第106話「自由登校」
三学期が始まって数日経つ。
僕たち三年生は自由登校となっている。必ず行かないといけない日もあるが、それ以外は自由だ。学校に行ってもいいし、家で勉強していてもいい。僕はみんなと話して学校に行ける時は行こうかなと思っている。
冬休みは三年生はあまり課題がなかったので、その分試験に備えて勉強をしていた。バイトもこれまで通り頑張ったし、日向や真菜ちゃんや長谷川くんにも勉強を教えてきた。充実した冬休みになったのではないかと思う。
「なんか、これまで通り学校に行くのは変わらないな」
隣で絵菜がぽつりとつぶやいた。今日の朝は絵菜が一緒に学校へ行こうと言っていたので、一緒に行くことにしたのだ。
「ほんとだね、まぁ毎日ではないかもしれないけど、行ける時は行こうかなって思うよ」
「うん、また団吉に教えてもらいたい」
「うん、いいよ、一緒に頑張ろうね……って、あれ? 前歩いてるのって中川くんと富岡さんじゃないかな?」
「ん? あ、ほんとだ」
中川くんと富岡さんが仲良さそうに歩いていたので、僕たちはそっと声をかけた。
「お、おはよ」
「おはよう、二人も学校に行くんだね」
「あ、日車くんに沢井さん、おはよう! うん、愛莉と一緒に勉強しようと思ってね!」
「あ、日車さん、沢井さん、おはようございます……! そうなんです、悠馬くんが教えてほしいって言うから、私で大丈夫かなと思っているのですが……」
「そっかそっか、まぁ一人でやるよりもいいよね。僕たちも同じようなこと話してたよ」
「そうだったんだね、日車くんなら勉強の神様みたいなものだから怖いものなしだね!」
「うん、団吉は神様だから、何でも教えてくれる……」
「え!? い、いや、中川くんまで神様って言ってる……そんなことはないからね……」
「ふふふ、私も日車さんのように勉強できたらよかったのですが、自分なりに頑張ってみようと思います……!」
「うんうん、富岡さんもできてるから大丈夫だよ、頑張ってね」
玄関で靴を履き替えて、富岡さんは中川くんと一緒に一組の教室に行った。僕と絵菜はいつも通り五組の教室に行く。
「あら、二人ともおはよう。早いわね」
「……二人ともおはよ。毎日寒いね」
席に行くと、隣の席から大島さんと相原くんが話しかけてきた。
「お、おはよ」
「おはよう、二人とも早いね。もう勉強してるの?」
「……うん、大島さんに教えてもらってたとこ」
「あ、今相原がやってるとこ、私もイマイチ分からないとこだ……」
「あら、沢井さんも分からないのね、ま、まぁ沢井さんにも教えてあげるわ」
「あ、ありがと……」
「そ、そうだ、机くっつけないかしら、そっちの方がやりやすそうだし」
「あ、そうだね、そうしようか」
僕たちは四人で机をくっつけた。大島さんが絵菜と相原くんにあれこれと教えている。
「ん? 日車くんどうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「あ、いや、絵菜と大島さんが仲良くなったみたいで嬉しいなーと思って」
「ち、違うわよ、さ、沢井さんも頑張ってるから、私も応援してあげたくなっただけよ」
「……団吉、大島が要注意人物なのは変わらないから」
「さ、沢井さん? 要注意人物ってどういうことよ、私は変態じゃないわよ」
「ま、まあまあ、ほら、絵菜と相原くんが考え込んでるみたいだよ、大島さんが丁寧に教えてあげないと」
強がっている二人だが、今までとは違う雰囲気があった。僕はそれだけで嬉しかった。
* * *
みんなでしっかりと勉強をしていると、チャイムが鳴った。
「ああ、もう昼か」
「団吉、何か食べに行く?」
「あ、そうだね、今日はお弁当もないから、学食に行ってみようかな」
絵菜と一緒に学食に行こうとしたその時だった。
「――あ、日車先輩!」
「――あ、だんちゃん!」
教室の入り口の方から声がしたので見ると、橋爪さんと梨夏ちゃんが手を振りながら教室に入ってきた。後ろには恥ずかしそうにしている黒岩くんもいる。
「あ、みんなお久しぶり、生徒会の仕事は頑張ってる?」
「はい! みんなで協力して、楽しくやってます! あ、大島先輩も沢井先輩もいるんスね! こんにちはっス!」
「こんちわ! さとっことえーこも、だんちゃんと席が近いのかー! いいなー!」
「こ、こんにちは、みんな相変わらず元気ね、安心したわ」
「……す、すみません先輩方、忙しいだろうからやめた方がいいと言ったんスが、どうしても日車先輩のところに行きたいって……」
「なにー!? しょーりん、また自分だけいい子になりやがってー!」
「なんだとー!? 来て何が悪いんだー!」
橋爪さんと梨夏ちゃんがポカポカと黒岩くんを叩いている。
「ま、まあまあ、落ち着いて……休み時間だし、来るのはかまわないよ」
「す、すみません……あ、そういえば、日車さんが言っていたのですが、日車先輩のところに猫ちゃんが来たんスか?」
「ああ、そうそう、子猫がやって来てね、うちの子になったよ」
僕がそう言ってみるくの写真をみんなに見せた。みんなが「か、可愛い……!」と言っていた。
「か、可愛いスね……実は自分の家も猫を飼っていて……」
「おお、そうなんだね、黒岩くん家の猫ちゃんはなんていう名前?」
「あ、うちはさばおというっス……こんな子で」
黒岩くんが写真を見せてくれた。貫禄のある猫ちゃんが写っていた。
「おお、イケメンなんだけど、なんかボスって感じがするね」
「さばおくんか……いいな……団吉のとこのみるくちゃんとはまた違う……」
猫好きの絵菜が食いついていた。
「日車先輩のとこはみるくちゃんというんスね……猫っていいものっスよね」
「うん、初めて動物を飼ったんだけど、こんなに癒されるものとは知らなかったよ」
「いいなー猫ちゃんいいなー、みるくちゃんもさばおくんも猫ってだけで癒されますねー!」
「ほんとだねー、あ! あおっぴ、しょーりん、早く売店行かないとパンが売り切れちゃう!」
「ああ、そうだった! それでは先輩方、おじゃましましたー!」
「す、すみません騒がしくて……失礼します」
三人がバタバタと教室を後にした。
「……なんか、嵐が来たって感じだったね」
「そ、そうね、黒岩くんもあの二人の面倒を見て大変そうね……」
「ま、まぁ、楽しく生徒会の仕事出来ているならそれでいいかな……あ、絵菜、学食行ってみようか」
たしかに黒岩くんが大変そうな気がしたが、天野くんも含めてみんなで協力して楽しく生徒会の仕事が出来ているのであれば、それでいいかなと思った。
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