第96話「大変なこと」
『……日車くん、大変なことになった』
ある日、家で勉強をしていると、二年生の時に作ったグループRINEに相原くんからRINEが来た。大変なこと? もしかしてジェシカさんと何かあったのだろうか? でも昨日僕にもメールが来ていたけど、ジェシカさんはいつも通りだったし、もしジェシカさんと何かあったらグループRINEではなくて個別に来るよなと思った。
『ん? 大変なことって?』
『……だんだん最後のテストが近づいているんだけど、数学がさっぱり分からなくて……今度は赤点になってしまいそうな気がして』
そう、二学期の定期テストが近づいていた。三年生はこれが最後のテストとなる。三学期は自由登校になり、テストがないのだ。なるほど、最後のテストは赤点もなく綺麗に終わりたいものだ。
『そうなのね、相原くんも頑張ってるわね。でも最後のテストで赤点というのは嫌ね……』
『あ、私も実は分からないところがあって……! 最後は赤点もなく終わりたいのですが……』
大島さんと富岡さんもRINEを送ってきた。
『そうか、みんな頑張ってるね。でもたしかに最後のテストで赤点というのは嫌だな……そうだ、明日祝日で休みだけど、みんなで学校に集まらない? みんなで勉強して教え合おうよ』
『……おお、助かる。学校行くよ』
『そうね、それがいいかもしれないわね、休日だけど学校は開いているはずだから、大丈夫だと思うわ』
『そうですね、集まりましょう……! よろしくお願いします……!』
『うんうん、そうだ、他の人にも声かけてみるね。みんなで勉強した方がいいだろうし』
僕はすぐに絵菜、杉崎さん、木下くん、九十九さんにRINEを送ってみた。みんな明日行けると返事が来た。急にお誘いしたがみんなやる気を出していてホッとした。
『みんな学校に行けるみたいだよ。じゃあ明日学校で』
グループRINEに送った後、ふとスマホの時計を見る。まだ寝るにはちょっと早いかな。もう少し頑張って勉強しておこうと思った。
* * *
次の日、僕はいつも学校に行く時と同じように準備をしていた。
「休みの日なのに学校行くなんて、お兄ちゃんもすごいねぇ」
日向がみるくと遊びながら言った。みるくは「みー」と鳴きながら猫じゃらしを追いかけている。
「まぁ、みんな頑張ってるみたいだからね、僕も頑張らないとな」
「そっか、三年生は大変だねぇ。あ、そうだ、駅前で売っているクッキー買ってきてくれない? あれ美味しいからさー」
「えぇ、遊びに行くんじゃないんだぞ……まぁいいけど。じゃあ行ってきます」
日向と母さんに「行ってらっしゃーい」と見送られ、僕は学校へ行く。テスト前なので部活動生もおらず、学校はけっこう静かだった。
(おお、学校は人がいないとこんなに静かなのか……まぁでも全然いないというわけではないし、先生もいるんだろうな)
いつも通り三階に行き、教室に入ると、みんながすでに来ていた。
「おっ、日車おはよー……って、なーんかいつも通りって感じするなー、今日休みなのにさー」
「おはよう、ほんとだね、今から授業があってもおかしくないね」
「ほんとね、でもたまにはいいんじゃないかしら、学校で勉強するのもありだと思うわ。ま、まぁ、人数少なかったら日車くん家に突撃しようかと思ったけど……ブツブツ」
「お、大島さん? なんかブツブツ言ってるけど……」
相変わらず大島さんはブツブツと何かを言っていた。たまに分からないんだよな……。
「団吉おはよ、なぁ、ここがもうすでに分からないんだけど……」
「絵菜、おはよう……って、は、早っ! 絵菜はもうやってたんだね。どれどれ……」
「……日車くん、俺も分からない……」
「日車さん、さっそくなんですが、私も分からないところがあります……ずっと考えているんだけど、どうしてこうなるのか……」
「え!? な、なんかみんなやる気バッチリだね、よ、よし、僕も気合いを入れよう……って、さすがに一人だと無理があるので、九十九さん、大島さん、悪いんだけど一緒にみんなに教えてあげてくれないかな?」
「う、うん、分かった。私も役に立たないと……」
「そ、そうね、まぁ日車くんがそう言うなら仕方ないわね。ふふふ、沢井さんにも教えてやらないこともないわよ」
「……団吉に訊くから、いい」
「す、ストーップ! 二人ともそのへんで……あはは」
「ひ、日車くん相変わらず大変そうだね、そ、そうだ、僕たちしかいないし、みんなで同じところ進めて、黒板使って説明するとやりやすいんじゃないかな?」
「あ、そうだね、うん、それでいこう。とりあえず数学からやってみるね。みんな問題集の同じところをやろう」
とりあえず先ほど絵菜が分からないと言っていた数学の問題から進めていくことにした。数学は僕が得意なので、僕が中心になって黒板に問題と解答を書きながら解説していく。な、なんか九十九さんと大島さんが僕に近い気がしたが、気のせいだろうか。いや、絵菜が面白くなさそうな顔をしていたので、気のせいではないのだろう。あ、後で謝っておかないと……。
「なるほどなー、これそうなるのかー、三人ともやっぱすごいなー、同じ人間とは思えないよーなんちって」
「す、すごいね日車くん、分かりやすいよ。ほ、ほんとに同じ人間とは思えないよ」
「い、いや、同じ人間だからね? こことここはたぶんテストにも出るだろうから、みんなしっかりね」
「……これがこうなるの?」
「そうそう、できてるわよ相原くん。その調子よ」
「あ、もしかして、これがこうなるんですか……?」
「そうそう、富岡さんもできてるね。その考えで合ってるよ」
大島さんと九十九さんもみんなに教えてあげていた。よかった、二人がいてくれるとありがたい。
「団吉すごいな、分かりやすい。なんか大島と九十九が団吉に近かったけど……」
「え!? あ、いや、気のせいじゃないかな……あはは。あ、絵菜もできてるね、よかったよ」
そ、そんなこともあったが、なんとかみんなで勉強していた。最後のテストはみんなで気持ちよく終わりたいものだ。僕も頑張ろうと思った。
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