第78話「恋の探偵」

 富岡さんの気持ちを聞いた日の夜、僕は部屋でスマホを眺めていた。


(うーん、中川くんを探ってみると言ったのはいいけど、中川くんとは別のクラスだし、RINEも知らないし、接点が少ない気がするんだよなぁ……)


 そう、これまで中川くんと顔を合わせる機会はあったが、実は知らないことの方が多い。サッカー部の元部長で、元風紀委員長というのは当然知っている。あと女の子にモテることくらいか。まぁイケメンだし当然か。


(あのイケメンの中川くんなら彼女がいてもおかしくないよな……女の子の友達も多いみたいだし……こういう時に頼りになる人といえば……)


 僕はRINEを立ち上げて、ポチポチとメッセージを打って送った。


『お疲れさま、ごめん火野、ちょっと通話できるかな?』

『おーっす、大丈夫だぜー』


 そう、元サッカー部で、中川くんと同じクラスの火野なら、中川くんのこともよく知っているのではないかと思った。僕は火野に通話をかける。すぐに火野が出た。


「もしもし、おーっす、お疲れー」

「もしもし、お疲れさま、ごめん急に通話して」

「いやいや、全然かまわねぇけど、何かあったのか?」

「そ、それが、ちょっと中川くんのことを教えてほしくて……」


 富岡さんの気持ちを話していいのか迷ったが、話さないと火野も分からないと思ったので、今日あったことを火野に話した。


「え!? 富岡さんって、あの元図書委員長の富岡だよな?」

「そうそう。ごめん、このことは誰にも言わないでくれ。もちろん中川くんにも」

「お、おう、もちろん言わねぇけど……そうか、中川のこと好きになったのか」

「うん、どうやら本気みたいで……」

「そっか……ああ、中川なんだけど、今は彼女はいないと思うぜ」

「そ、そうなのか」

「ああ、俺と優子が話していた時、『いいな、二人は仲が良くて。俺も彼女がほしいな』って言ってたからな。そんなに前のことじゃねぇし、今もたぶんいないと思う」

「そ、そっか……でも、女の子の友達は多いよな?」

「たしかに、女の子と話していることも多いな。他のクラスにも友達はいるみたいだ。まぁでも委員長会議で富岡と楽しそうに話してたし、何も思っていないということはなさそうだが」

「ま、まぁ、たしかに僕もその様子は見てたけど……富岡さんは自信がないみたいで。地味な私なんか見てくれないって」

「そんなことねぇよ、富岡だって可愛らしい感じするじゃんか。まぁ、中川がどう思っているかはさすがに分からねぇが」


 サラっと富岡さんを褒める火野もイケメンだった。女の子にモテるはずだよ……。


「そ、そうだよな……でもそうか、中川くんは彼女がいないのか、それが分かっただけでもよかったよ、ありがとう」

「いやいや、大したことはしてねぇよ。富岡がなんとか自分の気持ちを伝えられるといいんだが、なかなか会う機会もないのかな?」

「うーん、そうだなぁ、会議で集まることもなくなったし、今日は一組の教室こっそり覗いてたくらいだもんな……」


 そう、二人が話す場所というのがなかなかないのだ。これまで火野と高梨さん、木下くんと杉崎さん、天野くんと東城さん、日向と長谷川くんは、みんな同じクラスだったのだ。僕はうーんと考えてしまったが、


「……よし、お節介かもしれないけど、ここは僕と絵菜が二人が話せる場所を作ってあげようと思うよ」


 と、火野に話した。


「おう、それがいいかもな。俺も力になるぜ。気になることあったら何でも訊いてくれ」

「うん、ありがとう。あ、今RINEが来たような音がした、誰かが送ってきたのかも」

「おう、分かった、んじゃまた学校でな」

「うん、じゃあまた学校で」


 火野との通話を終えて、RINEを見ると、絵菜が送ってきていた。


『団吉、お疲れさま、何かしてた?』

『お疲れさま、今火野と話してたよ。そうだ絵菜、ちょっと通話できるかな? 富岡さんも一緒に』

『うん、私は大丈夫』


 絵菜から大丈夫と来たのを確認した後、富岡さんにRINEを送って通話できるか訊いてみると、大丈夫とのことだったので、僕はグループ通話をかけた。


「も、もしもし」

「もしもし、あ、こんばんは……!」

「もしもし、こんばんは、ごめん二人とも急に通話して」

「い、いえ、大丈夫です……あ、あの、昼間はありがとうございました……!」

「いえいえ、それでその話の続きなんだけど、中川くんは今彼女がいないみたいだよ。まぁ、火野から聞いた話だけど、『俺も彼女ほしい』って言ってたみたいで」

「あ、そ、そうなんですね……! でも、中川さんは女の子にモテそうだから……私なんて……」

「富岡、自信持って。誰かを好きになるのは自由だから、富岡の気持ちが大事だよ」

「うんうん、富岡さん、昼間も言ったけど、誰かを好きになるってとても素敵なことだよ。相手がモテる男の子でも関係ないよ」

「そ、そうですかね……は、恥ずかしいですが、私は自分に自信がなくて……そういうところがダメなのは分かっているのですが……」


 富岡さんの声が小さくなった。でも、富岡さんの気持ちも分かる気がした。僕も笑われてばかりの頃は自分に自信が持てなかったものだ。


「富岡さんの気持ち分かるよ。僕もバカにされたり笑われたりして自分に自信がなかったんだけど、絵菜やみんなのおかげで変わることが出来たんだ。富岡さんも大丈夫だよ」

「そ、そうでしたか……日車さんも大変だったのですね……うん、もうちょっとしっかりしないとな……」

「うん、急には難しいかもしれないけど、少しずつね。そうだ、二人が話せる場所を、僕と絵菜で作ろうかなって思ってるよ。ごめん絵菜、巻き込んでしまって」

「ううん、大丈夫、私も協力する」

「はわっ! そ、そんな、すみません、このご恩はどうすれば……わ、私はそんなに胸もお尻も大きくないですが……」

「……団吉、そんな目で見てたの?」

「え!? い、いや、見てないよ! 何もいらないからね!?」


 僕が慌てていると、絵菜と富岡さんの笑い声が聞こえてきた。う、うう、やっぱりこうなってしまうのか……。

 それから三人でしばらく話していた。富岡さんの笑い声が聞こえたりして、リラックスできているようだ。二人が話せる場所を見つけてあげたいなと思っていた。

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