝の言葉が書いてあります。ぜひ受け取ってもらえると嬉しいです」

「お前ら……ったく、泣かせるようなことするなよ……ありがとう。しっかり読ませてもらうよ。それじゃあ三年五組はこれで終わりだ! 解散!」


 大西先生の言葉に、みんなが「ありがとうございました!」と言った。先生もハンカチで涙を拭きながら教室を後にした。


「ついに、終わったのか……」


 僕はまたふと独り言を言ってしまった。高校三年間でたくさんのことを学んだ。その一つ一つが、とても大事なものなのだ。この先何があっても大丈夫だと思えた。


「終わったわね……ちょっと涙が出ちゃったわ」

「……終わったね。この場所に自分がいることがちょっと信じられない」


 隣の席から大島さんと相原くんが話しかけてきた。


「うん、終わったね。みんなでよく頑張ったよね」

「みんなお疲れー、マジで終わっちまったんだなー」

「お、お疲れさま、って言うのも最後なんだね、や、やっぱり寂しいね」

「みんなお疲れさま、寂しくなるね……」

「みなさんお疲れさまです……! みなさんのおかげでここまで来れました……!」


 見ると、杉崎さん、木下くん、九十九さん、富岡さんが集まっていた。


「みんなお疲れさま、そしてありがとう。感謝でいっぱいだよ」

「うん、私も日車くんに感謝してる……優しくてカッコいい日車くん……」


 そう言って九十九さんが僕の手をきゅっと握ってきた。


「つ、九十九さん!? さ、最後まで自然に……!」

「え!? あ、まぁ、そういうこともあるよね……あはは……はっ!?」


 その時後ろが気になって振り向くと、絵菜はこちらを見ておらず下を向いていた。


「え、絵菜……? どうかした?」

「……ごめん、寂しくなってしまった……みんなとバラバラになってしまうから……そんなこと考えないようにしてたんだけど、ダメだった……」


 鼻をすする音も聞こえる。涙が出ているのだろう。僕たちは絵菜の姿を見て同じような気持ちになっていた。


「ね、姐さん……」

「……沢井さんの気持ちも分かるけど、最後は私たちらしく、笑顔でいかないかしら。ほら、沢井さん、みんなも右手を出して」

「……うん」


 僕たちは右手を出してグータッチをしていた。これまでもテストやイベントでやってきたグータッチも、これが最後か。

 五組のみんなでこれまでの話をしていた。絵菜も笑顔になってきてよかった。

 これで高校生活が終わる。しかしこれは人生の通過点だ。これからも変わらず頑張っていきたい。その思いは強かった。

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