第79話「休日デート」

 日曜日、僕はこの日はバイトを休んで、絵菜とデートをすることにしていた。

 夏休みに二人でどこかに行こうと話していたのに、どこへも行けなかったお詫びというか、なんというか。バイトは昨日まで毎日のように入っていたので、逆に店長やパートのおばちゃんからも心配された。まぁ、何事も頑張りたいと言うと、店長もパートのおばちゃんも「偉いねぇ」と言ってニコニコ笑顔だった。

 今日は駅前に待ち合わせにしていたので、遅れないように駅前に行く。ちょっと早かっただろうか、絵菜はまだ来ていなかったので、ベンチに座って待っていると、


「――だ、団吉ごめん、遅くなった」


 と、声をかけられた。見ると絵菜がいた。絵菜は花柄のワンピースに、茶色のブラウス、足元は黒のブーツを履いていた。とても可愛かった。


「あ、ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ。今日の絵菜も、か、可愛いね」

「あ、ありがと、団吉に褒めてもらえるのが一番嬉しい。団吉もカッコいい……」

「そ、そうかな、ありがとう。未だにどんな服がいいのか分からないんだけどね」

「ふふっ、似合ってるから大丈夫だよ。それじゃあ行こっか」


 絵菜がそう言って、そっと僕の左手を握ってきた。二人で電車に乗る。


「今日はまだ暑かったな、ブラウスいらなかったかも」

「ああ、脱いでおく? 持っておこうか?」

「ううん、大丈夫、自分で持てる……って、ふふっ、なんだか団吉もさりげない優しさがあるな」

「え!? あ、そ、そうかな、自分ではよく分からないけど……」

「ふふっ、女性の気持ちがよく分かってるな。ありがと、その優しいところが好きだ」


 そ、そうか、そういえば真菜ちゃんにも同じようなこと言われたな……と思い出した。自分ではよく分からないが、絵菜が言うならそういうことなんだろう。

 二人でショッピングモールに来た。なんか毎回ここなのも申し訳ない気がするが、絵菜はRINEで『私は団吉と一緒にいれるならどこでも嬉しい』と言っていた。僕も同じ気持ちなので、あまり考えすぎるのもよくないなと思った。


「やっぱり秋物がたくさん出てるな。わっ、あそこは冬物の服がもう出てる」

「あ、ほんとだ、なんか今の季節が分からなくなるね」

「うん、ちょっと見ていいか?」

「うん、いいよ、色々見て回ろうか」


 絵菜と一緒に服や小物を見て回った。絵菜は二つ服をとって、「どっちが似合うと思う?」と僕に訊いてきた。姉妹で同じこと言うんだなと思ってしまったが、僕は「こっちの赤い服かな、でも、どっちも似合うと思うよ」と答えた。


「ふふっ、やっぱり団吉は優しいな」

「そ、そうかな、本当に絵菜に似合いそうだったので、つい」

「団吉は優しくないと、団吉らしくないな。あ、お昼食べる?」

「あ、うん、そういえばラーメンのお店がたくさんできてたね、そっちに行ってみようか」


 二人でラーメン屋が集まるエリアに行く。休日というのもあって人は多かったが、とんこつラーメンのお店に入ることができた。食券を買って店員さんに渡してしばらく待っていると、美味しそうなとんこつラーメンが運ばれてきた。


「おお、美味しそうだね、いただきます」

「い、いただきます……あ、こってりしてるのかと思ったら、そんなにきつくない」

「ほんとだね、これだったらスープも美味しくいただけそうだね」


 二人で美味しいラーメンをいただいて、またショッピングモールを見て回ることにした。


「そういえば、中川と富岡、どうやって会わせようか?」

「ああ、そうだなぁ、明日の放課後にでも四人で駅前の喫茶店に行かない? いつも通りだけど、あそこだったら話しやすいかなと思って。学校だと他の人の目もあるからね」

「うん、そうだな、それがよさそう」

「――あれ? だんちゃんと、えーこ?」


 今すれ違った人がふいに声をかけてきた。ん? と思って見ると、なんと梨夏ちゃんがいた。


「あ、あれ? 潮見だ」

「あ、梨夏ちゃん!? こ、こんなところで会うなんて、奇遇だね」

「やっぱりだんちゃんとえーこだ、こんちわ! あれ? 二人はデート中だったの?」

「う、うん、そういうことで……梨夏ちゃんは一人?」

「あはは、二人とも仲が良いねー! ううん、私はお母さんと来たんだけど、トイレが長いから置いてきちゃった!」

「え!? そ、それはいいのかな……今頃お母さん探しているのでは……」

「だいじょーぶ、いつもこんな感じなんだー。あ、そういえばあれからそーとんに、『もっとお話聞いて!』って言ったら、ごめんって謝ってくれたよー!」

「ああ、そうなんだね、僕たちからも天野くんに一人で抱え込まないでって言っておいたよ。みんな協力してできそうかな?」

「うん! そーとんもあおっぴもしょーりんも、みんなで頑張ろーって言ってるから、大丈夫だよー」


 その時、「梨夏ー」と梨夏ちゃんを呼ぶ声がした。たぶんお母さんだろう。


「あ、お母さんトイレから戻って来たみたい。それじゃあだんちゃんとえーこはそのまま仲良くねー」

「あ、うん、じゃあまた学校で」


 梨夏ちゃんが「ばいばーい!」と言いながらお母さんのところへ行った。


「ふふっ、潮見も色々と頑張ってるみたいだな」

「うん、まぁ梨夏ちゃんも少しずつ色々なことを学んでいるみたいだね。ぼ、僕には敬語を使ってくれないけど……まぁいいか」

「団吉は優しくて頼りがいがあるから、潮見もちょっと甘えているのかもしれないな」

「そ、そうなのかな、まぁたしかに橋爪さんも梨夏ちゃんもなんか近いなって思うことがあるけど……」

「ん? 橋爪って、そういえば近づいてくる後輩がいるって言ってたような……」

「ああ!! そ、その後輩なんだけど、何もないからね!?」

「ふふっ、誰が来ても団吉は渡さないから、大丈夫だよ」


 絵菜がそう言って、僕の左腕に抱きついてきた。か、可愛い……と思ってしまう僕は彼女に甘いのだろうか。


「そ、そっか、まぁ僕も絵菜を守っていくからね……あ、もう少し見て回ろうか」

「うん、あ、また本屋に行かないか? おすすめがあったら教えてほしい」

「あ、うん、いいよ。じゃあ本を見に行こうか」


 それから二人で大きな本屋に行って、絵菜に本をおすすめしていた。絵菜も少しずつ読めるようになったそうで、僕は嬉しかった。

 二人でこうして出かけるのも、楽しいな。笑顔の絵菜を見て、僕も笑顔になっていた。

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