第94話「富岡の想い」

 日曜日。今日は私にとって、特別な日だった。

 何かというと、あの中川さんとでででデートをするのだ。日車さんたちと四人でRINEを交換してから、私と中川さんはRINEで色々な話をするようになった。好きな食べ物を訊かれたり、サッカーについて熱く語ってくれたり、うちのマルちゃんの写真を送ったり、私はとても楽しかった。

 そんな時、中川さんが、『今度の日曜日、二人で出かけない?』とお誘いしてくれた。私は飛び上がるくらい嬉しかった。こんな地味な私でも、中川さんはちゃんと見てくれている。私はどんな服装にしようか長いこと迷った。あまり変な格好もよくないなと思って、お気に入りのブラウスを中心とした格好にした。

 そして今、駅前で中川さんを待っている。待ち合わせの時間より三十分も早く着いてしまう私はバカなのかもしれない。でも、それくらい嬉しかった。

 しばらく待っていると、


「――あ、富岡さん! ごめん、待った?」


 と、声をかけられた。見ると中川さんがいた。中川さんは白のシャツに黒い上着を着ていて、背の高さもあってビシッと決まっていた。


「あ、い、いえ、ちょっと早く着いてしまって……!」

「そっか、ごめんね、俺は時間通りに来てしまった。富岡さんを待たせるなんてひどいよね」

「い、いえいえ、気にしないでください……!」

「ありがとう、じゃあショッピングモールに行こうか」


 中川さんと並んで歩き出した……のだが、中川さんが「あ、そうだ」と言って、


「その、よかったら手をつながないかい?」


 と、左手を差し出して来た。


「はわっ!? あ、そ、その……は、はい……」


 私は中川さんの手をそっと握った。中川さんの手、大きい……さすが男の子という感じがした。

 私たちはショッピングモールにやって来た。まさか男の子と一緒にここに来るなんて、以前の自分からは想像できなかった。

 二人でお店を見て回った。トラゾーのグッズ売り場なんてできていたのか。二人で笑いながらトラゾーを見ていた。


(……でも、中川さんは女の子にモテるし、こうして一緒に出かけることもたくさんあるんだろうな……私なんかと一緒にいていいのだろうか……)


「……さん、富岡さん?」


 ハッとして見上げると、中川さんが私の顔を覗き込んでいた。しまった、つい考え事をしてしまって聞いてなかった。


「あ、す、すみません……!」

「ああ、いやいや、突然返事が来なくなったから、どうかしたのかなと思って」

「あ、い、いえ、ちょっとボーっとしちゃって……」

「そっか、大丈夫? あ、ちょっと休憩しようか、フードエリアに行って飲み物でも飲もうか」

「あ、はい……すみません……」

「いやいや、謝らなくていいよ。富岡さんの体調の方が心配だ」


 や、優しいな……と思ったが、女の子にはみんなこんな感じで接しているのかなと思うと、ちょっと寂しい気持ちになった。とはいえ、私は中川さんの特別な女の子というわけでもない。普通の友達なのだ。過度な期待はしないでおこうと思った。

 フードエリアに行き、ハンバーガーショップでジュースとポテトを買い、席に座った。


「大丈夫? なんか深刻そうな顔してたけど……」

「あ、い、いえ、体調は悪くないんです……ちょっと考え事しててボーっとしちゃって、すみませんでした……」

「いやいや、いいんだよ。あ、もしかして俺と一緒というのがあまり面白くない……?」

「え!? い、いや、そんなことないです……! 中川さんは優しくしてくれるし、一緒にいるととっても楽しいです……けど」


 そこまで話して、続きを言おうか迷ってしまった。この先を言ってしまうと中川さんに嫌われてしまうかもしれない……でも、隠したままというのも中川さんに悪い気がする。さっきみたいに心配されてしまうかもしれないけど、私は覚悟を決めて話すことにした。


「そ、その……中川さんはカッコいいし、女の子にモテるから、きっと他の女の子ともこうして遊びに行ったりしてるんだろうなって思って……わ、私なんかが一緒にいていいのかなって……すみません、せっかくお誘いしていただいたのにこんなこと言っちゃうなんて……でも、私の中で引っかかってて……」


 言ってしまった。中川さんの顔が見れず、私は下を向いた。嫌われただろうな……と思っていると、


「……そっか、そんなこと思っていたのか。富岡さん、俺の目を見て」


 と、中川さんが言った。おそるおそる顔を上げると、カッコいい中川さんが真面目な顔をしていた。


「富岡さん、たしかに俺は女の子の友達もいる。以前一緒に遊びに行ったこともある。でもそれは過去の話だし、今は付き合っている人もいないし遊びに行ったりもしていない。今日富岡さんと出かけるって決まった時から、嬉しくてドキドキしていたんだ。それに――」


 真面目な中川さんの顔が、ちょっとだけ赤くなったような気がした。


「……富岡さんとRINEで色々な話をしているうちに、富岡さんは素敵な女性だなって思うようになって……会った時にたまに見せてくれる富岡さんの笑顔が頭から離れなくなって……その時気がついたんだ、俺は富岡さんのことが好きなんだって。いきなりこんなこと言ってごめん。富岡さん、よかったら俺と付き合ってくれませんか?」


 ……ん? 今中川さんが私のこと好きって言った? 付き合ってくれって言った? 聞き間違い……?


「え、あ……わ、私のことが好きなんですか……?」

「うん、いきなりごめんね、別に返事を急ぐわけじゃな――」

「ああ!! い、いえ、その……わ、私も中川さんのことが好きで、こっそり見てたくらいなので……こ、こんな私でよかったら、つ、付き合ってください……」

「……ああ、そうなんだね! よかった、俺だけ想っていたら恥ずかしいなと思っていたところだよ」

「い、いえ、その……私も想っていたので……」

「あはは、ありがとう。ああそんなに下向かないで、可愛い富岡さんの顔が見たいな。そうだ、愛莉さんだったよね、これから愛莉って呼んでもいいかな?」

「ええ!? あ、は、はい……」

「ありがとう。愛莉……好きだよ」

「はわっ! あ、じゃ、じゃあ私も、悠馬くんと……悠馬くん……好きです……」


 私は全身が熱くなっていくのが分かった。うう、顔は真っ赤なんだろうな……恥ずかしいけど、とても嬉しかった。まさかこんなところで告白されるとは思ってもいなかったが、今は嬉しさの方が大きかった。

 その後もショッピングモールを一緒に見て回った。悠馬くんの大きな手から温もりが伝わってきて、私は夢を見ているのかなと思ってしまった。

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