第95話「二人に報告」

 絵菜と真菜ちゃんが来た日の夜、僕は勉強をするために部屋にこもっていた。

 あれからみるくはみんなに遊んでもらって、疲れたのかすやすやと寝ていた。日向は「寝顔も可愛い……!」と言って写真を撮りまくっていた。たしかに寝顔も可愛い。僕たちはあたたかい気持ちになっていた。

 動物ってこんなにいいものなのだな……と新しい発見があったと思っていたその時、僕のスマホが鳴った。RINEが送られてきたみたいだ。送ってきたのは富岡さんだった。


『こんばんは、今いいですか……?』

『こんばんは、うん、大丈夫だよ。どうかした?』

『あ、その、ちょっとお話したいことがありまして……よかったら沢井さんも一緒に三人でお話できませんか……?』


 ん? お話? 何だろうと思ったが、僕は『うん、いいよ、絵菜に訊いてみるね』と送って、絵菜にもRINEを送った。絵菜が通話できると言っていたので、僕はグループ通話をかけた。


「も、もしもし」

「もしもし、あ、こんばんは……! すみません急にお話とか言って……」

「もしもし、こんばんは。いえいえ、富岡さんが通話したいって言うのめずらしいね、何かあった?」


 僕がそう言うと、富岡さんは「はわっ! あ、そ、その……」と、ちょっと言いづらそうにしていた。僕と絵菜は富岡さんが話すまで待った。


「そ、その、実は今日悠馬くん……あ、中川さんとデートしまして……そしたら、中川さんが私のこと好きだって言ってくれて……それで、私も好きですって言って、お付き合いすることになって……あああ、は、恥ずかしいですね……」


 富岡さんがゆっくりと話してくれた。そうか、中川くんとデートしたのか。そして告白までされていたとは。


「おお、そうなんだね、ということはおめでとう……なんだね。ごめん、やっぱりこういう時なんて言ったらいいのか分からなくて」

「そっか、富岡、おめでと。よかったな」

「あ、ありがとうございます……! い、今でも夢なんじゃないかと思っているのですが、ゆ、夢なんですかね……明日起きたら実は何もなかったとか……」

「いやいや、富岡さん大丈夫だよ、現実だよ。中川くんも優しい富岡さんのことがどんどん好きになっていったんだよ」

「うん、富岡、大丈夫、自信持って。中川はちゃんと富岡のこと見てくれているから」

「そ、そうですかね……! はい、私はずっと自分に自信がなかったのですが、もうちょっとしっかりしないと……!」


 富岡さんの言葉がなんとなく分かる気がした。前に三人で話した時も思い出していたが、僕も絵菜を好きになる前は自分に自信がなかった。いつも笑われバカにされて、自分のことが嫌いだったのかもしれない。でも、絵菜やみんながいてくれることで、どんどん自分が変わった気がする。


「うんうん、富岡さんの気持ち分かるよ。なかなか自信を持つって難しいよね。でも大丈夫、僕も変わることができたから、富岡さんも自信がついてくると思うよ」

「うん、私も自分なんて嫌いだった。でも、団吉やみんながいてくれるから、変わることができた。富岡、大丈夫」

「そ、そうですか……お二人とも強いですね……! わ、私は男の子を好きになったのは初めてといってもいいくらいで、分からないことだらけなのですが、そういうところも自信がないのかもしれません……」

「そっか、僕も絵菜を好きになるまでは、女の子を好きになることなんてなくて、むしろ女の子と話すことも苦手だったよ。こんなに変わるんだなってよく思うよ」

「わ、私も、男の子を好きになることなんてなくて……でも、団吉を好きになって本当によかったと思ってる。富岡、すぐに自信を持つのは難しいかもしれないけど、中川のこと想う気持ちは大事に持って」

「な、なるほど……お二人は本当にすごいです……! お二人には本当にお世話になって、感謝しています……!」


 富岡さんから明るい声が聞こえて、僕は嬉しくなった。


「いえいえ、大したことはしてないよ。あ、そうだ、話変わるんだけど、富岡さんのお家は猫ちゃんを飼っていたよね、実はうちにも子猫がやって来てね」

「まあ、そうなんですね……! 子猫ちゃんか、可愛いんだろうなぁ……!」

「うん、僕も妹も母さんも、メロメロになっていてね。それで猫を飼っている先輩の富岡さんから、何か猫を飼う上で気をつけておくことがあれば教えてもらえたらなと思って」

「そうですね……子猫ちゃんの頃は遊びたい盛りなので、いっぱい相手をしてあげるといいです。でも一人の時間も大切にしてあげた方がいいので、寝ている時などは起こさずにそっとしておくのも大事ですね……!」

「なるほど、うんうん、他にはある?」

「そうですね……あといきなり吐いたりすることがあるかもしれませんが、心配しないでください。毛繕いなどをして体に入り込んだ毛を吐き出しているので、体調が悪いのとはまた違いますので……! まぁ、猫ちゃんによってはご飯が合わなくて吐いちゃうこともあるかもしれませんが、そこは吐いたものを見ておくのが大事かと思います……!」

「あ、なるほど……ありがとう、すごく大事なことを聞いた気がする」

「いえいえ……! 日車さんのところの猫ちゃんは、何て名前なのですか……?」

「うちは女の子でみるくっていうよ。富岡さんのところはマルちゃんだったね」

「みるくちゃん……! ぜひそのうち写真を見たいです……!」

「みるくちゃん、すごく可愛い。マルちゃんも可愛かったけど」

「ああ、沢井さんはもうご覧になったのですね……! いいですね、猫ちゃんは癒しです……!」


 富岡さんから「ふふふ」と楽しそうな声が聞こえてきた。猫が大好きなんだなと思った。


「うん、僕も動物がこんなにいいとは知らなくてね。ああごめん話がそれてしまった。富岡さん、中川くんと仲良くね」

「うん、富岡、仲良くな」

「ありがとうございます……! 悠馬くん、明日学校に一緒に行こうって言ってくれてて、もうそれだけでドキドキです……!」


 富岡さんが嬉しそうにしているのを聞いて、僕も絵菜も嬉しい気持ちになっていた。そうか、中川くんと富岡さんも仲良くできるといいなと思った。

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