第111話「もうすぐ」

 今までと同じく、寒い日が続いている。今日は一月最後の日。もう今年も一か月が経ったのかとびっくりしていた。

 今日は学校で予餞会よせんかいが行われる。卒業が近くなった三年生を送る会だ。今年も二年生と三年生が会に参加する。もちろん主役は僕たち三年生だ。ちょっと恥ずかしいが、これもイベントの一つだ。

 今年も生徒会役員が中心となって会は進んでいく。天野くんの挨拶が最初にあった。天野くんもスラスラと話すことができている。橋爪さんは緊張している顔だが、噛むことなく司会進行をしている。少し慣れてきたのかもしれないなと思った。

 吹奏楽部による演奏と、演劇部による学校生活の劇が行われた後、三年生のこれまでを振り返る映像が流れていた。ああ、そういえば入学した時はこんな感じだったなと思った。山登りや球技大会、修学旅行や文化祭など、それぞれのイベントが映し出されていて、なんだか懐かしい気持ちになった。みんなも同じかもしれない。

 その後、三年生がお世話になった先生方からのメッセージビデオが映し出された。あ、怖い物理の先生が笑顔になっている。大西先生も三年生に向けてメッセージを送っていた。大西先生はずっと担任で、僕たちのこともよく見てくれていた。そろそろあのハイスピード授業をどうにかしてほしいなと思ったが、言わないでおくことにしよう。

 北川先生もメッセージを送っていた。僕が体調不良になった時など、本当にお世話になった。いい男がいるかどうかは訊かないでおいた方がいいなと思った。

 そして校歌を歌う。高校生になるとその機会もあまりなくて、あとは卒業式で歌うくらいかな。そう思うとちょっと寂しかった。

 最後に橋爪さんが話して、予餞会は終了となった。今年もPTAの方々より豚汁とおにぎりが用意されている。みんながわいわいと話しながら豚汁とおにぎりをもらっていた。


「団吉、終わったな、もうすぐ終わりなんだなってちょっと寂しくなった」


 ふーっと一息ついていると、絵菜が話しかけてきた。


「うん、そうだね、僕も同じこと思ってたよ。去年は自分が司会進行してたのになぁと思い出したよ」

「ふふっ、あの団吉もカッコよかった……あ、豚汁美味しい」

「ほんとだね、寒いから温かいものが嬉しいね」

「お、二人ともいたいたー、なーなー、あたしたちももうすぐ卒業なんだなー」

「ふ、二人ともお疲れさま、も、もうすぐ卒業とか早いよね」


 絵菜と話していると、杉崎さんと木下くんがやって来た。


「あ、二人ともお疲れさま、ほんとだね、もう卒業なのかって思うよ」

「ああ、ここに入学して、初めて姐さんを見た時の衝撃は忘れられないなー、こんなにカッコいい人がいるとは!」

「あはは、杉崎さんは絵菜に話しかけられなかったって言ってたね」

「そーなんだよ、金髪でクールでカッコいい姐さんはあたしの憧れだよー。そんな姐さんとももうすぐお別れなのか……ちょっと寂しいみたいな」

「あ、いや、杉崎大丈夫、もう友達だから……いつでも会える」

「ひゃー! 姐さんに友達と言ってもらえてマジ嬉しいです! あああこれは夢なんじゃないか!?」

「い、いや、杉崎、現実だから……くっつきすぎ……」

「か、花音もよかったね、そ、卒業したらバラバラだけど、またみんなで会えるよね」

「あ、団吉さん!」

「あ、日車先輩!」


 ふと呼ばれたので見ると、東城さんと天野くんがこちらに来ていた。


「あ、二人もお疲れさま、天野くん挨拶立派だったね、そういえば橋爪さんはどうしてる?」

「ああ、橋爪さんはあっちで『や、やっと終わった……』と言いながらヘロヘロになっていたので、そっとしておきました」

「あはは、そっか、まぁ橋爪さんも頑張ったからね、立派だったよって伝えておいて」

「ありがとうございます、伝えておきます! 橋爪さん飛び上がって喜ぶんじゃないかな」


 今日は梨夏ちゃんと黒岩くんはいないが、生徒会メンバーもみんなで頑張っているのだろう。僕は嬉しくなった。


「はひ!? ま、まりりん、お久しぶりです……あ、年末のライブではどうも……」

「あ、木下さん! ライブ来てくれてありがとうございました! 会えてとっても嬉しかったです!」

「はひ!? ま、まりりんのファンなので、当たり前というかなんというか……」

「……大悟? なーんでそんなに鼻の下のばしてその子見てるの? まさか浮気?」


 杉崎さんが冷たい視線を木下くんに送る。や、ヤバい、これは怒られそう……!


「ああ!! い、いや、浮気じゃないよ、こ、こちらは東城麻里奈さんといって、メロディスターズというアイドルグループに所属していて、ぼ、僕はそのグループを応援していて……その、あの……」

「あ、は、はじめましてかな、東城さん、天野くん、こちら杉崎さんといって、木下くんの彼女で……」

「あ、はじめまして、天野といいます……って、さっきもみんなの前にいたからご存知かもですが」

「そうなんですね! こんにちは、はじめまして、東城麻里奈といいます。木下さんにはずっと応援してもらってて、本当にお世話になっています!」

「あ、は、はじめまして、杉崎です……な、なんか可愛い上に丁寧で礼儀正しいのか……くそぅ、負けてる気がする……!」


 杉崎さんはそう言って東城さんの周りをうろうろしながらジロジロと東城さんを見ていた。東城さんは「す、杉崎さん……?」と、ちょっと困惑している感じだった。


「す、杉崎さん落ち着いて、木下くんは浮気をしているわけじゃないよ、アイドルとして頑張っている東城さんを応援しているだけで……」

「……ふーん、まいっか、アイドルってすごいなー、可愛いしなんか納得みたいなー」

「ありがとうございます! それにしても、みなさんはもうすぐ卒業ですね、なんか寂しくなってしまいました……」

「僕も同じこと思いました、みなさん卒業しちゃう……うう、寂しくなるなぁ……」

「そうだね、僕たちは卒業しちゃうけど、今度は天野くんや東城さんや橋爪さんが一番上になって頑張らないとね」

「天野、東城、色々ありがと」

「絵菜さん……大丈夫です! 蒼汰くんが立派にこの学校のトップとして頑張ります!」

「ええ!? あ、ま、まぁ、頑張ります……」


 天野くんが恥ずかしそうに俯いたので、みんな笑った。

 予餞会も終わって、残りの高校生活も少ないが、もう少しだけみんなで楽しく過ごしていきたいなと思った。

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