第91話「そばにいて」

「あ! 今日って十一月十日だよね!? 絵菜の誕生日じゃん! おめでとー!」


 昼休みにいつもの四人でご飯を食べていると、急に高梨さんがそう言った。


「おお、そうだった、沢井おめでとう!」

「あ、ああ、ありがと……って、なんか去年もその前も同じことがあったような……」

「あはは、そりゃそうだよー、毎年誕生日はやって来るんだからさー。思い出したように言ったけど、今年もプレゼント忘れてないからねー、はい絵菜、誕生日プレゼントだよー」


 高梨さんがそう言って可愛らしい袋を絵菜に渡した。


「え、あ、ありがと、そんな、しなくてよかったのに……」

「いやいや、可愛い絵菜のためならこれくらいなんてことないよー。中は可愛い猫ちゃんの絵が描かれたハンドタオルとフェイスタオルだよー。陽くんと一緒に見に行って来たんだー」

「そ、そっか、ごめん、火野もありがと……」

「いやいや、大したことはしてねぇよ。沢井は猫が好きだったからな、いいんじゃねぇかと思ってな」


 火野が爽やかイケメンスマイルを見せる。くそぅ、これだからイケメンは困る……。


「絵菜、よかったね、誕生日おめでとう」


 僕は絵菜の目を見て言った。絵菜は恥ずかしそうにしていた。


「あ、ありがと……まさか三年連続で祝ってもらえるとは思わなかった」

「あはは、そうだよね、僕も日向と母さんくらいしか祝ってくれる人がいなかったから、なんだか不思議な気持ちになるよね」

「おいおい、団吉よ、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ。まぁ、今みたいにプレゼントは渡してなかったが」

「ああ、ごめん、たしかに火野はいつも祝ってくれてたな、ありがとう」


 僕がそう言うと、絵菜が少し笑っていた。


「ふふっ、団吉と火野もほんとに仲が良いよな」

「そ、そうかな、そう言われると恥ずかしいな……あ、そうだ絵菜、今日の帰りにうちに寄ってくれないかな? ま、まぁ、これまでの流れで何があるかは分かると思うけど……」

「う、うん、分かった」


 絵菜が恥ずかしそうに下を向いた。そんな絵菜も可愛いなと思っていたら、火野と高梨さんがニヤニヤしながら僕たちを見ていた。


「な、なんだよ……」

「いやいや、今年も団吉からのプレゼントがあるんだろうなーと思ってな」

「そーそー、『絵菜、誕生日おめでとう、僕を好きにしていい権利だよ……』って言ってさー」

「なっ!? い、いや、それはなんか僕が危ない人っぽくない? それはないけど、ま、まぁプレゼントはあるみたいな……あはは」


 ふと絵菜を見ると、恥ずかしそうに俯いていた。まぁ今日は絵菜が主役の日だ、もっと堂々としていてもいいのになと思った。



 * * *



 その日の放課後、僕と絵菜は一緒に帰っていた。だんだん風が冷たいと感じるようになってきた。また寒い冬が来てしまうのか。


「風が冷たいな……あ、今年も団吉からもらったマフラー使うつもり」

「ああ、うん、使ってくれると嬉しいよ。絵菜にピッタリでよかった」


 絵菜が僕の手を握ってご機嫌である。目が合うとニコッと笑いかけてくれて、その度に僕はドキドキしていた。


「ただいまー」


 玄関を開けると靴が一足あった。たしか今日は母さんがリモートワークで家にいるはずだ。


「あら、おかえりー。絵菜ちゃんいらっしゃい」

「あ、こ、こんにちは」


 母さんが部屋から出てきて挨拶をした。


「あ、そういえば今日は絵菜ちゃんの誕生日だったわね、おめでとう。十八歳ね」

「あ、は、はい……ありがとうございます」

「ふふふ、もう絵菜ちゃんは娘みたいなものだからねー、可愛いわー……って、団吉、ボーっとしてないで部屋に案内してあげたら?」

「あ、ああ、ちょっと部屋にいるね……」

「はーい、お母さんもちょっと休憩しようかなー、あとで美味しいクッキー持って行ってあげるわね」


 絵菜に上がってもらって、僕たちは僕の部屋に行く。鞄を置いて、机の上に置いてあったプレゼントを手に取って、テーブルに置いた。


「はい、絵菜、毎年のことで想像は出来てると思うけど、誕生日おめでとう。これ僕からのプレゼント。気に入ってもらえるといいけど」

「わわっ、あ、ありがと……そんな、しなくてよかったのに……」

「ううん、絵菜の誕生日はちゃんとお祝いしたくてね。あ、よかったら開けてみて」

「う、うん……」


 絵菜がゆっくりとプレゼントを開ける。


「……あ、ま、マグカップ……!?」

「うん、猫の絵が可愛いなと思ってこれにしてみたよ。実は僕も色違いのマグカップを買ってね、これでお揃いだね」

「ほ、ほんとだ、可愛い……そっか、団吉とお揃いか……」

「うん、ぜひ家で使ってもらえると嬉しいよ」

「ほんとにありがと、嬉しい……あ、そうだ」


 絵菜が僕の隣に来て、ぎゅっと抱きついてきた。


「ふふっ、嬉しすぎて団吉にくっつきたくなって」

「そ、そっか、そういえば最近くっついてなかったような……って、あれ? 文化祭の時にみんなの前で抱き合ったな……」

「ふふっ、あの時も嬉しかった。予定より長くくっついちゃった」

「あ、や、やっぱり……もしかして狙ってた……?」

「うん、みんなに見てもらいたくて」


 ちょっといたずらっぽく言う絵菜が可愛かった……と思ったら、耳元で「……キス、しよ?」と絵菜がささやいた。僕は心臓のドキドキが五段階くらい上がった。や、ヤバい、これは慣れないんだな……。

 僕は絵菜の目を見た後、目を閉じてそっと絵菜の唇に……キスをした。絵菜の誕生日になると毎回ここで初めてキスをしたのを思い出す。きっとこれから先もそうなんだろうな。僕と絵菜の大切な思い出だ。


「……ふふっ、嬉しい……なぁ団吉、お願いがあるんだけど」

「ん?」

「……これからも、ずっとずっと、私のそばにいて?」

「ああ、うん、もちろん。ずっとずっと絵菜のそばにいるよ。絵菜が大好きだから」

「ありがと、嬉しい……私も団吉が大好きすぎて、おかしくなってしまいそう……」


 絵菜がそう言ってまたぎゅっと抱きついてきた。さっきも言ったが、もちろん絵菜から離れるつもりなんてない。僕は絵菜のそばにいて、絵菜を守っていくって決めたのだ。絵菜の嬉しそうな笑顔を見て、僕も嬉しい気持ちになっていた。

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