第114話「後輩から」

「お、おい、俺たちなんで一年生の教室の前に来てるんだ……?」

「さ、さぁ……俺も火野と日車くんに言われて来たから、何のことだか……」

「はひ、え、ぼ、僕たちなんでここにいるんだろう……」

「……さ、さぁ、分からないことばかりだけど、日車くん何か知ってる?」

「あ、いや、僕も日向にみんな連れて来てと言われただけなので……」


 一年三組の前の廊下で、火野と中川くんと木下くんと相原くんと僕は、同じように頭にハテナを浮かべていた……とは言え、僕はなんとなくピンと来ていた。今日は二月十四日、バレンタインデーだ。昨日日向に「明日の放課後、三年生の男性陣を全員連れて来て!」と、テンション高めに言われた。従っておいた方がよさそうだったので、みんなに声をかけて集まった。となると行われることはただ一つだった。


「ふっふっふー、みなさまお越しいただきありがとうございます! お兄ちゃん! 今日は何の日か知ってる?」

「ば、バレンタインデーです……」

「その通り! ということで、私と真菜ちゃんと梨夏ちゃんからチョコをお配りしまーす!」


 三人が「じゃーん!」と言いながらチョコを取り出した。あれ? そういえば去年も一昨年も高梨さんが同じようなこと言ってたな。


「お、おお、みんなサンキュー」

「あ、ああ、ありがとう!」

「はひ!? ぼ、僕も!? あ、ありがとう……」

「……え、い、いいのかな……あ、ありがと」

「あ、ありがとう……」


 な、なんと、今年もチョコをもらってしまった。これで三年連続で日向以外の女の子からももらったことになるのか。それまでの自分に伝えたら飛び上がって驚くだろうな。


「ふっふっふー、実は今年は手作りしました! 味は保証します!」

「ふふふ、私も日向ちゃんと梨夏ちゃんと手作りしました。みなさんに美味しくいただいてもらえると嬉しいです!」

「えへへー、私だって頑張ればできるんだよー……って、なんか可愛い子がいるねぇ、ねぇねぇ、下の名前何ていうの?」

「……ん? あ、俺か、駿だけど……?」

「ふむふむ、駿さんか……そしたら駿さんは『しゅーぺー』で!」

「……しゅ、しゅーぺー……?」

「あ、ご、ごめん相原くん、梨夏ちゃんはあだ名で呼ぶのが好きみたいで……」

「……あ、そ、そうなんだね、そういやあだ名で呼ばれたことないな……」


 相原くんが恥ずかしそうにしていた。そういえば日向たちはたしか真菜ちゃんの家に集まって三人で作ったと話していたな。ラッピングも可愛いし頑張ったんだな。


「こ、今年ももらっちまうなんて、なんか悪いなぁ」

「あはは、まぁ三年生はみんな受験で忙しいから、今年はこうして後輩からもらうことになっちゃったね。ありがたくいただいておこうよ」

「だんちゃん、これ、えーことさとっことれいれいにも渡しておいてくれないかな? 私たちから友チョコって!」

「あ、なるほど、うん、渡しておくよ。ありがとうね」


 男性陣がまた「ありがとう」と三人に言っていた。三人はドヤ顔を見せた。

 そんなことがありながら一旦教室に戻ろうとしていると、


「――あ、団吉さん!」

「――あ、日車先輩!」


 と、僕を呼ぶ声がした。振り向くと東城さんと橋爪さんがこちらに来ていた。


「あ、こんにちは、二人が一緒ってめずらしいね」

「はい! 団吉さんを探して教室に行ったら、同じように探している橋爪さんがいたので、話しながら来ました!」

「そうですよー日車先輩探しましたよ~、すぐどこか行っちゃいますねー」

「ご、ごめん、ちょっと一年生の教室に行ってて……って、僕を探していたの?」

「はい! 団吉さん、今日は何の日かご存知ですか?」

「え、あ、バレンタインデーですね……」

「その通りです! ということで、私からのプレゼントです!」

「あ、私からもプレゼントがあります! どうぞ受け取ってください!」


 そう言って二人が可愛らしい包みを差し出してきた。


「え!? あ、ありがとう……い、いいのかな」

「もちろんです! 団吉さんに食べてもらいたくて!」

「そうですよー、日車先輩には本当にお世話になっていますので! 日車先輩とチョコのシンクロ率は三百九十八パーセントなので!」

「そ、そっか、ありがとう。なんか恥ずかしいな……」


 僕がお礼を言うと、二人がドヤ顔を見せた。そ、そっか、また後輩にもらってしまった。ついに僕にもモテ期が来たのか……いや、それは考えすぎか。

 二人と別れて教室に戻ると、


「――あ、団吉戻ってきた」

「――あら、日車くん両手にいっぱいね、チョコかしら。モテるわね」

「――あ、日車くんすごいね、モテモテだね」


 と、話しかけられた。見ると絵菜と大島さんと九十九さんがいた。


「あ、三人ともちょうどいいところに。これ、日向と真菜ちゃんと梨夏ちゃんから、三人に友チョコらしいよ。預かってきたんだ」

「え、あ、ありがと……」

「え、そ、そうなのね……あ、ありがとう」

「あ、ありがとう……そんな、気を遣わせてしまった、お礼言っておかないと……」

「なんか絵菜の家で大量に作ってたみたいだね、ありがたくいただいておこうよ」

「そうなのね、まぁ私は今年は受験生だからやめておいたけど、まさかもらう側になるとは思わなかったわ」

「ほ、ほんとだね、あれ? でも友チョコってお互い渡し合うんじゃないんだっけ……?」

「あ、どうなんだろうね、ホワイトデーというのもおかしいのかな? ごめん、そこはよく分からないかも……」


 たしかに、友チョコというと女の子同士が渡し合うイメージがあるけど、どうなのだろうか。


「わ、私たちホワイトデーの時には卒業しているから、先にお礼しておくべきなんじゃないか……?」

「そ、そうね、沢井さんの言う通りだわ。卒業しちゃうと会うことが難しくなりそうね」

「う、うん、私も何か考えておく……」

「そっか、たしかにそうだね、僕ももらってしまったからには早めにお返し用意しておかないとな……」

「……でも、団吉がまたモテてる……悔しい」

「え!? い、いや、モテてはいないんじゃないかな……あはは。じゃ、じゃあみんなで帰ろっか」


 慌てて話をそらす僕だった。う、うーん、やっぱりモテているのかな……い、いや、そんなことはないと思う。

 そんな感じで、またたくさんチョコをもらってしまった僕だった。お返しはどうしようかとひっそりと悩んでいたのは、ここだけの話。

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