第109話「自己採点」

「なんで……なんで私は日車くんに勝てないの……」


 隣の席で大島さんがガックリとうなだれている。今日は共通テストの自己採点を学校で行っていた。僕は自分でもかなり手ごたえがあったが、その感覚は間違いではなかったようだ。どの教科もなかなかいい点数がとれている。得意の数学は満点……と言いたいところだったが、計算ミスで一問間違えていた。それでも十分だろう。


「お、大島さん? ま、まぁ、そういうこともあるよね、大島さんもよくできてるよ」

「そうだけど、やっぱり日車くんに勝てないと意味がないのよ……自分が嫌になるわ……もうそろそろお迎えが来る頃かしら」

「お、落ち着いて、いなくなるのだけは勘弁してね。今回は志望校の基準に届くかというところを見ておいた方がいいよ」

「まぁそうね、この点数だったら私も大丈夫そうだわ」


 なんとか大島さんが落ち着いてくれてホッとしていた。この共通テストの点数と、大学入試の点数で全てが決まる。僕は二月上旬に私立大学、二月下旬に国公立大学を受験することにしている。どちらの大学もこの点数なら大丈夫だろう。


 ツンツン。


 背中を突かれたので振り向くと、勉強していた絵菜がこちらを覗き込んでいた。


「団吉、自己採点終わった?」

「あ、うん、終わったよ。どの教科もまあまあよかったみたいで」

「そっか、わわっ、数学は満点に近いのか……! あ、物理もほぼ満点……す、すごい……」

「まぁ、数学だけは満点をとりたかったけど、さすがにそううまくはいかないね」

「す、すごすぎる……私は受けてないけど、こんな点数とれたら楽しいだろうな……」

「え、あ、まぁ、楽しいかと言われるとそこまででもないけどね……あはは」

「日車くん、どうだった?」


 ふと声をかけられたので見ると、九十九さんがいた。


「あ、こんな感じだったよ、九十九さんはどうだった?」

「……わぁ、数学と物理はほぼ満点なんだね、さすが日車くんだね。私はこんな感じだったよ」

「どれどれ……おお、総合点は僕よりも高い……! 英語が満点だ、さすが九十九さんだね」

「す、すごいわね九十九さん、あれだけスラスラと英語話せるから当然か」


 隣の席から大島さんも覗き込んできた。自然と距離が近くなり、大島さんからふわっといいにおいがする……はい神様、僕は変態です。


「う、ううん、リスニング間違えたかなって思ってたんだけど、なんとかなったみたいで」

「いやいや、さすが学年トップだよ。九十九さんは理学部を受けるんだっけ?」

「う、うん、けっこうレベルが高いから、大丈夫かなってちょっと不安で」

「そっか、九十九さんなら絶対大丈夫だよ、自信持ってね」

「あ、ありがとう……日車くん優しいな、カッコいい……」


 九十九さんがそう言って僕の手をきゅっと握ってきた……って、あれ? これも久しぶりな気がする。


「つ、九十九さん!?」

「……団吉?」

「ああ!! い、いや、なんか流れでそうなったというか……ご、ごめん!」

「ふふっ、慌てる団吉も可愛い。みんなよくできてたみたいだな」

「うん、そうだね、あとは試験を頑張ればなんとかなりそうだね」


 九十九さんも大島さんも僕も、いい点数がとれたので、よかったなと思った。



 * * *



 昼になり、今日は火野と高梨さんも学校に来ているので、一緒に昼ご飯を食べようと、僕と絵菜は学食へ向かった。奥に火野と高梨さんが座っているのが見えた。


「おーっす、なんか昼一緒に食うのも久しぶりだなー」

「やっほー、ほんとだねー、三学期は自由登校だからねぇ」

「お、お疲れさま」

「お疲れさま、そうだね、まぁこうして学校来た時は一緒に食べたいよね」


 三学期になり、こうして四人が集まることもだんだん少なくなってきた。僕はちょっと寂しくなってしまった。


「そうだなー、そういえば共通テストの自己採点やったか?」

「ああ、やってみたよ、僕はこんな感じだった」

「どれどれ……おお、めちゃくちゃいい点数ばかりだな! 数学と物理はほぼ満点じゃねぇか! さすが団吉だな」

「うわぁーすごいねぇ、こうして同じ問題を解くと、日車くんのすごさが改めて分かるねぇ」

「い、いや、そんなことないよ、二人はどうだった?」

「ああ、俺はこんな感じだったぜ。団吉の見ちゃうと恥ずかしいんだが」

「私はこんな感じだったよー、まあまあって感じかな」


 火野と高梨さんから結果を受け取って、隣の絵菜と一緒に見てみる。


「どれどれ……ああ、二人とも数学まあまあできたみたいだね、火野は課題だった英語もそこそこできたのかな」

「ああ、団吉のおかげだな、ほんと感謝してるぜ」

「私も苦手な数学がまあまあできたから、よかったよー。ほんと日車くんのおかげだねぇ」

「うんうん、よかったよ。あとは試験で頑張るだけだね」

「おう、もう少し頑張らないといけねぇな」

「そだねー、でも、それが終わると私たちも卒業なんだね、なんか寂しくなっちゃった」


 高梨さんがそう言ってちょっと俯いた。そうだ、試験が終わるとついに卒業だ。そしてそれぞれの道を進んで大人になっていく。さっきも思ったが、僕も寂しいと感じてしまう。


「……うん、優子の気持ち分かる。こうしてここに集まることもなくなるんだよな……」

「そうだな、でもさ、俺ら友達だろ? たしかにバラバラになっちまうけど、また集まって楽しいことしようぜ」

「うん、そうだね、僕も寂しくなったけど、またみんなで集まればいいよね」

「そだね、ごめんねちょっとしんみりしちゃって。卒業しても変わらないものもあるよね」

「ううん、気にしないで。もう少しみんなで頑張ろうか」

「そうだな、あ、あれやっておかないか?」


 絵菜がそう言って右手を出してきたので、みんなでグータッチをした。これも一年生の時から変わらないな。

 これまでみんなで頑張ってきたんだ、もう少し頑張ってみんな笑顔で卒業したい。そう強く願っていた。

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