第112話「イベント再び」
二月になった。相変わらず寒くて、寒いのが苦手な僕はちょっと憂鬱だった。
今日も学校で勉強をしていた。僕の私立大学の試験と、絵菜の専門学校の試験が明後日行われる。たまたま同じ日となっていたが、絵菜と一緒に頑張れる気がして、僕は嬉しかった。
その絵菜は今日もうんうんと考えていた。どうも試験で小論文を書かないといけないらしく、書き方のコツを僕が教えていた。
「……できた、団吉、どうだろう?」
「どれどれ……うん、わりといいんじゃないかな、あ、ここはもうちょっとこんな言葉にするといいかもしれないね」
「な、なるほど……ありがと。それにしても本番が明後日でちょっと緊張する……」
「たしかに緊張するよね、でも絵菜も頑張ってきたから大丈夫だよ。それに、絵菜と一緒の時間に頑張れるから僕は嬉しいよ」
「う、うん、私も団吉が頑張ってるんだって思うと、なんか力が出そう……」
「……二人ともほんとに仲が良いよね」
「そうね、ムカつくくらい仲が良いわね……私と相原くんがいるの忘れているんじゃないかしら」
相原くんと大島さんの言葉を聞いて、僕は顔が熱くなった。そうだ、また四人で勉強していたんだった。
「ご、ごめん、なんか頑張れる気がして嬉しくなって……」
「まぁそうよね、同じ時間にみんな試験を受けていると思うと頑張れそうだわ。私も明後日に私立大学の試験があるわ」
「……実は俺も専門学校の試験が明後日なんだ。ここまで来たんだ、頑張らないと……」
「ああ、そうなんだね、うん、明後日はみんなで頑張ろうね」
「そうね、あと少しだから頑張りましょ」
「……うん。それにしても沢井さんは小論文を書く練習をしているのか、俺もたしかあるんだよな……自信がない……」
「あら、相原くんそれを早く言いなさいよ、私が教えてあげるわ。さぁ今から練習よ、ノートとペンを持って!」
「……大島がやる気を出すとなんかイマイチ信用できない」
「さ、沢井さん? そんなことないわよ、理系だけど私は国語も好きだからね。ほら、相原くん今から練習よ!」
「……大島さんからスパルタ教育ママのにおいがする……」
「あはは、大島さんが教えてくれるなら大丈夫そうだね、相原くんも従っておいた方がよさそうだよ」
大島さんが相原くんにあれこれと教えていた。この二人は二年生の時からの付き合いだし、なんとなく気が合うんだろうなと思った。僕は嬉しくなっていた。
* * *
午後になってもみんなで一緒に勉強をしていた。五組も全員ではないが、ちらほらと学校に来て勉強をしている人がいる。みんな試験を控えていて、最後まで頑張るという気持ちが伝わってきた。
「あ、チャイム鳴ったな」
「あ、そうだね、僕たちもここまでにしておこうか」
「そうね、相原くんもできるようになってきたし、ここまでにしておきましょうか」
「……大島さんが厳しかった……一文字のミスも許されなかった……」
「ま、まあまあ、相原くんもできるようになってよかったんじゃないかな。絵菜、帰ろっか」
「うん」
帰る準備をして、絵菜と二人で教室を出て階段を降りていくと、
「――あ、お兄ちゃん! 絵菜さん!」
と、一階に来た時に声がした。見ると日向と真菜ちゃんと梨夏ちゃんがこちらに来ていた。
「ああ、みんな終わったのか、お疲れさま」
「うん! お兄ちゃんたちも自由登校なのに学校に来て頑張るねー、さすができる男は違うね!」
「い、いや、そんなにできる男というわけではないけど……」
「お兄様、お姉ちゃん、お疲れさまです。今日はお兄様にちょっとお知らせがありまして」
「だんちゃん、えーこ久しぶり! そうそう、まなっぺが言ったように私もお知らせがありましてー……って、あれ? 敬語がわりといい感じ?」
「あはは、梨夏ちゃんだいぶ言えるようになってきたね、その調子だよ……って、お知らせ?」
梨夏ちゃんが「えへへー」と満足そうな顔をしたが、お知らせとは何だろうか?
「そうそう、はいはい! 日車団吉くん! 二月になりましたが、もうすぐ大事なイベントがやって来ます。何の日でしょう?」
日向がマイクを向けるようにして手を差し出してきた。大事なイベント? 僕と絵菜は明後日試験だが、それではないよな……うーん、何のことだろうか。
「う、うーん、試験があるくらいで、他に何かあったっけ……」
「えー!? お兄ちゃん本気で分からないの? 大丈夫かな……バレンタインデーだよ」
バレンタインデー? ああ、そういえばそうだった。去年も一昨年も女の子にチョコをもらっていた。なるほどと思ってスマホのカレンダーを見てみると、今年の二月十四日は水曜日のようだ。
「あ、なるほど……そういえばそんな日もあったな」
「お兄ちゃん、毎年私がチョコあげてるよね!? まぁ去年はなかったんだけど、それも忘れたとは言わせないからね」
日向がグーで僕を殴ろうとしてくる。なんだかこの光景が久しぶりのように思えた。
「やめて! 殴らないで! で、バレンタインデーがどうかしたのか?」
「ふっふっふー、去年は受験生だったからなかったけど、今年はちゃんとお兄ちゃんたちにチョコを用意するからね!」
「そうです、お兄様の受験がうまくいくようにと心を込めて用意します!」
「そーそー、私もだんちゃんのこと応援してるからねー、期待してて!」
「あ、そ、そうなんだね、ありがとう……た、楽しみにしておくよ」
三人がドヤ顔を見せた。ま、まぁ、チョコをいただけるというのは嬉しいものだ。
「あ、団吉ごめん、私はないかも……試験のことで頭がいっぱいで忘れていた……」
「ああ、ううん、絵菜は受験生だからね、今年はなしにしようよ。その分頑張らないとね」
「う、うん、来年はちゃんとあげるから」
「絵菜さん、大丈夫です! 絵菜さんの分も私たちが代わりに頑張りますので!」
「お姉ちゃんは試験頑張らないといけないもんね、私たちに任せておいて!」
「そーだよー、あ、えーこにもあげるっていうのもいいなー、友チョコっていうのあるもんね!」
そう言って三人が盛り上がっている。ま、まぁいいか。
「じゃ、じゃあ、よく分からないけど、楽しみにしておくよ……あはは」
そうか、今年も女の子にチョコをもらえるのか。火野が以前言っていた通り、僕も成長したのかもしれない。
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